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えぴそーど 57

2人が互いの気持ちをようやく信じられた頃。

ようやく風の冷たさが彼等にも伝わった。



「寒くないかい?」

「少し…」

「中に入ろうか?」

「ええ」


2人は手を繋いで王宮の居間へと移動した。

侍女や侍従達にすら出会わなかった。


しばらくは誰もここへは来ない。

来たとしても、アリエッタが全力で阻止する。


そうアンドレアは宣言されていたのだ。


王宮の居間は当然、暖かかった。


2人はこれ以上近くに座れないくらいに近くに座っていた。

アンドレアに甘えるように見詰める紫紺の瞳は美しかった。


「アリエッタさんのお陰だな」

「そうなの?」

「そうだよ。侍女の身分で私に会いに来るなんて、よほどアリスの事を大切に思っているんだろうね?」

「そう、いつも私の側にいてくれて、心配ばかり掛けてたわ。でも、アンドレアさんのお屋敷にまで行ったなんて、知らなかったの。きっとお父様とルイがお許しになったのね…」

「そう聞いているよ…、ところで、」


だから、アンドレアはまたお願いをする。


「ねぇ、アリス。お願いがあるんだ」

「なに、アンドレアさん?」

「アンドレアさんは止めて欲しいな」

「そう?そうなの?だって、母はいつも父をデュークさんって呼んでたわ」

「そうだね、デュークさんって、響きがいいから私も好きだな。けど、アリスにアンドレアさんって呼ばれると、なんだか他人行儀で嫌なんだよ」

「じゃ、なんて呼べばいいの?」

「アデュって呼んで欲しい」

「アデュ?」


アリスは初めて聞く響きを綺麗だと思った。 


「ほら、アンドレアって、愛称が付けにくいだろ?だから、父と母にお願いして考えてもらったんだ。それで、2人で考えて付けてくれたのが、アデュなんだ」

「そうなの。ご両親に付けていただいた名前なのね?」

「そう。もう、こんな大人なって誰も呼んでくれないから、でもね。アリスには、そう呼んでもらいたいんだ」

「うん、分かったわ。じゃ、…」


また顔が赤くなる。

ちょっと恥ずかしいのだ。


「あ、アデュ、あのね、」

「うん?」

「アデュのことが、好きよ?」

「私もだよ」


互いの唇がまた、触れ合う。

そのキスは今日一日で何度目のキスになるんだろうか…。


慣れてきたアリスが少し大胆になっていくのを、アンドレアは感じていた。


「さぁ、アリス。君に渡したいものがあるんだ。受け取ってくれるかい?」

「なに?」


アリエッタが気を利かせて先に用意してくれていた箱だ。

差し出された箱は、アリスが思わず想像していたよりも大きい。


「開けてみて?」


アリスは箱を開けた。

そこには…、絵の具が入っていた。


「これは絵の具?」

「そう、アリスの瞳の色だ。その紫紺の瞳の色が欲しくてね。アルホートにはいいアメジストが取れるんだよ。そのアメジストを砕いて粉にして、この絵の具を作ってもらったんだ」

「出してみていい?」

「もちろん」


アリスは絵の具を自分の手の甲に少しだけ出した。

キラキラと輝く紫紺の色は今までの絵の具にはない輝きを放っている。


「綺麗…、これの為に、アルホートに行っていたの?」

「そう。これをアリスに使ってもらって絵を描いてもらいたかったんだ」

「絵?なんの絵かしら?」

「君だよ。アリスの肖像画が欲しかったんだ」

「どうして?私の絵を?」


今度はアンドレアが照れる番であった。


「笑わないかい?」

「もちろん、だわ」

「君にね、恋していたんだよ。君のことが忘れられないでいた。けれど叶わない恋だと思っていたんだ。君の肖像画を持っていれば、少しは楽になれるかもしれないと考えたんだ」

「アデュ…」

「だったら、絵の中の瞳の色は輝いていて欲しかったんだ。だから、この世で一つしかない紫紺の絵の具を作った」


子供のように、照れているアンドレアを可愛いと思う。


「だけど、アリスが側にいてくれるなら、絵の具は必要ない。でも、ね。持っていて欲しいんだ」

「ありがとう。わたしね、絵の具だと思わなかった。けど、凄く嬉しい!」


輝いているアリスの紫紺の瞳は、この絵の具よりも綺麗だと思う。


「もちろん、君への贈り物は絵の具だけじゃないよ?これからいろんなものをプレゼントしよう。君の好きなもの、みんなだよ?」

「まぁ、いいの?」

「いいよ。君の笑顔の為ならね、なんだってする。君の泣き顔は、嬉しいから泣いている顔だけでいいんだ」

「アデュ、私、こんなに幸せでいいのかしら?」


アンドレアの手がアリスの髪に触れる。


「もっと幸せになればいいよ。ずっと側にいるからね」

「うん、アデュ。ずっと一緒ね?私達、一緒になんでもするのね?」

「そうだよ、」

「だったら、お願いがあるの」

「なんだい?」

「私ね、デートがしたいの。一緒に街を歩いて、食事したり綺麗な場所をみたりしたいの」

「デートかい?」

「そう!それに、一緒に旅もしたいし、貴方と一緒に、いろんな事がしたいの」

「じゃ、うん…」


と、椅子から立ち上がり、アリスも立たせた。

アンドレアは咳払いをして、そしてアリスの前に跪いた。

それも、恭しくだ。


「アリス、私と結婚しよう。そうすれば全てが叶うよ。私の仕事はおそらく外交になるだろう。ルミナス中を回るし船に乗って他国にも赴く。君と一緒に何処へでもいこう。行った先で2人きりでデートしよう?君となら楽しいと思うんだ。きっと私となら楽しいよ?」

「アデュ、本気なの?」

「私は常に本気さ」

「私でいいの?」


彼はアリスの手を取り、口づけた。


「私の瞳には君しか映っていない」


そう言って立ち上がるとアリスの顔に手を掛けた。


「君の瞳には、私が映っているかい?」


2人の瞳が見つめあう。

紫紺の瞳は潤んだままで、赤紅を見つめる。


「私、貴方が好き」

「私もだ」

「さっきのこと、もう一度、言って?」

「何度でも。君が「はい」って言うまで言い続けるよ。アリス、私と結婚しよう?」


ゆっくりと頷くと「はい」と答えた。


「アリス、愛してる」

「アデュ、愛してるわ」


2人の唇が重なった。

その優しい感触に、アリスの心がときめく。

この人なんだ、と思う。

彼だったんだと。




やっと出会えたんだと、思った。







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