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えぴそーど 55

アリスは庭に出ていた。

部屋の中ばかりでは飽きてきたのだ。


それに、今は王宮に家族がいない時間であった。


丘の上程ではないが、王宮の庭も立派なものである。

花が好きだった王妃の為に、王が作った庭である。


その庭を眺められるように、椅子とテーブルが置かれている。


幼い頃、良く家族で過ごした。

父は母を愛おしいそうに見つめ、母は子供達に小言を言ったりした。

良く怒られた姉妹は、弟を甘やかす母を叱って欲しいと父に強請ったが、父はこういって断ったのだ。


「父は母を愛してるから出来ないな」


そんな父と母のような家族を作りたいと願ってきた。




アンドレアとならば、と思ってしまっていた。 




けど、また、振られちゃった…。

あ、違う。振られる前に失恋したんだ…。

何にも言ってない、伝えてないもの。

前よりもたちが悪いわよね…。




アリスは流れる涙を拭くことすらしなかった。





気づかなかったんだもの。

私って、なんて鈍感なんだろう。

あんなにときめいていたのに、あんなに楽しかったのに。

2人で話している時間は、特別だったのに。

どうして、こんなに…。

でも、もう、諦めよう。

アリエッタの言う通り、泣くだけ泣こう。

泣いたら、前を向いて歩こう。




涙を拭くように風が吹いた。





ヒラっと、風が花びらを運んできた。





季節はずれの花吹雪が舞った。







その花びらの向こうに…。



あっ…。





声がした。


「姫…」


アリスは目を疑った。

どうして、ここにいるのだろうか?

あれほどまでに会いたいと願っていた人が、どうして、ここに?


彼がいたのだ。


金髪は陽に輝いて、逞しい腕が自分へと差し出されている。

それは、もう直ぐに触れようという距離まで。

アリスに触れそうな程、近く…。


あの優しい声が聞こえる。

彼の手がアリスの頬に触れた。


「姫、いや、もう、アリスって呼ぶことを許してくれるね?」


そう言ってからアンドレアはアリスを抱きしめたのだ。


「アリス、」


初めての抱擁に、アリスの心臓は破裂しそうになる。

アンドレアの匂いが、温かさが、力強さが、全てがアリスを包み込んだ。

想いが溢れる。


「どうして、どうしてなの?」


アリスは戸惑いの声を弱々しく上げる。

急に抱きしめる力が弱くなり、再び頬に彼の手が触れた。

アリスの紫紺の瞳からは涙が零れている。

その涙をそっと拭うと、彼はアリスを見詰める。


「アリエッタさんが、知らせてくれたんだ。君が泣いているって」


彼の声が降ってくるように聞こえる。


「君を泣かせたのは、私なのかな?」

「だって、」

「アリス」


再びアンドレアがアリスを抱きしめた。


「夢じゃないんだね、アリスが私の腕の中にいる」

「夢?」


抱きしめられていて、それ以上は何も言えない。

そして、アリスの耳元に彼の声が届く。


「アリス。愛してるんだ。私は君を愛してる」

「え?」

「愛してるんだよ」


アンドレアは力強く抱いていた腕をそっと伸ばして、アリスとの距離を少し取る。

充分に互いを見詰め合える距離を。


「聞かせてくれるかい?アリスは私を愛している?」


見る見る間にアリスの瞳が潤んでしまう。


「好き、愛してるの、貴方が大好きなの」


自分を見詰めるその紫紺の瞳が愛おしい。


「良かった。じゃ、私達は、恋人同士だね?」

「ええ、そう、そうね?」

「じゃ、もう遠慮は要らない。そうだろう?」


ゆっくりとアンドレアの唇が近づく。

何が起こるのか、想像できたアリスの体が硬くなってしまう。

緊張を解す様に、アンドレアの両手がアリスの頬に触れる。

もう触れるほどの距離になる。

アンドレアが囁いた。


「ずっと、愛していくよ?アリス、ずっとだ」


ようやく、2人の唇が触れた。

それは初めての感触。

アリスは自分が溶けそうになった。

体中の力が抜けてしまった。

あ、と思わずアンドレアがアリスを抱きしめる。


「アリス、大丈夫?」


潤んだ瞳が、そう、紫紺の瞳が自分だけを見詰める。

アンドレアの体中に刺激が走った。

自分のモノにしてしまいたい…、その正直な気持ちが。



駄目だ…。



かろうじて、僅かな理性をかき集めて、アンドレアは思いとどまる。

そして、今にも崩れ落ちそうなアリスをしっかりと抱きしめた。


「離さないで、お願い…」


消え入りそうな声が届く。


「もちろんだ。もう、離さない」



秋の風が優しく吹いている。

少し冷たい風であったが、気にもならない2人。

そのままで互いを、その存在を確かめていた。




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