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えぴそーど 52

王宮には腫れ物に触るような空気が広がった。

これで、もう1週間だ。




驚き心配している父が声を掛けても、「気にしないで…」と扉越しの返事しかしない。

かろうじてアリエッタが中に入れるのだ。



居間では王と世継ぎがため息をつきながら、座っている。


「父上、姉様は俺にも会おうとはしないんです…」


ルイも言葉に元気がない。


「セーラがいれば、違ったのにな…」


セーラは第2子を身籠った。前回は楽だったのだが、今回はつわりが酷くベットから起き上がれない。

マリウスまでもやつれた状態で王に報告があったばかりだ。


「そうですね…、母上がいたら、もっと違ったでしょうね…」

「そうだな、男なんて役に立たんな」

「本当です」


苦笑いとなってしまう。


「姉様は父上と母上のような恋がしたいだけなのに、なんでだろう」

「そうだな、」


王は思い出す。

妻との出会いから、日々から、全てを。


「恋とは思うように始まらないものだな」

「ええ、」


王は息子を見た。


「お前は、どうなんだ?」

「俺ですか?…、いませんね。姉様の恋愛で手一杯ですよ」

「それも情けない話だ」

「すみません…」


また、苦笑いになる。


「ところで、ルイ。アリエッタの話は本当なんだな?」


アリエッタは王に、大まかな事実だけを知らせていた。


「はい、相手はアンドレア・ヴァルファール、アルホートから戻って来た子爵の跡を継ぐ予定の男です」


王は考える。

そこへアリエッタが現れた。

少し疲れた様子に見えるのは、気のせいではない。


王はこの侍女の苦労を思い、優しく話しかける。


「アリエッタ、すまない」

「いいえ、陛下。気に掛けていただかなくとも…」

「いや、今もルイと言っていたところだ。男なんて役に立たないとな」

「そうだよ、アリエッタ。姉様と喋れるのは貴女しかいないんだ」

「ルイ様…」


立ったままのアリエッタ。


「いいから、座って。エイミィ、アリエッタにお茶を」

「はい」

「いえ、そんな…」


恐縮する侍女に王が言う。


「今日はワシが許そう。アリエッタ、お茶を飲んで休め」

「申し訳ございません」


促されるように少し離れてアリエッタは椅子に腰掛けた。

アリスに掛かりっきりになっているアリエッタの為に、エイミィがお茶を入れる。


「すみません、エイミィさん」

「いいえ、飲むとホッとしますから…」


そんなアリエッタに王が問うた。


「アリスの様子はどうであった?」

「はい、ソファにお座りになったままです。おそらく、泣いておられたのではないか、と」

「そうか…」

「食事は?ちゃんと食べてる?」

「ルイ様、僅かですが、召し上がっております。ですが、これが続くと良くないかと」

「そうだよな…」


王は閉じこもってしまった娘のことを尋ねた。

それは分かりきった問いであった。


「アリスはそんなにも、ヴァルファールの息子のことを想っているのか?」


アリエッタは誠実に答える。


「私の目から見ても、はっきりと姫様が好意を寄せているのは分かりました」

「けれど、そいつは結婚するのだろう?」

「侍従の方も、そう仰っていたのですが、…」


アリエッタの言葉を待って、ルイが話す。


「彼は、もうアルホートからは戻って来ている筈だ」

「良く知ってるな?」

「昨日、スタッカードのサロンで聞きました」

「婚姻の話が出ていることもか?」

「そんな噂を…、当人が来ていれば、その場で問いただしたいところでしたけど、」


場の空気が重くなる。

また、アリスの片想いで終るのか…。


「ですが、陛下、ルイ様」とアリエッタが話し出す。


「なんだ?」

「なに?」

「私は、アンドレア様も、アリス様に好意を寄せているのはないか、と推測します」


アリエッタの発言に、2人は顔を見合わせた。


「そう、か?」

「はい、2人が仲良く話していらっしゃる所を拝見すると、そうとしか…」

「けど、婚姻の話が出ている。だろう?」

「…、はい」


王はルイに尋ねる。


「調べさせた方がいいか?」

「そうですね…」


アリエッタが王とルイを見た。


「いえ、陛下、ルイ様」


心を決めたアリエッタは王と世継ぎに願った。


「私にお任せいただけないでしょうか?私が、アンドレア様のお屋敷に伺って、聞いて参ります」

「お前がか?」

「アリエッタ、本気?」


2人は驚いたようにアリエッタを見る。


「はい。調べるとなると時が移りますし、いきなり陛下や殿下とお会いになるとなると、話が拗れるかもしれません。ここは私が伺った方が良いかと思うのです。陛下、よろしいでしょうか?」


暫し考えた王が言う。


「そうだな、ワシやルイが会うよりも、お前にならば、本音を言うのかも知れん」


ルイが頷いた。


「そうかも、知れませんね…」


アリエッタが言葉を続ける。


「アンドレア様が、私に本音を行っていただけるかどうか、自信がありません。しかし、アリス様がお可哀想で…。これ以上臆病になってしまったら、一生、お1人でお過ごしになりそうです」

「それは、弱ったな…」

「はい…」


王宮の居間は暫し無言になる。

アリエッタは王の言葉を待った。


「アリエッタ、頼む。アリスの力になってやってくれ。ルイ、それでいいな?」

「父上のお決めになった通りに。アリエッタ、頼んだ」

「はい、アリス様の為ならば…。それでは、アンドレア様に、会って参ります」


エイミィも安堵した。

3人の為に、温かいお茶を煎れた。








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