えぴそーど 50
グレイスの庭は秋の色に満ちていた。
「ようこそいらっしゃいました」
「伯母様、庭の色が綺麗だわ」
「ありがとうございます、もう、秋ですからね。葉も紅葉します」
「そうね、綺麗だわ」
グレイスはアリスを招きいれた。
既に何名かの人々がスタッカードの居間で寛いでいる。
中には顔見知りになった人もいた。
そして、珍しく若い女性達が華やかに場にいる。
「今日は、こちらにデビューなさるお嬢様達がいらっしゃるのですよ」
「華やかだわ。若いって、いいわね」
「あら、アリス様も充分に若いですよ?」
「どうかしら、ルイには年寄り扱いされているのよ」
「まぁ、ルイ様が?」
「ええ、お母様が私の年には2人の娘を産んでいたって…」
「それは年寄り扱いとは、違うのでは?」
「そうかしら…」
グレイスは静かに笑うと、アリスも釣られて笑ってしまう。
「アリス様、たまには女性同士で賑やかなお喋りでも楽しんでくださいませ?」
「ありがとう、そうするわ」
「では、ご紹介いたしますね?」
「お願いします」
グレイスはアリスを連れて賑やかな女性達の輪に加わる。
「皆様、姫様をお連れしました」
と、その中の1人がアリスに声を掛けた。
「姫様、私のこと、覚えてらっしゃいますか?」
そういわれて、アリスは彼女を良く見た。
確か、と思い出す。
「確か…、キャリーさん、でしたね?」
ルイの卒業パーティで出会ったアンドレアの相手の女性だった。
髪を今流行りの結い上げで纏め、動くと揺れるこれまた流行の髪留めをつけている。
「はい!覚えていただいて、嬉しいです!」
そう弾けるように言葉を出す彼女に、改めて好感を持った。
「もうお知り合いでしたか?」
「ええ、ルイの卒業パーティの時に、ね、お会いしたの」
「はい!」
「そうでしたの。なら、心強いですわね」
「ええ、伯母様。キャリーさん、私も皆様と一緒にお話をしてもいいかしら?」
輪から声が上がった。
「ぜひ!ね、みんなもいいでしょ?」
「「「もちろんです!」」」
すかさずアリスの席が用意されて、飲み物が供される。
「姫様、ずっとお伺いしたいことがあったんです」
「あら、何かしら?」
「そのドレスはジェシカの店の特注って、本当ですか?」
乙女の瞳が輝いている。
「特注、って、えーと、そうね…」
常に全てが特注であるアリスには、その意味が分からなかった。
質素な服を着ていたときでさえ、その服はアリスの為だけに仕立てられている。
「ジェシカが作ってくれた服なのは、本当よ」
「わぁー!凄い!」
「ちょっと、ルディ!はしたないわ!」
「だって、ジェシカが姫様の為だけに服を作るのよ!」
「当り前じゃない、姫様は姫様だもの!」
彼女達もそれなりのドレスを身に纏っているが、やはり、違う。
「ねぇ、」
とアリスは少し打ち解けた口調で話し出した。
「今、ルミナスでは何が流行っているのかしら?」
「なに、ですか?」
「そう、私ね、余り外に出かけないから知らないの」
「姫様ですね…」
「うん、姫様だよね」
苦笑いになる。
「よく出かけるの?」
「ええ、この仲間で、カフェ・マリーに行ったり、ドミニバにチョコをね」
「そう!ドミニバのチョコは最高!」
「もう、思い出しただけでも、ああ!」
「また行かない?」
「うん!」
「そんなに美味しいの?」
「もう!とろけます…」
「絶対に、行こうね!」
乙女達の結束は固そうだ。
アリスもそのチョコを食べてみたいと思う。
けど、独りは嫌だわ、と思った時に、ふと、アンドレアの顔が浮かんだ。
その時だ。
「けど、」とキャリーが呟いた。
「姫様は、アンドレア小父様と良くお出掛けになられてるんですよね?」
その名前を聞いただけで、言葉が戸惑ってしまう。
「そ、そうでもないわよ…、ただ、一緒に、ね」
「一緒に?」
絵の具を買いに行っているとは言えない。
「こちらで、お話するだけなの」
「そうなんですか…」
「けど、どうして、そんな事を?」
「だって、小父様ったら、ね。姫様みたいに優雅にならないと嫁ぎ先がなくなるぞ、って。意地悪なこと言うから…」
アンドレアの冗談を思い出して、アリスはクスっと笑った。
「アンドレアさん、時々、意地悪よね?」
「そうなんです!」
「ねぇ、アンドレア様って、あのアルホートから戻ってらした?」
「そう。素敵な小父様でしょ?」
「憧れるわ…」
「あの方みたいな男性と結婚したいのよね…」
乙女達が次々にアンドレアを褒め称える。
アリスの心が少しチクっとした。
なに、これ?と思ったけど言葉には出来なかった。




