表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/81

えぴそーど 5

その父の誕生日である。

勿論、国としての行事が行われる日でもある。


華やかな空気がルミナスを覆った。


王妃エリフィーヌが亡くなってからは自粛されていた為に、今日の様な華やかな行事が行われるのは久し振りであった。

そのために国全体がお祭り騒ぎに飢えていたのだろう。

あちらこちらで賑やかに祝杯が交わされている。


アリス17歳、ルイ14歳。2人とも王族として臨席をする。

好天にも恵まれ浮かれた空気が国中を包み込む。


そんな特別な日であったが、夜遅くまで組まれていた日程も無事に終った。


だが、王を称える歌がまだ続いている。城の前の広場では集まった国民が飲み歌い食べている。

それは自主的に残った民達が浮かれて騒いでいるのであった。



その様子を城の自室の窓から見ているポポロが、ホッと胸を撫で下ろしてた。


コンコン。

ドアがノックされる。アンリだった。


「ポポロさん、お疲れ様です」

「あ、アンリ殿。いやー、なんとか終りました」

「本当ですね。で、飲みませんか?」


アンリはワインとグラスを持って現れた。


「いいですね、頂きます」 


赤いワインがグラスに注がれる。ルミナスのワインは美味しいと評判だ。

2人は乾杯をして互いに飲んだ。


「ううん、美味しい。仕事の後は特に美味しいです」

「良かったです。けど、やはり式典やパーティなどの進行はポポロさんの演出が、間違いないですね」

「アンリ殿に褒められると、嬉しいですよ」 


2人は慣れた会話を続ける。


「あの《ルミナスを称える声》が一斉に歌われた瞬間には、もうね、胸が熱くなりましたよ」

「そうですよね、そこにタイミング良く、陛下とお子様達がバルコニーに現れた。あの演出には感動しました。さすがポポロさんです」

「まぁですね、上手く行きました。けれども、ほら、カナコ様の肖像画を掲げていた人達がいたでしょう?」

「ええ、いました」

「あれが決定的でしたね。私も涙が止まりませんでした…、お恥ずかしい」

「いや、私もです」


そうだったのだ。


《ルミナスを称える声》は王の誕生日には民が歌う歌としてルミナスでは有名な歌である。

国歌ではないが、国民で知らないものはいない。

その歌に合わせて歌う民の手によって、今は亡き王妃の肖像画があちらこちらで掲げられていたのだ。


これには、多くの者が涙した。


王ですら、だ。

本来ならばバルコニーに出るとすぐに民に言葉を掛けるのだが、今回は喋り出すまでに長い時間を要した。

何かを言おうとすれば、目が熱くなってしまう。泣かないために時間が必要であった。

隣に立っている子供達は、既に目頭を押さえて涙を拭っている。


『デュークさん、泣かないでね』


妻との約束を守りたかった王は、堪える為に時間を取り、ようやく、民に話しかけた。


「皆、今日は祝ってくれて、ありがとう。素晴らしい日になった。それに、私の妻エリフィーヌの姿も、あちらこちらに見える」


民は静まり返って言葉の続きを待った。


「エリフィーヌが亡くなって4年が過ぎた。だが、エリフィーヌは生きていたんだな。俺はそれを皆に教えられた。皆の心の中に、あいつは…、エリフィーヌは生きている。ありがとう、私に教えてくれて感謝する。皆の中にエリフィーヌが生きている限り、ルミナスの加護は永遠に続くだろう」


歓声があがる。大きな声に混ざって、泣き声も聞こえた。

皆が王妃を愛していたのだ。


「私の命をルミナスに捧げよう。今日、私に教えてくれた賢き民の為に、ルミナスの為に!」


割れんばかりの歓声が起こった。

地上も地下もなく、ただ、ルミナスの大地に生まれ育った民が、一体になって、王の言葉に応えた。




「いやー、あれには、胸が熱くなりました」

「ええ、陛下にあんなにも力強く演説をされると、ルミナスの人間としてやらなきゃいけないって気になります」

「まったくです。我々も頑張りましょう」

「はい」


2人の杯は重なっていく。 


「しかし、妹が生きてたら、間違いなく惚気てたんでしょうね…」

「ええ、間違いないでしょうね。きっと、ポポロ、陛下って素敵でしょ?とか言ったんだと思いますよ」

「その程度なら、マシでしょう。私には、きっと、お兄様のところよりも私とデュークさんの方が仲が良いのよ!て言ったでしょうね…」

「懐かしいですね…」

「本当です…」


まだ4年なのかもしれない。

2人はしんみりとしてしまう。





この日の王の演説は、後々までに語られる事となる出来事であった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ