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えぴそーど 49

秋の気配が濃くなって来た。

暫くすると空は冬を連れてくるのだろう。




アリスは丘の上で絵を描いていた。

アンドレアと選んだ沢山の絵の具に囲まれていると、幸せな気分になる。


何を描こうかと迷うことは無かった。

色とりどりの花の絵を描くことに決めていた。

絵の具の種類が豊富なのでグラデーションが深く描ける。

すると花が立体的に見えるのだ。




きっとカフェ・マリーに飾ったら素敵だわ。

けど、最初の一枚はアンドレアさんに差し上げよう。

だって、きっと…、きっと、喜んでくださるもの。 




アンドレアと選んだ絵の具が使いやすいと感じるのは、何故だろうか?




アリスの筆は進んでいく。

暖かな色合いの絵が仕上がっていくのだ。


「アリス様、休憩しませんか?」

「そうね、マーサ」


マーサがお茶を運んできた。 

彼女はアリスと年も近い。そして、侍女ではなく丘の上の管理を任されている。

なので、アリエッタ達よりも少しだけくだけた物言いをする。


「アリス様、この絵、いいです!」

「そう?」

「はい。いつもの絵も素敵ですけど、この絵はもっと素敵です」

「あら、嬉しいわ」


アリエッタが用事でいないので、マーサが話し相手になってくれる。


「なんだかワクワクしてドキドキします」

「ほんと?」

「はい!色が楽しそうだからかなぁ?」

「そうかもね、」


その色達を選んでいた時のことを思い出してしまう。 


「なんだか、姫様、嬉しそう?」

「え?そう?」

「はい!」


アリスはニッコリと笑った。


「そうね、嬉しかったのよ。とっても」


アリスの瞳が輝く乙女のものになっている。








グレイスは夫とお茶を楽しんでいた。

いつもはサロンとして色々なお客を持てなす庭も、今日は主を癒すかのようだ。


「エディはそんなに行きたがっているのか?」

「そうなの、ほら、アンドレアさんがアルホートの方だからね、色々とお話を聞いたんだと思うわ」

「うーん…」


今日の話題は2人の息子のことである。

エディは曽祖父に似て行動が大胆なところがあった。


「けど、アルホートに行って何をしたいんだ?」

「なに、じゃないみたい。あの子ったら直感が告げるんだ、っていうのよ」

「さすが、お爺様の曾孫だな…」

「そうね、お爺様がいらしたら、もっと唆していたと思うわ」

「想像は付くけどね…」


彼らの息子は、アルホートへ行きたいと言っている。

もうそろそろアンリの仕事を手伝う、そんな年頃になったのに、だ。


「止めても、無駄か?」

「子供じゃないんだもの。止めたら黙って行くだけよ?」

「そうだな」


アンリは苦笑いになった。


「スタッカードの家の事など、考えていないんだろうな。あいつは」

「そうね…」


グレイスは愉快そうに笑った。


「ねぇ、あなた。もしかしたら私達の孫は初めて会った時にはいい大人だったりするかもしれないわね?」

「なんだい?それはエディがアルホートから帰って来ないで、ってことかい?」

「そうかも、フフフ…」


この夫婦はグレイスの方が肝が据わっているのだ。


「アンドレア殿も、そんなつもりは無かったんだろうけど、弱ったことをしてくれたよ…」

「あ、そうそう、アンドレアさんと言えば、アルホートに戻っていらっしゃるでしょ?」

「らしいな」

「お見合いのお話があるって噂、聞いた?」

「ああ、彼の父君からね」

「私、思うんだけどね」

「なに?」

「アリス姫とアンドレアさん、想い合っているんじゃないかしら?」

「え?」


アンリは心底驚いた。


「そうなのか?」

「そう見えるのよ。こちらにいる時も、お2人で仲良くお話されているの。だからアルホートに戻ってお見合いするなんて、不思議で仕方ないわ」

「そう、だな…」


けれども、アンリにはアンドレアの気持ちが少し分かる気がした。


「相手が王族となると、色々と尻込みしたくなるのかもな。アリス姫も箱入り娘なままだから気持ちを伝えるなんて出来ないんだろうし、彼もヴァルファールの家を継ぐとなると早々に婚姻を纏めないといけないだろう?彼も彼なりに考えたんじゃないのかな?」

「だったら殿方からアプローチすればいいのに、でしょう?」

「そうだね、グレイス。私の様に、だろ?」

「まぁ、あなた…」


アンリの手がグレイスの手に触れた。

妻がいてくれればそれでいいと、あの時思ったのだった。

そう、グレイスさえ側にいてくれたなら、それでいいと。


「上手く行くときは、どんな邪魔が入っても上手くいくさ。きっとエディもアルホートでいい経験を積んで帰ってくる、そうだろう?」

「そうね、」

「息子の事は、私達が見守ればそれでいい。エディの人生はエディが決めるさ。それに、姫の事は陛下と殿下にお任せしよう」

「ええ、あなた」


2人の間には吹き抜ける風すらなかったようだ。









アンドレアがアルホートに行ってから、1ヶ月が過ぎていた。

絵に集中していたアリスには、長いと感じない時間であった。


「ねぇ、アリエッタ…」

「はい、アリス様」

「アンドレアさんは御戻りになったのかしら?」

「そうですね…、使いの者を出しますか?」

「ううん、いいわ。きっと連絡があると思うもの。一緒に行こうって…」

「…」


アリエッタはアンドレアの侍従との話を言い出せなかった。


「そう、そうだわ。明日はグレイス伯母様のところへ伺うわ」

「はい、では連絡して参りますね」

「お願い」

「畏まりました」


楽しそうなアリスの仕草に、アリエッタは複雑な思いを抱える。



噂が本当でなければいいのに、と。






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