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えぴそーど 43

卒業パーティが始まっている。





ルイと踊り終えたアリスは、人混みの中で逸れてしまった。

まぁ逸れたといっても学院の中でのこと、心配は要らない。



けど、ルイったら、慌てて何処にいったのかしら…。



最近ではまったく行動が読めない弟に、姉は寂しさを募らせるのだ。



えっと、…、きゃ!



振り返った拍子に誰かにぶつかる。


「あ、ごめんなさい!」

「いえ、こちらこそ…」 


互いに目が会った。 

アリスの目の前にいたのは、金髪の、腕が逞しい、あの男性だった。


「あなたは、たしか…」


そう言ってから、アリスは後悔した。

あんなに質素な身なりだったもの、気付いてなんかいないわ。

そう思ったのだ。


だが、男性はしっかりとアリスを見詰めて尋ねる。


「あの時のお嬢さん、ですよね?画材店で会った?」


あの赤紅の瞳が眩しかった。

アリスはちょっとはにかんで、返事をする。


「はい、そうです。でも…」

「どうしました?」

「良く私だって分かったなぁって思ったんです。あの時は、だって」

「そうですね、実に質素な姿でしたね。けど、言ったでしょう?美しいお嬢さんだと。とにかく、また、会えて嬉しいです」

「私もです。あの、私、お礼が言いたかったんです」

「礼、ですか?私に?」

「はい、いい絵が描けたんです。それは、あの時の、あなたの言葉のお陰です」

「そうですか、それは良かった。えっと…」


男性はアリスの名前を呼ぼうとして、黙ってしまう。

すでに顔見知りであったせいだろうか、名前も知っていて当然のような気がしていたみたいだ。

彼はスマートに会話を続ける。


「あ、そういえば、自己紹介がまだでしたね?私はアンドレア・ヴァルファールと申します」


アリスは一瞬戸惑ったが、正式な名称を名乗った。


「アリス・カナコ・ルミナスです」


アンドレアの目に一瞬驚きが表れた。

だが、直ぐに平常に戻る。

先程と何も変わらない調子でアンドレアは話を続けた。


「アリス様、それじゃ、また新しい絵に取り掛かるのですか?」


それでも、敬称が付くのは仕方がないことである。

少し寂しい気持ちをアリスは抑えた。


「そうですね…、しばらくは描かないと思います。いえ、描けないといった方が正しいかも知れません」

「描けない?」

「今は描きたい気持ちになれないんです。気持ちを、全部入れたから…」

「そんなに思い入れがある絵、だったんですね?」

「はい、そうでした…」


その時、アンドレアの名を呼ぶ女性が現われた。


「アンドレア小父様!」

「キャリー、どうしたんだい?」

「どうした、じゃないわ。一緒にいてくださるって仰ったのに…、あ」


アリスの姿を認識した女性は直ぐに畏まって挨拶をした。


「申し訳ありません。姫様とは知らずに…」


おそらく今年度の卒業生なのであろう。

可哀相に驚きの余りにお辞儀したままで顔を上げられないでいる。

アリスは弟と同級生であろうその女性を好ましく思った。


「気になさらないで下さい。では、アンドレアさん。失礼します」

「はい、またお会いできることを、願っております」


アンドレアの瞳は優しかった。


その瞳から離れて、アリスは戻るべき場所に戻る。

それは、父と弟の側にある自分の席であった。









学院を卒業したルイは城にこもる事が多くなっていった。


たまに帰ってきては一緒に食事をするのだが、段々と王になるべく成長していくのが分かった。

そんな食卓には少しの変化があった。


「ねぇ、姉様。今度一緒にスタッカートのサロンに行きませんか?」

「グレイス伯母様の?」

「そう。最近色々とアンリ伯父上にお世話になっているんだけど、グレイス伯母上が一度姉様を招きたいと言って下さっているんですよ」


娘を気遣う余りに、娘を出不精にしてしまっている父が、息子に尋ねる。


「グレイスのサロンか?」


息子は父の問いに、少し咎めるような口調で答える。


「ええ、きっと若い娘が家に閉じこもってばかりは良くないと、気にして下さっているんですよ」

「まぁ、そうだが…」

「けれど、その言い方じゃ、まるで私がルイより年下のようね?」

「その様なものです。グレイス伯母上のサロンならば安心して姉様を送り出せますからね」

「ワシも行こうか?」

「父上、駄目です」

「ルイ、そんなに直ぐに言わなくても、いいだろう?」

「父上、」


ルイは年老いた父をたしなめる。


「姉様はもう19歳ですよ?母上が姉様の年の時には2人の娘を産んでいたんです。だから、こんな過保護に育ててしまった私達が、ちゃんと責任を持って伴侶を探さないといけないんです」

「ルイ…、お前、そんな…」


アリスは思わず笑ってしまう。


「どうした?」

「だって、お父様ったらね、ルイに怒られて嬉しそうよ?」

「ワシが?嬉しそうか?」

「そう、ルイもそう思わない?」


ルイは少し首を捻って考える。


「そう?姉様、俺にはわからないなぁ…」

「まぁ、そういう事にしておくわ」

「とにかくです。明日にでも一緒に出かけましょう?いいですね、アリス姉様」


アリスは父を見た。


「お父様、久し振りにグレイス伯母様のお顔を見てくるわ」

「ああ、いいよ。けど、気をつけるんだぞ?」

「はい」


こうして、アリスはルイと一緒に出かけることになった。




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