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えぴそーど 37

アリスが丘の上を降りた頃。




セーラが妹を訪ねてきた。

屈託なく姉の里帰りを喜ぶアリス。


「お姉様!なんだか綺麗になったわ?でしょ?」


姉は妹の変化に気づいた。

いい方向へと心が動いていることに安堵する。


「姉様、ジュリアンは?」


可愛い甥がいないことに、アリスが尋ねた。


「今日はお留守番よ。お義母様がね、見てくださってるの」

「そうなの?残念だわ。私、丘の上にいたから全然会ってないんだもの」

「いつだって会えるわよ」


そして王宮の居間で姉妹は語り合う。


「アリス、落ち着いたみたいね?」

「うん、姉様。心配掛けてごめんさい」

「いいのよ。大切な妹のことだもの。それで、アリスはどうするの?」

「どうする、って、どうもしないわ。だって私がスティーヴさんを好きなだけで、彼は私の事なんとも思ってないんだから」

「じゃ、何も言わないの?」


アリスは下を向いた。 


セーラは言葉を待つ。

言葉が纏まったアリスは、姉を見て言うのだ。


「スティーヴさんにね、絵を描いたの。それを差し上げて、それで、その時に気持ちを伝えたいの。ねぇ、姉様?」

「なあに?」

「私、そうしても、いいわよね?」

「もちろんよ。大丈夫よ」


姉にそう言ってもらえると、安心する。

ちょっとだけ怖かったのだが勇気が出てくる。


「アリス、じゃ、護衛はもう終わりにしても大丈夫ね?」

「うん。アリエッタがいるから、大丈夫」


けれども、いつもまでもアリエッタが護衛って訳には、そうはいかないのよ?


セーラは思ったが、言葉にはしなかった。

今言うべき言葉ではなかったからだ。


セーラは穏やかに話を続けた。


「アリスが元気になって良かったわ。じゃ、弟のお願いを聞いて上げて欲しいの」

「ルイの?」

「そう。ルイの卒業パーティのパートナーになってあげて?」

「私が?誰かいるんじゃないの?」

「聞いてないの?ルイの揉めた話を?」


アリスは戸惑う。

全然知らなかったからだ。

やっぱりね、とセーラは事情を説明した。


「まぁ、ルイ、大変な思いをしたのね?」

「そうなのよ。お相手の女性、相当なやり手だったみたいね」

「凄いわ」

「けど、直ぐにボロを出す程度の女性で良かったわ」

「まぁ、ね…」


そう思うと、アリスに興味がないらしいスティーヴはまともな人間なのかもしれない。


「アリス、いいでしょ?」

「ええ、弟のためなら出席するわ」

「ありがとう」


そういったセーラはアリスの顔を見た。

そして、優しく告げる。


「いい顔してるわ」


「え?」とアリスは驚いた。


「アリス、貴女、綺麗よ?気づいてた?」

「もう!姉様の方が綺麗に決まってるわ!」


セーラはアリスの手を握って、言葉を続ける。


「ううん。アリスの方がね、綺麗よ。だから、いい?これからは自分を磨きなさい。着る物にも身に付けるものにもよ?」

「けど…」

「国の王女が美しくしなくて、どうするの?貴女はその地位にいるのだから、ちゃんとしなさいね?」


幼い時から姉の真似をするのが好きな妹だった。

姉が綺麗なドレスを着れば着たいと思ったし、姉がリボンを結べば結びたいと思ったものだ。

自分がしたいのではなかったのだ。

だから、姉が嫁いでからは絵の具で汚れるからと質素の服装でも構わなかったし、髪もアリエッタに注意されなければ下ろしたままで気にもならなかった。


「時々、で、いいでしょ?」

「それじゃ駄目よ?特に、スティーヴさんに会う時は、そんな格好じゃ駄目。ちゃんとしなさい」

「う、うん」


姉の迫力に押されて、アリスは頷いた。

仕方がないわね、と姉は妹に言い聞かせる。


「ねぇ、お母様はいつもどうしてらしたか、覚えている?」

「いつもお綺麗だったわ」

「そうよ、私達の自慢のお母様だったでしょ?」

「うん」

「見習わないといけないわ。ね?」

「そうね、わかった。そうする」


「じゃ、」といって立ち上がった姉は、妹を引っ張って立たせた。


父から頼まれているのだ。

丘から帰ってきたアリスが何かを吹っ切った事を感じた父が、セーラに頼んでいたのだ。


「ジェシカの店に行きましょう。今日は借り切ったのよ。ドレスを何着仕立てても構わないって、お父様が仰ったわ」

「え?いいの?」

「もちろんよ。楽しみね、ワクワクするわ」


ジェシカは、あのアリの娘だ。

アリもジョゼが亡くなってから数年後に亡くなっていた。

ジェシカは店の名前を「アリの店」としたままで跡をついだ。

しかし今では、皆がジェシカの店と呼んでいる。

その内に店の名前は変わるのかもしれない。

だが、王妃が愛した店であることには変わらない。

そして、その店内はその当時の華やかさを残したままでいた。


華やかな店は姉妹の心も華やかにする。

姉妹はその店で何着ものドレスを注文し、ついでに装飾品や靴などを注文した。


「お姉様、楽しいわね!」

「そうよ、これはね女の子の特権なんだから、ドンドン使わないとね?」

「そうする!」


その日、王家からの依頼のドレスは…、10着を越えた。





後日にその話を聞いた王は、やることが極端だと、亡き王妃に似た娘達の行動を苦笑いした。





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