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えぴそーど 28

「弱ったな…」


城の執務室で王は独り言を漏らす。


彼は気に掛けているのだ。

それは息子に言われて、距離を置いて見守っていくつもりだった2人のことだ。



彼の大切な娘は嬉しさで華やいでいたのに、最近では随分と暗くなっている。

気づかれまいと家族の前では無理に明るく振舞っているのだが、分かってしまう。

アリエッタの報告によると、1人きりの時には塞ぎこんだようになるらしい。


娘は、父には本音を見せない。

「どうした?」と尋ねても、だ。 

「何が?」と答える。

そうなると王はそれ以上は言えない。


すると娘はニッコリ笑って言うのだ。


「変なお父様だわ」 


どうしても、それ以上のことを聞けないでしまっている。

娘に関しては臆病な父でしかないのだ。



そして、王は思う。




俺はあの男と話さなければならないのか?




そうだな、と思う。

娘に聞けないのなら、相手に聞けばいい。

そう思いキッカケを探っていたのだが、掴めずにいた。

だいたい彼と2人になる事がないのだ。


その位に彼は王家とは距離をおこうとしているのだろう。



真面目で誠実である事は間違いない。

常にアリスを気遣い、警護をしてくれている。

娘の相手としては合格でいいだろう。




なのに、2人の様子が変なのだ。




娘を溺愛する心配症の彼は、思いあまってスティーヴの行動をポポロに調べさせた。

本来ならば、このような仕事はアンリが得意なのだが、この所彼はルイに掛かりっきりのために忙しい。

なので、もうそろそろ役職をアンリに譲って引退しようと表明しているポポロは、快く引き受けたのだ。


そのポポロを待っていたのだ。

そして、報告に訪れる。


「陛下、あの男ですがね…」


いきなりの、あの男、である。


「どうなんでしょうかね、いったい、あの男、どう言うつもりなのでしょうか…」


王は苦笑いだ。


「それが分からないから、お前に調べてもらったんだぞ?」

「ああ、そうでした。申し訳ございません。しかしですね、あれじゃ、アリス様がお可哀想です」

「アリスがか?」


ポポロの報告はこうだ。


怪しい所は何もない。女の影など何もないのだ。

母親の勧める縁談も、にべも無く断っている。

毎日、父の仕事の手伝いもこなしアリスの護衛もこなしている。


それだけだ。

それだけなのだ。


「なら、真面目でいい青年になるな…」

「しかしです。アリス様に気がないなど、何を考えているのやら…」


ここにもアリスのことになると馬鹿振りが発揮される人間がいた。


「その気がないなら、一緒にお茶を飲んだり、寄り道をしてみたり、しなければ良いではないですか?アリス様だって、にこやかに話が進めばどこかに希望を持ってしまいますよ…」

「まぁそういうことだ。思わせぶりな態度は、どうか、だな…」


ポポロは軽く頷いて、報告を続ける。


「彼は古くからの友人に、いずれガナッシュに戻るから、いつでも遊びに来て欲しいと言っているそうですよ」

「戻るか?」

「はい、戻ると」


王は思わず壁の絵を見た。

妻が、いるからね、と言った場所。

アリスが描いた絵である。


カナコなら、どうしたんだろうか…。


やはり父親だ。娘の恋愛のことには不器用になる。


「なぁ、ポポロ」

「はい、なんでしょうか?」

「俺がスティーヴと話せば、なにか変わるのだろうか?」

「話すとは?」

「そうだな、このルミナスで地位と名誉を保証すると言ったら、留まってくれるだろうか?」


ポポロが諌めるように王の名を呼んだ。


「陛下…」

「いや…、そうではないな。いくらアリスのためだからといって、それをやってはいけない。すまない、ポポロ。忘れてくれ」

「はい、勿論です」


王は苦笑する。


「親と言っても、何も出来ないものだ」

「そうですね、特に父親は娘のことは、なにも…」


自分にも娘がいるポポロは親身に発言する。



愛情というものは、湧き上がるものだ。と王は自分のことを振り返る。

妻がいてくれさえすれば、何も要らなかった。

彼女がいてくれるから、平然と王として振舞えた。



カナコ、お前だから俺は愛したんだ。

お前だって俺だから付いてきてくれたんだろう?



絵の中の妻が頷いた気がした。


「なぁ、ポポロ。もし、奴がアリスを少しでも愛おしいと思う気持ちがあるならば、違っていたんだろうな…」

「そうですね。そう思います」

「アリスは、泣くだろうな」

「そうですね…」


それでも、王は思う。





アリスの悲しむ姿など、見たくないものだ。

なんとかならんものか…。





そう思い、王も、ポポロも、また沈み込んだ。






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