えぴそーど 26
時は過ぎていく。
スティーヴがルミナスに戻ってから5ヶ月が過ぎている。
魔物征伐が終ってから数ヶ月が過ぎている。
この短い間にも、ルミナスは変化していた。
議会では正式にルイ・デューク・ルミナスが世継ぎと承認され、彼は王太子としての身分と称号を得た。
4ヶ月後には学院を卒業し、その後は王政を引き継ぐべく行動することになる。
これからの事を考え、城の中にはルイの為の居住区間が作られる事となった。
そこは以前父と母が結婚する前に住んでいた空間。
緊急時の対応など、やはり城の中に居住空間があるのは便利である。
だが、ルイは生活を王宮で行うと宣言していた。
王と姉のことが心配だったのだ。
そして、セーラに子が生まれた。
王の初孫は男の子であった。
セーラの体調は早くに回復し、王は生まれて直ぐの孫との対面を果たした。
「お父様、ジュリアンよ?」
「おお、良い名だな」
「ありがとうございます。セーラと2人で考えました」
「マリウス。お前も父親としての顔が出来てきたな?」
「そうですか?」
セーラは抱いていた我が子を父に渡そうとする。
「ほら、お父様。ジュリアンを抱いて?」
「おお、やはり生まれた直ぐは小さいな?」
王は小さい孫をそっと抱かかえると、その顔を見る。
どこか妻に似ていると思ったが、言葉にはしなかった。
「うん、男の子は母に似るというが、ジュリアンは父に似ているな?」
緑の髪に赤紅の瞳。
そんなジュリアンが祖父を見て笑う。
「可愛いいものだな…」
独り言のように呟いた。
マリウスが義父を気遣う。
「義父上、私は義父上に似てると思ったのですが、どうでしょう?」
「そうか?」
「けどね、お父様。昨日はビクラードのお義父様に似ていたの。不思議ね?」
「小さいうちは変わるからな。お、また笑ったな?」
充分に孫の顔見た後に、それでも名残惜しそうに、王は娘に孫を渡す。
「そうか…、孫は可愛いな」
「これからは頻繁に伺うわ」
「無理をするな。公爵に悪い」
「義父上、いいんです。父がそうしろと言ってますので」
セーラは息子を夫に渡すと、父の手を握った。
「お父様、ジュリアンを可愛がってね?」
「ああ、分かっている」
「いずれアリスにも子供が生まれるわ」
「かも、知れんな」
「もう、お父様ったら…」
王は苦笑いになる。
最近の彼はそんな笑いが多くなっているのだ。
「お前の言いたい事は分かっている。ルイにも釘を刺されているんだ」
「あら、ルイが?」
「そうなんだ、アリスの恋を邪魔するなとな…」
「まぁ」
とセーラをマリウスが顔を見合わせる。
「セーラ、驚くぞ。ルイの奴、時々カナコみたいな口を利くようになった」
「ルイが?」
「ああ、カナコの子供だから似るのは当然なんだろうが、…、愉快だ」
「それは良かったわ」
「俺は幸せだな?」
「そうよ?立派な息子に、気立ての良い娘達。それに、利口な孫までいるんだからね?」
とセーラは冗談めかして言う。
「ああ、気が利く婿もいるぞ?」
「義父上、」
「マリウス、これからもセーラを頼む」
「はい!今までよりも幸せに致します」
真面目なマリウスの精一杯の惚気である。
「まぁ、あなたったら…」
「いいじゃないか、セーラ。私達が幸せなら、ジュリアンも良く笑うんだから」
「そうね、ありがとう」
赤ん坊はミルクの匂いがする。
その匂いは王宮に幸せを運んでくる。