えぴそーど 24
しばらく後に、城下街郊外で魔物征伐が行われた。
「陛下、この辺りがよろしいかと」
学院長のグランガが王に伝える。
王はメンバーを見渡した。
ルイ、スティーヴ、マリウスとその配下の15名だ。
今回は王とグランガは参加しない。もしもの場合の為に控えることになっている。
王は息子に尋ねる。
「じゃ、いいな?」
「はい、父上」
この日の為に、このメンバーで連携を取ろうと入念に練習は行ってきた。
だが、実践はこの若い彼等にとって初めての体験となる。
「グランガ、やれ」
「は、では!」
グランガが魔法を放った。
ドーーン!と音が空に響く。
やがて空に黒い霧がかかる。
魔物の微粒子が発生し、それが固まって魔物になるのだ。
「来た」
「ああ、現れる」
「いくぞ?」
ルイはマリウスに確認を取る。
マリウスの表情が引き締まった。
「は!」
「「「「「は!」」」」
それぞれに声を上げ、魔物が形になるのを待つ。
黒が濃くなり、魔物が姿を現した。
1つ、2つ、3つ。
最近では魔物が少なくなったとはいえ、今回は大型の魔物が3匹現れる。
「いいか、行くぞ!隊形は3!」
「「「「「了解!」」」」」
ルイの声に全員が答える。
3匹の魔物に3隊に分かれたルイ達が、同時に襲い掛かる。
ドーーーン!と音が3つ。
ぎゃーーーーー!と叫び声が響く。
焦げた匂いと煙の匂いがする。
その煙の中に、まだ生きている魔物がいた。
思わずマリウスが叫ぶ。
「しまった!」
1匹が逃げ出そうとする。
物凄い勢いで手薄な方向へと走り出した。
地面を蹴るたびに、ドン!ドン!ドン!と足音が響く。
巨体だ。
逃がすわけにはいかない。
ルイの大きな声がした。
「俺が、しとめる!」
彼は母譲りの浮足で素早く魔物に追いつき、父譲りの力強い魔法でトドメを刺す。
激しい雷が魔物を直撃した!
ドドドーーー-ードーーーン!
…、ワァァアアアア!
一瞬の静寂から、歓声がおきる。
「気を緩めるな!次が来る!」
王の叱咤に、皆の顔が引き締まった。
「待機!」
ルイの指示が響き渡る。
王の言葉通りに次の塊が魔物に変化していく。
先程よりは小さいが数は50を越えそうだ。
「ここからは、作戦が物をいいますね?」
離れて見ているグランガの言葉に王が頷く。
「ルイがどう出るか、楽しみだな」
「はい」
現場では、ルイの声が響く。
「隊形、9へ!」
隊の配置が変わる。
一斉に魔物を囲むように円の配置になった。
「囲むか…」
「互いの魔法がぶつからなければいいのですが…」
「そうだな…」
その時、ルイとマリウスが浮かび上がった。
互いに目で合図を送り、同時に地上の魔物へと魔法を放つのだ。
ギャアアアアアーーーーー!
トドメを指された多くの魔物達の叫び声が一斉に上がる。
だが、魔法を除けた魔物達が外へ向って逃げ出す。
方向がバラバラに幾つもの魔物が走り出したり飛び上がったりしていく。
「逃がすな!」
マリウスの指示を受け、魔物目掛けて残りの者が正確に魔法を放っていく。
ドン!ドン!ドン!
味方に魔法が当たる事もなく次々に倒していった。
辺りに静けさが戻る頃、もう一度空気が黒くなり先程よりも小さい魔物が現れて倒された。
魔物の発生はこの3回で終った。
「まずまず、だな?」
「はい。初めてにしては上出来です。で、ルイ様は眠気でしたね?」
「ああ、そこはカナコに似た。だがこの程度ならば大丈夫だ」
「しかし、念のために」
とグランガがルイの様子を見に、文字通り、飛んでいった。
ルイがこれ程の魔法を使ったのは、初めてのことであったので心配されたのだ。
グランガの姿を目で追いつつ、王は冷静に周りを見ている。
「あいつ達もだ。良くやった」
と王は独り言を言った。
王の視線はルイだけではなく、マリウスとスティーヴにも注がれていた。
マリウスは軍に入り中隊ながら自分の隊を率いて動いている。
その動きには無駄がなかった。
魔量は人並みよりも上だが、これが限界に近いであろう。
そして、スティーヴである。
アリスが言った通りに強い。
魔法を多様せずに剣で次々に倒していった。
それは軍の動きではなく、自分の身を守る為に戦う戦い方であった。
それでいい、と考える。
そして「あいつ、なのか…」と思うのだ。
仕方がない、アリスの嬉しそうな顔が浮かぶのだから。
妻は許すだろうか?
いや、きっと許すのだろう。
娘が恋を知って、幸せになることを望んでいた。
王は、また思う。
仕方がない。
あいつだというのならば認めよう。
けど、簡単に許しはしない。
そう心に誓う。
俺の反対くらいで逃げ出すなら、アリスは嫁にやらん。
王の目は、笑っていなかった。