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えぴそーど 23

心地よい風が吹く日。

アリスは姉セーラの屋敷を訪ねていた。




初めての妊娠に周りが敏感になっているために、セーラはあまり外に出歩いていない。

と言っても、屋敷の庭は毎日のように散策しているから運動不足ではないのだ。


なので、アリスから頻繁に姉の元に出掛けることにしている。


大らかな女性がアリスを迎えてくれた。


「アリス様、ようこそお越しくださいました」

「公爵夫人、姉の様子を見に来たの。お邪魔してもいいかしら?」

「勿論です。セーラも楽しみしておりますから」


セーラの義理の母になるアネモード・ビクラードは王妃が認めた女性だ。

その飾らない性格はセーラが嫁いで1年が過ぎるのに変わることがない。

だから、アリスも安心して姉を尋ねることが出来た。


ビクラード家の居間は緑が基調の部屋。

その部屋でアリスが寛いでいると、姉がやってきた。

妹の顔を見るなり、嬉しそうに近寄る。


「アリス!良く来てくれたわ」

「お姉様、どう、具合は?」

「うん、つわりも軽くて、とっても順調だって医師の先生も褒めてくれたの」

「良かったわ。お父様がね、今度はいつ行くんだって、五月蝿いのよ。これで安心なさるわ」 

「お父様は相変わらずね。大丈夫よ。お義母様がね、本当に気を使ってくださるからね。ありがたいわ」

「夫人は素敵な方だもの。それに、お姉様がいいお嫁さんだからよ?」

「あら、アリス。褒めてくれるの?」

「うん!」


相変わらず仲がいい。

アリスは王宮の近況を話す。そうだ、あのことをだ。


「でね、結局、私の護衛になってくださる事になったの」

「ズレイク家のご次男が?」

「うん」


セーラはアリスが嬉しそうに語るのを、黙って見た。


「凄くお強いのよ?今度ルイ達と一緒に魔物征伐にも出掛けるんですって」

「え?どうして?軍に所属してる訳じゃないでしょ?」

「ええ、そう。けどね、お父様がスティーヴさんが戦っている所が見たいって仰ったから」

「それは断れないわね…」

「まったく、お父様も何を考えているのかしら。そういえばルイもよ。急にスティーヴさんを私の護衛にだなんて、変よね?」

「ア、アリス?」

「なに?」


セーラは、この妹の発言に頭を抱えそうになった。

さっきまでの会話で、アリスが、そのスティーヴさんに好意を持っている事など、セーラですらはっきりと分かるのだ。

しかも、父や弟が見ても分かる程の状態だからこうなる訳で…。

それを当の本人が気づいていないなんて…、姉はありえないと思う。



この子はこんなに鈍感だったの?ああ、お母様、どうしましょう!



だから、妹の為に話を切り出した。

きっと母ならば、こう言うだろうと思ったのだ。


「ねえ、アリス。貴女、護衛がスティーヴさんで嬉しいんでしょう?」

「え?嬉しいって、姉様、何いうの?」

「嬉しいんでしょ?そうなんでしょう?」


姉の追及に、アリスの顔が少し赤くなる。


「…、」

「スティーヴさんのこと、考えてると、胸がドキドキするんでしょ?」

「お姉様…」

「明日、会えるといいなぁ、なんて考えるんでしょ?」

「もう…意地悪だわ…」


セーラはアリスの両手を握った。


「それはね、恋してるのよ」

「そんな、違うわ!」

「ううん、見てたら分かるのよ。きっと、ルイもお父様も気づいている。アリスがスティーヴさんを好きなこと」

「え?みんな、気づいてるの?」

「そう、きっとね」


アリスの顔が、これ以上赤くならないという位に赤くなった。


「やだ、もう、…」

「いいじゃない。素敵なことよ?お母様がいたら、物凄く喜んで下さったわ。アリスが恋したんだもの」

「けど、違うかも知れないもの…」

「アリス、恋って凄いのよ。一旦意識しだしたらね、坂を転げ落ちるように、コロコロと気持ちがその方に向いていくのよ?」

「え?」


母と伯母が良く言っていた、恋バナって楽しい、の意味が分かったセーラだった。

ちょっとマリー伯母になったつもりで、アリスをからかってみる。


「実はね、魔物征伐にマリウスも参加するでしょ?その打ち合わせをね、今日、ここでやるからって、皆が集まるのよ?」

「皆って?」

「スティーヴさんもよ?」


途端に、益々アリスの顔が赤くなる。


「え、どうしよう!ねぇお姉様、私、変?大丈夫?」


姉に縋るように自分の身支度を気にする。なぜなら、いつもの通りの質素な姿だったからだ。

後悔している。

もっとちゃんと着飾ってくれば良かったと。

その健気な姿にセーラは笑ってしまった。


「なに?お姉様?笑うなんて!」

「アリス、大丈夫よ?だって、今の話ね、嘘だから…」


アリスの瞳が大きくなったかと思うと、今度はアリスの頬が大きく膨らんだ。


「もう!意地悪!酷いわ!」

「ゴメンなさい」


姉は楽しそうに笑った。

なんでか、アリスもつられて笑う。

しばらく2人は笑い合う。


姉は静かに確かめる様に尋ねた。


「ねぇ、アリス。人を好きになるって、素敵でしょ?」

「そう、素敵…。初めての気持ちだわ」

「それが、恋よ。やっとアリスが恋したのね。お母様、絶対に喜んでるから」

「そう?」

「うん!」

「なんか、嬉しい!」

「それでいいの、素直に感じればいいのよ?」

「お姉様、ありがとう」


妹は恥らいながら姉に感謝した。

自分が恋をしていると、アリスが初めて気づいた日であった。

ようやく肩の荷が下りたきがしたセーラだった。




良かったわよ、お母様!アリスが恋をしたの!





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