えぴそーど 22
翌日、スティーヴは彼の父の城での執務室に呼び出された。
早速、父に連絡が行ったらしい。
もちろん、アリスの護衛の件だった。
ルイの仕事も手早い。
スティーヴは子供の頃に来たことのある父の城での執務室に入った。
かなりの書類が整然と置かれている。
父はその中に埋もれるように仕事をしていた。
それは、今も昔も変わらないみたいだ。
そんな彼の父は少しの動揺を隠さずにスティーヴに尋ねる。
「いったい、昨日、何があったんだ?お前が姫の護衛だなんて…」
「父上、実は…、」
と彼は、昨夜兄に話した内容を父に告げた。
兄と同様に父も相槌を打ちながら聞いてくれた。
ずべてを聞き終えると、一旦考えてからスティーヴに言葉を掛ける。
「ワシにも良く分からんな…」
そう言ったものの、少し晴れやかな顔で言葉を続ける。
「まあ、いいだろう。どうせお前は暇なんだからな…」
「て、事は、姫の護衛を受けろということですか?」
「そうじゃ、右大臣からの指示だ。断れる筈もない。それに悪い話ではない」
「ですが、父上、私には荷が重過ぎます」
久し振りに自分の元に帰ってきた息子の相変わらずの言葉に、父は深くため息をつく。
「まったく、お前のその癖は、治っておらん」
「父上…、癖って…」
「面倒ごとから逃げ出そうとする、その癖だ。きっとガナッシュでも、サーシャ殿にも迷惑を掛けたのだろう?」
心当たりがない訳ではなかった。
だが、ガナッシュでは不思議となんでも積極的に行動したのだ。
それは潮の香りのせいだろうか、それとも、風のせいだろうか。
ガナッシュでの生活は自分の為だけの生活なのだ。全ての行いが自分に返ってくる。
やりたくないと避けていては、全てが自分に返ってくるのだ。
だが、ルミナスでは…。
スティーヴは父の言葉を否定できずにいた。
そんな息子の姿を見た父は、それでも、優しく言ったのだ。
言葉はそうでもなかったのだが…。
「そんな事では、な、お前を好きな女性が出来ても逃げ出してしまうだろうな、お前は…きっと」
「え?」
と、彼の心にアリスの顔が浮かんだ。
慌てて否定する。
そんなを事思うだけで、身分不相応だよ!と。
「そ、そんな、そんな女性はいませんから!」
「21にもなって、女がいないと?なに、お前、女が苦手な性質か?」
「違います!そうじゃない、女性がいいです!」
そうやって真剣に否定する息子が、やはり可愛かった。
不器用な子供ほど可愛いものだ。と父は思う。
ましてや年老いて生まれた子は無条件で可愛い。
だから、思った通りにしてやりたいと思う。
「なら、いいじゃないか。そうそう、ガーネットがお前の縁談を探しておった。母の相手をしてやれ」
「もう…、なんで、俺の気持ちは無視かなぁ…」
父が笑う。
スティーヴが帰って来て1番喜んでいる彼の妻の様子が思い出される。
まるで幼子をあやす様に息子に構う妻の姿を。
「お前の母の事は、諦めろ?いいな。降りかかった火の粉は自分で払うんだぞ?」
「あぁあ、やっぱりルミナスに帰ってくるんじゃなかった…」
その言葉に、彼は反応する。
「おい、?」
「はい…」
「逃げ出すなよ?」
「わかってます」
暫くして、スティーヴが正式にアリスの護衛として王宮に通うことが決まった。
だが、それは魔物征伐が終ってからの事となる。
なんといっても、久し振りの、魔物征伐だ。
準備は入念に行わないといけない。
およそ1ヶ月程の時間が必要になる。
魔物征伐に慣れていない、スティーヴは何度もルミナスの軍の練習場に通った。
「スティーヴさん、今日もよろしくお願いします」
中隊長のマリウスは気軽に彼に声を掛けた。
スティーヴもにこやかに、ぼやいている。
「マリウスさん、こちらこそお願い致します。だいたい、私は素人みたいなものですから、皆さんの足を引っ張らないといいのですが、ね」
「スティーヴさん、それは大丈夫ですよ。貴方の剣筋はとても良い」
「そうですかね…、珍しいから、そう思うだけですよ」
この発言には苦笑いになるマリウスだ。
「陛下が自ら指名なさったのです。充分に通用すると思われての事ですよ」
「それが、買い被りなんです」
「ハハハ…」
それを謙遜と受け取ったマリウスは、彼を励ますつもりで肩を叩く。
「互いに頑張りましょう」
「そうですね、お願いします」
あくまでこの調子のスティーヴだ。
マリウスは、謙虚な方だ、とスティーヴを評価するのだった。
練習場には男達の声が響いていた。




