表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/81

えぴそーど 22

翌日、スティーヴは彼の父の城での執務室に呼び出された。


早速、父に連絡が行ったらしい。

もちろん、アリスの護衛の件だった。


ルイの仕事も手早い。


スティーヴは子供の頃に来たことのある父の城での執務室に入った。

かなりの書類が整然と置かれている。

父はその中に埋もれるように仕事をしていた。

それは、今も昔も変わらないみたいだ。


そんな彼の父は少しの動揺を隠さずにスティーヴに尋ねる。


「いったい、昨日、何があったんだ?お前が姫の護衛だなんて…」

「父上、実は…、」


と彼は、昨夜兄に話した内容を父に告げた。

兄と同様に父も相槌を打ちながら聞いてくれた。

ずべてを聞き終えると、一旦考えてからスティーヴに言葉を掛ける。


「ワシにも良く分からんな…」 


そう言ったものの、少し晴れやかな顔で言葉を続ける。


「まあ、いいだろう。どうせお前は暇なんだからな…」

「て、事は、姫の護衛を受けろということですか?」

「そうじゃ、右大臣からの指示だ。断れる筈もない。それに悪い話ではない」

「ですが、父上、私には荷が重過ぎます」


久し振りに自分の元に帰ってきた息子の相変わらずの言葉に、父は深くため息をつく。


「まったく、お前のその癖は、治っておらん」

「父上…、癖って…」 

「面倒ごとから逃げ出そうとする、その癖だ。きっとガナッシュでも、サーシャ殿にも迷惑を掛けたのだろう?」


心当たりがない訳ではなかった。

だが、ガナッシュでは不思議となんでも積極的に行動したのだ。

それは潮の香りのせいだろうか、それとも、風のせいだろうか。

ガナッシュでの生活は自分の為だけの生活なのだ。全ての行いが自分に返ってくる。

やりたくないと避けていては、全てが自分に返ってくるのだ。


だが、ルミナスでは…。


スティーヴは父の言葉を否定できずにいた。

そんな息子の姿を見た父は、それでも、優しく言ったのだ。

言葉はそうでもなかったのだが…。


「そんな事では、な、お前を好きな女性が出来ても逃げ出してしまうだろうな、お前は…きっと」

「え?」


と、彼の心にアリスの顔が浮かんだ。

慌てて否定する。

そんなを事思うだけで、身分不相応だよ!と。


「そ、そんな、そんな女性はいませんから!」

「21にもなって、女がいないと?なに、お前、女が苦手な性質か?」

「違います!そうじゃない、女性がいいです!」


そうやって真剣に否定する息子が、やはり可愛かった。

不器用な子供ほど可愛いものだ。と父は思う。

ましてや年老いて生まれた子は無条件で可愛い。

だから、思った通りにしてやりたいと思う。


「なら、いいじゃないか。そうそう、ガーネットがお前の縁談を探しておった。母の相手をしてやれ」

「もう…、なんで、俺の気持ちは無視かなぁ…」


父が笑う。

スティーヴが帰って来て1番喜んでいる彼の妻の様子が思い出される。

まるで幼子をあやす様に息子に構う妻の姿を。


「お前の母の事は、諦めろ?いいな。降りかかった火の粉は自分で払うんだぞ?」

「あぁあ、やっぱりルミナスに帰ってくるんじゃなかった…」


その言葉に、彼は反応する。


「おい、?」

「はい…」

「逃げ出すなよ?」

「わかってます」



暫くして、スティーヴが正式にアリスの護衛として王宮に通うことが決まった。

だが、それは魔物征伐が終ってからの事となる。






なんといっても、久し振りの、魔物征伐だ。

準備は入念に行わないといけない。

およそ1ヶ月程の時間が必要になる。


魔物征伐に慣れていない、スティーヴは何度もルミナスの軍の練習場に通った。


「スティーヴさん、今日もよろしくお願いします」


中隊長のマリウスは気軽に彼に声を掛けた。

スティーヴもにこやかに、ぼやいている。


「マリウスさん、こちらこそお願い致します。だいたい、私は素人みたいなものですから、皆さんの足を引っ張らないといいのですが、ね」

「スティーヴさん、それは大丈夫ですよ。貴方の剣筋はとても良い」

「そうですかね…、珍しいから、そう思うだけですよ」


この発言には苦笑いになるマリウスだ。


「陛下が自ら指名なさったのです。充分に通用すると思われての事ですよ」

「それが、買い被りなんです」

「ハハハ…」


それを謙遜と受け取ったマリウスは、彼を励ますつもりで肩を叩く。


「互いに頑張りましょう」

「そうですね、お願いします」


あくまでこの調子のスティーヴだ。

マリウスは、謙虚な方だ、とスティーヴを評価するのだった。




練習場には男達の声が響いていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ