えぴそーど 21
「あ~ぁ…」
夜遅くに自分の屋敷に戻ったスティーヴは、なかなか寝付けずにいる。
部屋の明かりを消すこともせずに、1人、考えている。
今日の展開に自分の心が、ついていっていないのだ。
部屋のドアがノックされた。
ゆっくりと立ち上がってドアを開ける。
開かれたドアの向こうに兄が立っていた。
「スティーヴ、どうした?」
「兄さん…」
「お前が王宮から帰ってくるなんて、何があったんだ?」
スティーヴは兄のボビードを部屋へ迎え入れた。
「自分でも、何がなんだか、…うん、そう、混乱している」
「まぁ、順を追って話してみろ?」
彼は兄に今日の出来事を簡単に教えた。
兄は驚きながらも、相槌を打って話を聞いてくれる。
「そうか、姫と?」「なに?王が?」「うーん…そうか…」
そして、兄は分かりやすくスティーヴのわだかまりを指摘してくれた。
「今日1日で、姫を王宮に送り届けただけなのに、何がどうなったか分からないまま、陛下に言われて魔物征伐に出かける羽目になった上に、アリス姫の護衛まですることになった。なんで自分が?ってとこか?」
「ああ、兄さん。その通りだよ。俺なんか、ただの次男坊で位もなにもないのに、だよ?それなのに、陛下に睨まれて致し方なく魔物征伐だなんて…」
「そうだな…」
「その上だよ、姫の護衛だなんて…、しかも、姫は今日襲われているんだよ?」
「最近は物騒だからな…、姫を自分の物にしたいと考える馬鹿が現れても不思議じゃない」
「そう、可哀想に、怯えていた…」
不意にその時のことを、思い出した。
あのアリスの紫紺の瞳が不安そうに自分を見詰めたのだ。
男として、助けずにはいられない。
だが、…。
「けど、ルミナスの王家が出した結論だ。家の為にも受けろよ?」
「わかってる、けど、買い被り過ぎだ。俺なんか、すぐに愛想を付かされるんだ。嫌だなぁ」
「そうならないかもしれないぞ?」
「そんな筈ないさ。俺は兄さんみたいに出来がいい訳じゃない。家を出て、海を航海して生きていく方が性に合ってる」
「それが思い込みかもしれないんだ」
「なんでだよ?」
頑なに否定をする弟に対して、兄は励ますように語った。
「お前は、俺にない良いところを沢山持っている。俺から見たら、俺に遠慮してその良いところを見せずにいるように思えるがな。どうしてそんなに不器用なんだろうな」
「そんなことないよ。昔から、俺は兄さんには敵わないんだ」
「その自信の無さは何処から来るんだろうか?」
「兄さん!」
兄は幼い頃よくやったように、弟の頭を撫でてやった。
子供扱いされてスティーヴは大きな声で抵抗した。
「止めろよ!」
「16で家を出て、ろくに連絡も寄越さないで。な、スティーヴ。どれだけ母上に心配掛けたか分かっているのか?」
「ああ、分かってるよ」
兄にしか見せない拗ねた顔で答える。
「分かっているなんて、なぁ。お前、1人で生きてきた気になっているんだろう?」
「そんな、こと…」
9つ上の兄には敵わなかった。
兄が真剣な顔つきになる。
「実はな、お前がガナッシュに辿り着いて暫くして、陛下から父上に連絡があったんだ」
「陛下から?どうして…、」
「サーシャさんは陛下の義理の姉に当たるからだろう。だからだよ。お前の両親が心配しているだろうって」
「そう、だったのか…」
初めて知らされる事実にスティーヴは無言になってしまった。
「父上は、今戻れと言ってもお前の事だから聞きもしないだろうと考えた。だから、下手に連れ戻しに行ってサーシャさんの所を飛び出してしまうよりはお任せした方がいいだろう判断したんだ。そしてな、サーシャさん達にお前を5年預かって欲しいってお願いしたんだそうだ」
「そうか、だから、今回、サーシャさん達は俺を連れて帰ってきたのか…」
懐かしい兄の瞳は、相変わらず優しいのだ。
「なぁ、スティーヴ。ルミナスで生きることを考えてみないか?皆がお前を心配しているし、一緒に、側で暮らしたいと思っているんだぞ?」
今宵は珍しく兄の言葉が染みた。
それでも、彼は自分の希望を告げる。
「兄さん、俺はガナッシュに戻りたい」
兄はその頑固さが懐かしくて微笑んだ。
「わかったよ。お前がどうしても、と言うなら止めやしない。だけどな、それならここにいる間に母上を大切にしろ?母上だって、何時もまでも元気とは限らないんだ。わかったな?」
「ああ、そうするよ。兄さん」
「なら頼んだぞ。遅くに邪魔したな」
「いいんだ。兄さんと話せて、良かったよ」
「ああ、お休み」
兄が部屋を去り、少しすっきりとしたスティーヴはようやく眠りについた。
ようやく再開いたします。
今後ですが、毎日更新となる予定です。
(失速しないように、頑張ります)
これからのアリスの恋愛を見守って下さいませ。