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えぴそーど 20

王は事も無げに、スティーヴに話しかけたのだ。


「スティーヴ、お前も来るか?」

「え?」

「魔物征伐にだ、どうだ?」

「私も、ですか?」

「ああ、お前が戦っている姿が見たいな」


その言葉は穏やかであったが、…、目は笑っていなかった。


「…、では、お願い致します」


そう答えるしかないスティーヴである。

ルミナスの民として王に言われれば従うしかない。


であるが…。 



なんだろう、この雰囲気は…。



そう、なんとなく、戸惑うしかない彼であった。

その戸惑いを感じたのか、アリスが謝った。


「スティーヴさん、ごめんなさい」


そして、父を見て抗議した。


「ねぇ、お父様。そんな急に言われても、スティーヴさんだって困ってるわ?」

「ほう、そうなのか?」 


と、笑ってない目で見られて、スティーヴは「いいえ」と答えるしかない。


「なら、決まりだ。日程は連絡する」

「畏まりました」


ルイはスティーヴに同情的になってしまう。

王が勝手に娘の相手と思い込んでいるからだ。



だけど、父上でさえ感ずいているのに、姉様は気づいてもいない。これでは2人が恋に発展する前に、終わってしまう。良くないよな…うん、良くない。



ルイはセーラが嫁いでからの父とアリスを見てきた。

姉が母に似ていることも親馬鹿が酷くなる原因かもしれない。

だが、それでは姉が可哀想だと思う。

自分はいつかそれなりの相手を見つけなければならないし、それに関しては誰も咎めない。

なのに、姉は父がことごとく話を断るので男性と付き合ったことすらない。


やっと現れたみたいな男性が目の前にいるというのに気づきもしない女性、そんな女性になってしまった。


セーラは母のお陰でマリウスと出会い、結婚し母になろうとしているというのにだ。

同じ姉妹なのに、どうしてなんだろう。

母が生きていたら、きっと変わっていた筈だ。

だから、そう思うから、ルイは姉の為に時間を作ってあげたかったのだ。

昔、母に言ったように、姉を守るのは、まだ、自分の仕事だと思うから。


ルイは、呑気に話し出した。


「そうだ、父上、姉様の送り迎えですが、」

「なんだ?」

「これからもスティーヴさんにお願いしたら如何でしょう?」

「「「え?」」」


3人が一斉に返事をする。

言葉は同じだが、思惑は皆違う。

そ知らぬ顔をしてルイは話を続ける。


「だって、スティーヴさんはルミナスに残るんでしょう?なら、ここで姉様の護衛として雇えばいいじゃないですか?アリエッタだって、いつまでも兼任してる訳にはいかないんだし…」


「それは、そうだが、…」と王は嫌そうにする。

「けれど、それだと、スティーヴさんが迷惑するでしょ?」と姉は嬉しそうだ。

「ですが、私など…」とスティーヴはまだ戸惑っている。


「じゃ、」とルイが話を纏める。


「明日にでも、アンリ伯父様達に動いてもらいますね。いいですね、父上?」

「…」

「返事がないのは、同意とみなします」

「ルイ…」

「スティーヴさん。姉様の護衛の件、正式にズレイク子爵に申し出ますので、お願いします」

「殿下…」

「じゃ、姉様。それでいいですね?」

「いいって…」


珍しく強引に話を纏め切ったルイ。

その手腕が、似ていたのだ。

家族が、もう一度会いたいと願う、人間に。


アリスが父に話しかけた。


「ルイって、ね、お父様…」

「ああ、ルイもやっぱりカナコの子供だな…」

「そうみたい…」


自分に似ている筈の息子の中にも、妻の面影を見てしまった王は、潔く諦めた。


「わかった、ルイに任せる。思った通りにしろ」

「はい、そうします」


王家の食卓はちょっと苦く、けれども暖かい空気に包まれている。





ただ…。






スティーヴは戸惑うしか出来なかった。








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