えぴそーど 2
華やかな日が終わり、新たに訪れる日常と向き合う。
王宮の食堂はいつも朝日が差し込んで明るく開放的であった。
だが、今日は新たな日々が始まる最初の日。
王が現れたときには2人の子供達はすでに席に着いていた。
「おはよう」
「お父様、おはようございます」
「父上、おはようございます」
今日から3人での朝食が始まる。
ルミナスの王はふっと嫁いだ娘が昨日まで座っていた場所を見た。
その瞳には少しの寂しさが漂った。
「お父様、どうしたの?」
「ああ、セーラがいないだけで随分と静かだなと思ってな」
「そうね、お姉様のお小言がないから、静かだわ」
「けど、姉上に叱られないのは、うれしい…」
ルイの本音にアリスが呆れる。
「ルイ、いいの、それで?」
「うーん、けど、」
王は子供達の会話に耳を傾け、優しく笑った。
そして、改めて思う。
喪失感って奴は面倒な奴だ、すぐよりも後になってからやってくる。
だから、子供達の他愛もない会話は王にとって救いであった。
「2人とも、ちゃんとしないとセーラが叱りにくるぞ?さぁ、朝はしっかり食べるんだ。いいな?」
「「はーい!」」
3人が囲むテーブルはそれほど大きくない。丸くて常に互いの顔が見渡せる。
王は2人の顔を見て、元気そうで安心する。
最愛の妻がなくなってから、以前に増して王は子供達を大切にしてきた。
それは彼の妻との約束でもあったから。
この王は子供達の様子を見て、元気が無いときにはさり気なく遠出に誘っては話を聞いている。
けど、今日は大丈夫だ。
アリスの瞳も輝いている。
「ねぇお父様?」
「なんだ?」
「近いうちに丘の上に行きましょう?」
「それがいい!僕も行きたい!」
「そうだな…」
王は言葉を止めた。
丘の上、と呼ばれている場所は王にとって特別な場所であった。
最愛の妻との思い出が詰まった場所。
ああ、そうだな、と答えそうになったのだが、まだ瞳の奥が熱くなる。
苦笑いになる。
子供達の前では泣かないと、あいつに誓ったからな、と王は言おうとしていた言葉を変えた。
「いや、止めておこう。お前達だけで行ってくるといい」
「お父様…」
「…」
もう3年が経っている。
そんなことは分かっている。
けれども、行けなかった。
そこに行けば今よりももっと感じてしまうから。
いったい、何時になったら行けるんだろか…。
自分の思いに沈み込んでしまいそうになるのを堪えて子供達に声を掛ける。
「お前達、急がないと遅刻ではないのか?」
「あ!」
ルイが慌てて食べだす。少し早目に行かなくては行けなかったのだ。
「おいおい、ルイ。慌てて食べたら詰まらせるぞ?」
「けど、うみゅ、急がないと、むぐぅ、ジャック先生がね、怒るんだよ…」
「そうそう、ジャック先生は厳しいんだから…」
「それは良い事だ。しっかり怒られろ?」
「「それは、変!」」
笑い声が響く。5人だった食卓が4人になって3年。
今日からは3人になった。
3人になってからは何年が過ぎていくのだろうか?
少しシンミリとする今朝だ。
だが、それでも、笑い声は響く。今日は特に賑やかに笑ったのだ。