えぴそーど 18
「アリス様!」
出迎えたアリエッタが大きな声を上げた。
長く一緒にいるのだ、アリスの様子が普段と違うことを感じ取ってしまう。
しかもだ、誰かと一緒に帰ってくるのは分かっていたが、顔見知りのカフェ・マリーの従業員ではなく、見ず知らずの男性だった。
当然、驚いてしまう。
「何かあったのですか!」
アリスは言い訳のためだろうか、歯切れが悪くなって答えてしまう。
「え、ええ、アリエッタ、あのね…」
繋がれていた手はいつの間にか離れている。
アリスは状況を説明する為に言葉を捜した。
「大丈夫なの、ほんと、に、大丈夫なのよ?」
「しかし、この方は、どなたなのでしょうか?」
警戒心丸出しのアリエッタが、スティーヴを睨む。
スティーヴは困ってしまう。
俺は頼まれて送っただけなんだけど…。
それでも、ここは大人の対応をする事にした。
「あ、自己紹介もしてませんでしたね。私はスティーヴ・ズレイクと申します。カフェ・マリーで、マリーさんに頼まれて姫をお送り致しました」
マリーの名前を聞いて、慌ててアリエッタは態度を軟化させた。
「そうでしたか、申し訳ありません。睨んだりして…」
「いいえ、お気になさらすに。お仕事でしょうから」
その間もアリスは何も言えないままでいる。
相当ショックが大きかったのだろう。
スティーヴはアリスの心中を思いやる。
「姫、大丈夫ですか?」
その声に、少し気持ちが楽になるアリスなのだ。
「はい、さっきよりも、楽になりました」
「いったい何があったのでしょう、アリス様?」
アリエッタの問いにアリスはまだ上手く答えられない。
変わりにスティーヴが答えることにした。
「実は城の手前で、姫が賊に襲われたのです」
「アリス様が!」
アリエッタの大きな声でようやく気持ちを取り戻したアリスが、スティーヴを庇うように言う。
「アリエッタ、スティーヴさんが助けてくれたから、大丈夫よ」
「いえいえ、姫の幕が頑丈でしたからね。安心して賊を追い払いましたよ」
ようやくアリエッタもアリスの窮地を救ったのがスティーヴだと理解したらしい。
「そうでしたか…。色々とご無礼を申し訳ありませんでした、スティーヴ様」
「いえ、お気になさらないで下さい。姫を送り届けただけですので」
「いいえ、状況が分かったからには、スティーヴ様、どうか居間の方へお入り下さい。それでよろしいですね、アリス様?」
アリエッタからの言葉に、アリスも同意する。
「ええ、そうしてね。スティーヴさん、いいでしょう?中に入って下さいませんか?私、お礼もしてませんから…」
スティーヴの顔が、ちょっと困ったようになった。
「しかし、私などが王宮に入るなど、いいのでしょうか?」
「アリス様のお客様です。是非に」
「お願いですから」
「はぁ」
2人に押し切られるように王宮に足を踏み入れ、スティーヴは居間へと向う。
アリエッタは急ぎ、王に電話で連絡をした。
当然、驚いた王はポポロを引き連れて、王宮の居間にやってくる。
娘が襲われたとなれば、仕事などよりも大事なのだ。
王の声が王宮に響く。
「アリス!アリス!大丈夫か!!」
王の顔色は悪かった。
だが、娘の元気な姿を見て、安堵する。
「お父様、大丈夫よ。あのね、スティーヴさんが助けて下さって…」
「なに?」とようやく王は初めて見る男性の存在に気づく。
スティーヴは国の王が自分を上から下まで睨み尽くすので、少々だけ怯える。
やはり一国の王の眼力は、並大抵ではないのだ。
「お前は?」
まるで尋問のような問いに、スティーヴは負けじと答えた。
「は、スティーヴ・ズレイクと申します」
「ズレイク…、子爵の息子か?」
「はい、私は次男で、先日までガナッシュのサーシャさんの所で働いておりました」
少し考え込む、が、ようやく思い出したようだ。
「ああ、サーシャが言っていた男だな?ようやく親元に帰ったのか?」
「1年程は父の元で働くことになりました」
「ふむ…」
アリスは思わずスティーヴを庇う発言をする。
「お父様、スティーヴさんはね、5年もガナッシュで働いてらしたの。とても真面目で良い方だって、サーシャ伯母様もダグラル小父様も褒めてらしたのよ?」
その庇うような発言が、引っかかった王は思わずアリスに確認してしまう。
「そうなのか?なんだ、アリス?この男の事を良く知ってるな?」
「サーシャ伯母様に聞いてたのよ。それにね、お父様。今だって、マリー伯母様がスティーヴさんに私を送って行ってってお願いしたから、なのよ?本当に、サーシャ伯母様の仰った通りに、スティーヴさんはあっという間に、悪い人達をやっつけてくれたの」
「いえ、それは、姫の買い被りですよ。私は、襲ってきた奴らを逃がしてしまったんですから」
「けど、スティーヴさんが追いかけたら、私、1人になってしまったわ?私の為に追わなかったのでしょう?」
王の視線を気にしながら、スティーヴは答えた。
「まぁ、そうですが…」
スティーヴの言葉が止まり、代わりに王が話を始める。
「まぁいい、アリスが無事ならば、それでいいんだ。それに、そいつ等ならば護衛が…、いや、これは、ここで言うことではなかった」
王はスティーヴを気にした。
「とにかくだ、礼を言おう。娘を助けてくれて、感謝する」
「いえ、ルミナスの民ならば当然のことをしたまでの事です」
ポポロが王に助言する。
「陛下、ズレイク殿にもお知らせ致しましょう?」
「そうだな、いい息子を持ったものだ、と言っておいてくれ」
「畏まりました。では私は城へ。何はともあれ、アリス様、ご無事で良かったです」
「ポポロ、心配掛けてゴメンなさい」
「大丈夫ですよ。それでは」
ポポロは何故か足早で城に向った。
彼の顔が、少しにやけている。
彼はアリスと男性の間にある、なにか、を感じ取ったのだ。
あれですね、これが発展すると、どうなりますやら…。
とりあえずは王には言わずに、早速アンリには報告しようと心に決めて城に戻った。
これは、ですね、揉めますか?
幼い頃から知っている姫の恋愛だ。
王より敏感に反応しても、仕方が無いルミナスの左大臣であった。