えぴそーど 15
話が一段落する。
アリスは本来の用事を思い出した。
「あ、ルイ。マリー伯母様に渡して?」
マリーはアリスの荷物を受け取ると確認もしないで自分の部屋へ運ぶように部下に指示を出した。
やはり作者がアリスだと知られる事には警戒する。
スティーヴがいるのだ、念には念を入れた。
だが、スティーヴはルイとダグラスの2人と話している。
マリーは何故だかホッとした。
「そういえば、」
今度は、女性達の間で話が始まった。
「魔物が落ち着いてくると、昔みたいに征伐へ行ったりはしなくなったわね?」
サーシャの言葉にアリスが反応した。
「サーシャ伯母様は、行かれた事があるの?」
サーシャとマリーは互いに目で合図した。
「…、そうね、若い頃にね」
サーシャの事件はアリス達には言ったことがない。
言うべきことではない、との王の判断だ。
「けど、貴女のお母様の方が、上手よ?」
「そうなの?」
「ええ、陛下と一緒に、良く征伐へ出かけていたわ」
「サーシャ伯母様、聞いた話だけど、そこでも惚気ていたって、本当なの?」
サーシャが苦笑いになる。
「まぁ、ね。征伐が終わった後、陛下に抱きかかえられて上に高く上がっては何かを確認してたわ」
「そうなんだ…」
「もうね、現場は慣れっこよ。ああ、また始まったって」
「…、」
「どうしたの、アリス?」
「うん、お母様って、そんなにお父様が好きだったんだって、」
「そうね、大好きだったわ」
もう時が経ったのか、まだ時が過ぎていないのかは、人によって違うのだろう。けれども、エリフィーヌは人々の記憶の中に、鮮やかに生きていた。
そんな感傷に浸っているところに、満足げな声が聞こえた。
「やっぱり、カフェ・マリーのトーフハンバーグは美味しいや」
大好物を平らげたルイは時間を確認して、少し慌てる。
「じゃ、姉様。俺、学院に行くよ?」
「ええ、行ってらっしゃい」
皆に見送られて、世継ぎは店を後にした。
ルイには護衛がいないように見える。
けれども、離れた場所から見守っている目はある。
それで充分だった。多少の火の粉は自分で何とかしろ、と父からも言われている。
ルイにはそうする自信もあった。
いつの間にかアリスよりも背が高くなったルイ。
彼には彼の悩みがあり思いがあった。
けれども、その一つ一つが彼を大人にしていく。
しばらくの間、残された人間達での会話が続いた。
だがいつもまでもいる訳にはいかない。
「なら、アリスはここの誰かに送らせればいいのね?」
「ええ、1人だと、アリエッタが心配するから…、大げさだと思うんだけどね」
「大げさではないわよ?ま、1番腕の立つ人間にするわね?」
その時、サーシャが「そう、ねぇ、」と言った。
「なに?」
「スティーヴが送ればいいじゃない?」
「私が、ですか?」
「どうせ、貴方は家に帰るだけでしょ?」
「まぁ、帰ったって、今のところする事もないですから、いいですけど…」
マリーも賛成のようだ。
姉の意見には絶対的な信頼を置いている。
「じゃ、スティーヴ君。アリスの見送り、お願いね?」
一応は貴族の子息だが、いずれは姉のところで働くのだ。
マリーは気安く彼の名を呼んだ。
彼は戸惑いながらマリーに尋ねる。
「私で、いいのですか?」
「サー姉様、彼は強くないの?」
「スティーヴ、謙遜はいらないわ。マリー、何度も見てきた私が言うのよ。大丈夫」
サーシャはまるで自分の息子を自慢する様にスティーヴの腕を自慢する。
「なら、お願いね。アリスに何かあったら、陛下が大変なことになるもの」
自分のことなのに、置いてきぼりにされていたアリスが伯母達に言った。
「伯母様達って、私の事で楽しんでるわ?」
「あら、そう?楽しむって…、」
そう言ったマリーが、意味深な笑みを浮かべて言葉を続けた。
「まぁ、そうね。スティーヴ君、送り狼にならないように。お願いね?」
「お、送り狼って…、」
「マリー伯母様!」
「別にいいじゃない?」
「そんな!サーシャ伯母様も!」
「アリスも年頃の男性と話しないとね?」
「そうそう!」
伯母達は楽しんでいる。
間違いなく、姪をからかって楽しんでいた。
妹に似ている姪を、だ。