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えぴそーど 1

本日のルミナス王家は華やかに賑やかである。

姉妹はこの日のために準備された部屋にいた。

その部屋の1番目立つ場所には、今日の日の為にエリフィーヌ王妃の肖像画が飾られている。



エリフィーヌ・カナコ・ルミナス。



デューク・シレン・ルミナス現国王が生涯を掛けて愛した女性。

彼女はその美しい容貌と穏やかな声で民を魅了し、時には大胆な行動で国を守った。

2人の姫と1人息子の母として家族を愛し、慈しんだ。

自らを馬鹿ップルと呼んで人目をはばからずに、王を、デューク王だけを愛し続けた。


亡くなった今も人々の心に生き続ける女性だ。




セーラはその母の肖像画に向って話し掛ける。


「ねぇ、お母様。今日の私、綺麗かしら?」


その姉の隣にいたアリス・カナコ・ルミナスは、白いドレスを纏った姉を眩しそうに見詰める。


「大丈夫よ、お姉様。お母様が綺麗って仰ってるわ」

「そう?」

「うん、だって、お姉様、本当に綺麗だもの」

「アリス…」

「こんなに綺麗なお姉様を見たら、きっとお父様が、また、後悔するわ」


姉妹は互いを見た。

いろんな思いが巡っていってしまう。

仲の良い姉妹なのだ。沢山の時間を共に過ごしてきた。

母が亡くなってからは2人で力を合わせて家族を守ろうと決めて生きてきた。


それはこの姉妹にだけ共有できる思いであったから。


「本当にお父様には困ったものだわ…」


セーラは少しの苦笑いをしてしまう。

姉は妹の頭を撫でて、そしてゆっくりと妹の手を握った。 


「けど、アリス。お父様をお願いね?」

「うん、わかってる」


妹は姉の頼みに頷く。


「けどね…、お姉様。私もいつかは嫁ぐのよ?お父様、大丈夫かしら…」


彼女たちの母は娘達の幸せを願っていた。

いつの日にか愛する男性と出会い結ばれて素晴らしい人生を送ることを。

姉がいなくなる不安を少し滲ませる妹に、セーラは優しく言った。


「大丈夫よ。お父様だって、アリスの幸せを願っているもの」

「だと、いいんだけど…」


妹の手を握っている。

その手を強く握った。


「お母様が言ってたもの。アリスはきっと素晴らしい方と巡り会って、素敵な恋をするわってね」

「お母様が?」

「ええ、心配してらしたのよ。アリスのこと」

「姉様…、わたし、わたし…」


アリスの紫紺の瞳から涙が零れた。


「泣かないの、泣くのは花嫁の特権の筈よ?アリスに泣かれたら、私は泣けないじゃない?」

「だって…」


同じ紫紺の瞳の持ち主。

紫紺であることは、彼女達の母と同じでそれは自慢でもあった。

今のルミナスには紫紺の瞳は2人以外にいない。


いつも毎日側にいた姉が嫁いでしまう。

喜ばしいことであるが、アリスは寂しくもあった。


「セーラ姉様!」


思わずアリスがセーラに抱きついてしまう。

控えていた2人の侍女のアリエッタが、思わず止める。


「いけません、アリス様。セーラ様のドレスが汚れます」


2人はアリエッタを見てから互いを見た。

思わずセーラから謝ってしまう。


「あ、アリエッタ、ごめんなさい」

「せっかくアリエッタが仕度してくれたのに、ごめんなさいね?」


アリエッタは姫達を諭した。


「姫様方、私に謝る必要はないのですよ?」


そんな言葉に姫達はこう答える。


「ううん、ね、姉様?」

「そう、お母様なら謝っていたもの」

「そうよね。悪いと思ったら謝るんだって仰ってたもの」

「まぁ…」


3人は思わず笑い合う。

その声は秋の空に抜けていくように楽しげで優しかった。





今日は、セーラの婚礼の日。

国王デューク・シレン・ルミナスの第一王女セーラ・エリフィーヌ・ルミナスが嫁ぐ。


ルミナスの王宮は慌しく人が動いている。

色々な道具が運び出されて、嫁ぎ先であるビクラード家へ運ばれていった。

亡き王妃が娘のために用意を願っていた品々である。


今日は彼女の母が亡くなってから3年目の晴れた日である。


「姉様!」


ドアが開いて少年が飛び込んできた。


「まぁ、ルイ!この部屋には男性は入っちゃ駄目なのよ?」

「けど、アリス姉様、いいでしょ?」

「もう、ルイは甘えん坊なんだから」

「アリス姉様だって、目が潤んでる…」

「五月蝿いわね?」

「姉様、ごめんなさい!」


この国の世継ぎであるルイ・デューク・ルミナスはこの大好きな姉達に弱い。

姉達に泣き虫と断定されて、容赦ない口撃にあっている。

けれどもルイは姉達が自分を守ろうとしてくれていることを知っていた。


本当に、この3人の兄弟は王族としては仲が良い。

それは父と母の願いでもあったからかもしれない。


「だってね、父上が落ち着かなくてウロウロしてるんだ。ここに連れて来てもいい?」


その様子が目に浮かんだ姉妹は呆れた顔をしてしまう。


「セーラ姉様、どうする?」

「そう、ね。アリエッタ、いいかしら?」

「そうですね、少し整えれば大丈夫だと思います。ルイ殿下、陛下をゆっくりお連れして頂いても宜しいでしょうか?」

「うん、わかったよ。それでは、また後で」


急に背が伸びたルイは13歳になった。

少年は想像しているよりも早い速度で大人になっている。

子供じみた口調も段々と影を潜めていくようになっているが、姉達と話すときにはまだ子供のままだ。


アリエッタが再度仕度を整える間、アリスは父の様子を想像して笑ってしまう。


「お父様ったら、きっと子供みたいにウロウロしてるのよ、」

「本当ね、けど、…」

「なあに?お姉様?」

「アリス、私達、お父様とお母様の子供で良かったわね?」

「うん、良かった」

「沢山、愛して頂いたものね」

「うん、いつも抱きしめてくれたもの」

「そうね、ほら覚えてる、お父様と大喧嘩したときのこと?」

「忘れないわ。お母様、不安だったのに私達には愚痴を言わなかった…」

「きっと、私達に心配させまいって思ったのよね」

「うん、きっと」


仕度を終えたセーラが母の肖像画を見ながら、誓った。


「私、お母様みたいになるわ。マリウスを愛して、子供たちを愛して、お母様みたいに生きる」


綺麗だ、とアリスは思った。

今日の姉は母のように綺麗だと。







穏やかで華やかな空気で満たされた王宮での1日。

そんな日にセーラはマリウス・ビクラード次期公爵に嫁いでいった。






カナコがいなくなってからのルミナスの様子です。

基本的にはアリスの恋愛が軸になる予定ですが、短期間で書いているために話が纏まるか不安です。

けれども、心が温かくなるお話を目指します。

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