入口と出口
「…久しぶりじゃ」
女の子はあの時のままの姿で、そこに立っていました。
「うん、お久しぶりー。元気してたー?」
「元気なわけないじゃろうが」
女の子は雪だるまをにらみつけます。女の子は激しく怒っているようでした。
「怒ってるのー?」
「あたりまえじゃ…」
「どうして?」
女の子は何か言おうとして、口を開きます。
しかし、それを言葉にしようとすると、くちびるがふるえて、うまくいきません。女の子は何度か声をだそうと試みます。が、やはりうまくいきません。口を少しだけひらいて、くちびるをふるわせて…を、何度もくり返すだけなのです。雪だるまは困ってしまいます。
女の子は、自分の想いを言葉にすることをあきらめます。ポケットの中に手を入れて、あるものを取り出します。そして、これを見れば自分の言いたいことは分かるだろうといわんばかりに、雪だるまにそれをつきだします。
ーーーそれは、赤い手袋でした。
雪だるまが「持ってゆけなかった」赤い手袋でした。
女の子が「持っていってもらえなかった」赤い手袋でした。
女の子は、雪だるまに、たくさん言うべきことがありました。雪だるまも同じように、女の子にたくさん言うべきことがありました。
さいわい二人には、たくさんの時間がありました。太陽はあのときと同じように、まだまだ高いところにあります。
めでたし、めでたし。