さわやかなみみず
「あー。みみずさん、こんにちわ」
「おやおや、ユキドケミズさん、こんにちわ。なるほど、そうですか。地上はもう春をむかえようとしているのですね」
「そうなの。溶けちゃったの」
「それはそれは」
「ねえ。自分はこれから、どうなってしまうの?」
「そうですね…たいへん言いにくい話ですが、あなたはこれからどんどん、深いところに沈んでいくことになるかと思いますよ。ここよりも、もっともっと暗いところと聞いています」
「そっかー。ずーっと沈みきると、そこには何があるの?」
「ずっとずっと深いところには、マントルというものがあるらしいです。とても熱く、触れるものはみな燃やしつくしてしまうそうです」
「ええー。熱いのはいやだなあ。もう、地上に上がることはできないのかなー?」
「うーん…そうですね。あるいは、運が良ければ、地上に上がることもできるかもしれません。例えば、お天気の日が続けば、土が温かくなって、あなたは蒸発して、地上に帰ることができるでしょう」
「ふーん。なるほど」
「…まあ今は冬なので、なかなかそういうことも望めないかもしれません」
「あ、そっか。残念だなー」
「そうですね。あとは、植物の根っこに吸われて、地上に出れるケースもあります」
「なるほど。あ、でも自分がいたところには、木も草もなかったかなあ」
「…そうでしたか。いや。でも、木の根っこなんかは、かなり地面のなかを広く横ばっているものです。それはまるで、蜘蛛の糸のように。ですから、そういうのにうまく引っかかるといいなと思いますよ」
「そうですね」
「自分はみみずなので何もできません。心苦しいですが、何の力にもなれません。ただ、あなたの幸運を祈ることしかできません。他人というものは他人にとって、とても無力な存在なのです」
「んーん。そんなことなかったですよ。ありがとうね、みみずさん」
雪だるまがそう告げると、みみずは目礼をして去っていきました。