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異世界のならず者を征伐!征伐!  作者: TM
プロローグ
2/9

第2話 正義は勝つ

「おふらんす!」


「ひっひひひひ、怪我したなかったらついてきんかいや」


「ドゥフ、ドゥフ、ドゥフフフフ」


 三人のチンピラたちは、シャインの身体を粘着質に視姦した。


 癖のないブロンドのロングヘアー、長い睫毛に縁取られた鳶色の双眸、均整のとれた細面にスッと通った鼻筋、男を誘うように濡れた紅い唇。

 張りのある柔肌からほどよく浮き出た鎖骨から、ボンテージ鎧が覆うはちきれんばかりの巨乳に男たちの劣情的な視線が這っていく。キュッと引き締まった腰のくびれから上向きの臀部にきれいな曲線が描かれて、長く伸びた足を覆うロングブーツの端から白くてなまめかしい大腿が覗いていた。


 シャインはデブ男が背負ったリュックから、ビームサーベル(アニメのポスター)を引き抜いた。

 そのビームサーベルで、デブ男のひたいをガンガンと突いた。


「ドゥフッ、ドゥフッ、ドゥフッ、ドゥフッ」


 デブ男の脂ぎったひたいに、たくさんの円い痣ができた。


「どついたンなや!」


「わりゃ、なめとんか!!」


 痩身で一重まぶたの男が、怒声をあげてシャインに殴りかかった。


 シャインは身体をひいて男の腕を掴みとる。

 そのまま腕をねじり上げて、強引に骨をへし折った。


「アッーーーー!!」


 男は大絶叫とともにメチメチと音をたてて糞尿を漏らす。

 地面に転がされた男は、白目を剥いて失神をした。


「サンノミーヤになにしょんや!!」

 

 尖った頭と吊り上がった目をした小太りのチビが、大振りなドスを取り出すと鞘から抜いた。

 黒曜石の抜身が魔力をおびて赤く輝いた。


「おまえのオカンでも見わけのつきひんように斬り刻んだんわ!!」


 説明しよう!!

 黒曜石のドスは、小太りのチビから放出されたまじかるエナジーを浴びて、わずか1ミリ秒で帯電を完了する。『ビリ剣』と呼ばれるそのドスはビリビリと相手を痺れさせながら相手を斬ることができるのだ。


「ツーテンカークを本気で怒らさはったわ、ドゥフ、ドゥフ、ドゥフフフフ」


「アチョーーーー!!」


 ツーテンカークと呼ばれた男は、ドスの柄尻を掌で包んで突進をした。


「まじかるぅぅぅ」


 シャインは魔法を唱えた。


 ゴッ!!


「どやっ、やったで!!」


 かたい手応えに歓声をあげた。

 しかし、歓喜に満ちたその表情はすぐに引きつった。


 息を呑むツーテンカーク。

 シャインの白い柔肌にはかすり傷ひとつなく、眼下にあるドスの刃は根元から折れていた。


「アイゴー!!」

 

 ツーテンカークは地に伏したサンノミーヤの臀部が血まみれであることに気がついた。

 シャインの身体に接触して折れた刀身は、あろうことかサンノミーヤの肛門を貫いたのだ。


「アイゴー!! アイゴー!!」


 ツーテンカークは身を慄わせて慟哭した。


「マジカルエナジーを帯びた私の義体は、オリハルコンの刃を折るほど強く乙女の肌のように柔らかいのだ」


 説明しよう!!

 シャインは自らを模したアンドロイドに憑依をすることで義体を操る宇宙刑事である。

 そしてその義体はセクサロイド大手のオリエント重工による特殊艤装を受けているのだ。


 男たちの顔が青ざめた。


「ひいっ、バケモン!!」


「ほ、ほんますかぁー」


 男たちは、シャインに拘束された。

 シャインは彼らの額に人差指と中指を揃えて置いた。


「まじかるぅぅぅ」

 

 二本の指を通じて頭蓋骨を透過したマジカルエナジーが、前頭前野と大脳辺縁系をつなぐ経路を遮断する。

 マジカルエナジーによるロボトミーだ。


 彼らは生まれ変わったのだ!! 



 石窟に戻ったシャインは、バックルのホルダーからペン型の注射器を取り出した。

 芋虫のように動いている青年に洗脳薬を注射して拘束を解く。


「いまから特訓だっ!!今のキサマは2ちゃんねらーの糞レスをかき集めたほどの値打ちしかない!」


 シャインは青年の頭をブーツの踵で踏みつけながら宣言をした。

 これが、青年の因縁生起を打破る宿命転換の日となった。


「返事はどうしたっ!!」


 ぐさりと拷問用の注射をする。


「ンぉほぉぉォォー!!」


 青年はあまりの痛みに絶叫をして、激しくヘッドバンギングをした。


「いいか、よく聞け。私は偉大なる唯一神シャインだ、私の指示にはすべて従え、反論は許さん!」


「ひゃ、ひゃい」


 舌がもつれて返事がままならない。


「どうした? もっと苦しみたいのか?」


 青年は喉がはちきれんばかりの大声で叫ぶ。


「シャ、シャイン・アクバル!!」


「キサマの名前はなんという?」


「タロウであります」


「なにをしていた」


「涅槃仏を待っておりました」


「なんだそれは」


「このスターゲート出口を抜けるときに、失神をして涅槃仏のように倒れることがあるのです」


「そんな不良ゲートは放置すべきではないだろうに」


「ゲートに一定の振動を与えると、神像から致死量の中性子が放射されるのです」


 それは、この場所に出口ゲートを設置したマヨヒガ教が施した過激な防犯対策であった。


「タロウは私になにをしようとしていたのか?」


「折伏であります」


「なんだそれは、三行で説明しろ」


 タロウが口をつぐんだまま、ガクガクと震えだした。


「さあ、教えてくれ」

 

 優しく慈愛に満ちた、聖母マリアの表情で促した。


「陀羅尼の呪詛に依るマインドコントロールです。一方的に相手を洗脳して奴隷にするのであります。素人の折伏ものは大人気であります、サー」


「まじかるぅぅぅ」


 シャインはまじかるハンマーでタロウの顔面をヒットした。


 バゴッ!! タロウは吹っ飛んだ。


 まじかるハンマーは、街で絡んできた三人組のうちのデブ男から押収したものである。

 これは『般若とよく訓練された王国民』という、大きなお友だち向けアニメの魔法少女が用いるピコピコハンマーの外見をした武器である。


 赤いまじかるハンマーは樹脂製で、中身が中空となっているので軽量だ。黄色い柄も中空で、その頂点には金色に輝く王冠があしらわれていた。

 まじかるハンマーは、アニメの設定を中実に再現した武器である。このハンマーの樹脂に魔力を帯びやすい黒曜石パーライトの粉末が練りこまれているのだ。


 説明しよう!!

 まじかるハンマーは、まじかるエナジーを表面に覆い、わずか1ミリ秒で強化を完了する。

 魔力を帯びた状態であれば、空の一斗缶レベルの攻撃力があるのだ。


 ビクッビクッと発作を起こしたタロウ。まじかるハンマーの当たった部分に、赤色の湿疹ができていた。

 

「まじかるアレルギーか!!」


 まじかるアレルギーとは魔法耐性のないものが、まじかるエナジーに接触をして起こすアレルギー症状である。


「……この手でいくか」


 苦しげに痙攣をするタロウを見下ろしながら、シャインはそうつぶやいた。



 ◇



 ロッコーシティ


 タウ星にあるシバキ大陸の最西端として知られるプチブル岬から北東に1,035マイル、北緯34度、東経135度。

 果てしなく続く乾いた荒野の中に、掃き溜めと揶揄される都市がある。


 キンキ州に属するロッコーシティは州都であり、この惑星において一人あたりの犯罪率がもっとも高い場所として知られていた。


 ロッコーシティの中心部であるウメタ地区から、ヨード川を挟んだ対岸にジュウソ地区がある。

 そのジュウソ地区の大通りに、神崎川興業の所有する地上四階、地下一階のビルがあった。

 黒い外壁にスモークガラスの窓、地元でブラックビルと呼ばれる建物は、ジュウソ地区を縄張りにするギャング団、神崎川ファミリーの拠点である。


 神崎川ファミリーは、ロッコーシティで最悪のクズ集団である。

 違法薬物の密売が主要な資金源であったが、小銭を稼ぐためにも手段を選ばない。

 野良猫の交尾動画を『素人無修正エロ動画』と称して販売したり、子犬の足をノコギリで切断して不幸な事故だと嘯いて募金詐欺をするなどはお手のものなのだ。


 その神崎川ファミリーに、海賊ギルドの幹部のハナテンは身を寄せていた。


 ハナテンが潜伏先のブラックビルの玄関を出た。神崎川ファミリーの息のかかった、イタミ宇宙センターの乙仲倉庫に向かうのだ。そこで、海賊ギルド経由で密輸したチャイナホワイトと呼ばれる合成ヘロインの売買を仲介するのである。


 ハナテンは身長約2mの仁王像のような容貌の用心棒たちを雇っていた。

 用心棒たちは日の丸ハチマキを締めて、迷彩7型の陸上戦闘服に身を包んでいる。冒険者ギルドから派遣された、金角と銀角というAクラスのバーバリアンの兄弟だ。


「ええ天気やのぉ」


 ハナテンは上機嫌で兄弟に話しかけた。


「いいですね」 「いやまったく」


「今夜はウリナラ貸し切っとうからの」


 ウリナラとは、ウメタ地区にある高級クラブ『ウリナラファンタジー』のことである。


「「あっ…………」」


 兄弟の趣味ではないらしい。


「なんや顔こわばっとんで。ええやん、ウ・リ・ナ・ラ、ちゅっちゅ♪」


 彼らは雑談に花を咲かせながら、違法駐車したK21歩兵戦闘車に乗り込んだ。




『觀自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄♪ 舍利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是♪』


 巨大なトラッククレーン車が猛烈な勢いで歩兵戦闘車めがけてやってきた。

 大通りは警察車両によって閉鎖され、車の流れが途絶えていた。そこを走行するのは、車内で大音量の般若心経を流すこの車両のみである。


 沈香の数珠を手首に巻いて、運転席のハンドルを握るシャイン。その助手席には、印を結び呪文を唱えるタロウの姿があった。


「南無八幡大菩薩 南無八幡大菩薩 南無八幡大菩薩 南無八幡大菩薩 南無八幡大菩薩」


 トラッククレーン車が歩兵戦闘車を押しつぶした。


 ガシャーン!!


 歩兵戦闘車がお釈迦となり、乗員乗客の大半がお陀仏になった。


 事故の瞬間を目撃した歩行者のアラフォー女が金切り声をあげた。


「善人なをもて往生す、まして悪人においてをや」


 南無阿弥陀仏とシャインは唱えた。


 シャインの操縦したトラッククレーン車は轟音をあげながら歩兵戦闘車から離れると、クレーンのアームでブラックビルの3階の窓を突き破った。


 シャインはタロウを運転席に座らせた。


「タロウ、いまからシャクティパットを行う」


「えっ?」


「まじかるぅぅぅぅぅー」


 まじかるハンマーでタロウのアージュニャー・チャクラ(眉間)をピコピコと連打する。

 タロウはビクッビクッと泡をふきながら、痙攣発作を起こして白目を剥いた。


 トラッククレーン車から飛び降りたシャインの手には、着火した線香の束が握られていた。

 シャインが、歩兵戦闘車から路面に漏れ出た燃料にその線香を投げ入れると、恐ろしいほどの勢いで歩兵戦闘車が紅蓮の炎に飲み込まれた。


 ブラックビルから大勢のギャングたちが飛び出してくる。


「カチコミやっ!!」


「わりゃ、なんやぁー」


「なにさらしくさっとンねんや!!」


 気の短いギャング数名が、抜身のドスを握ってシャインに飛びかかる。


「まじかるぅぅぅ、まじかるぅぅぅ、まじかるぅぅぅ」


 まじかるハンマーでギャングたちを沈めていく。

 さらに多くのギャングたちが、怒号をあげてシャインに突進してきた。


「検挙ーっ!!」


 シャインの号令とともに、ロッコー市警の警官隊が大挙して押し寄せた。ブラックビルの両隣にあるパチンコ屋に潜んでいたのだ。そして、周到に準備されていた捜査令状と捜査員たちにより、神崎川ファミリーのガサ入れが始まった。


 すべての幹部と組員は身柄を拘束されて、シャインにロボトミーを施術された。彼らは、右頬を打つ者には左頬を差しだす聖人に生まれ変わった。


 銀河パトロールと地元警察の台本によって、トラッククレーン車を運転していたことになったタロウは、業務上過失致死傷罪の被疑容疑で身柄を拘束後に逮捕された。

 最終的に検察審査会はタロウの不起訴処分を決めた。突発的な発作による心神喪失であるために、運転中の刑事責任能力が認められないとの判断を下したのだ。



 抜けるような青空にイタミ宇宙センターから軌道上のステーションに飛びたつ鈍色のカーゴが小さくなっていく。


 タロウがロッコー拘置所の玄関を出ると、タロウを出迎えたシャインの姿があった。


「正義は勝つ!」


 シャインはビシッとサムアップをした。


「ダー」


 タロウはサムアップを返して、白い歯を見せてイケメンに笑った。

 二人が出会ってから最高に爽やかなタロウの笑顔であった。

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