花ビラ落トシ
ある時、薔薇の精は恋をしました。
自分が咲く薔薇園を訪れた王子に、一目惚れしてしまったのです。
自分の美貌に自信を持っていた薔薇の精でしたが、この恋が叶うかどうか悩みました。王子は人間で、あまり此処へは訪れないからです。
彼女は自分の周囲にある薔薇を一輪つみ取りました。
薔薇さん、私の恋の結末を教えてちょうだいな。
そう呟きながら、妖精は花片を一枚ずつ落としていきます。
好き、嫌い、好き、嫌い。
ショックを受けた妖精は、別の花を摘み取りました。
好き、嫌い、好き、嫌い。
結果は同じ。
そんなことないわ、もう一回。数回しか会えなくたって、きっと王子さまは私に気づいてくれる。
一枚、一枚、また一枚。
一輪、もう一輪、まだ占ってみましょう。
次々と薔薇を摘んでは花片を毟り続け、やがて彼女が気がついた時、辺りには薔薇は一輪も咲いていませんでした。
ただ、鋭い棘が生えた蔦が残されただけ。
ああ、なんてこと。これでは王子さまも訪れてはくれないわ。
悲しみに打ちひしがれた薔薇の精は、自分も薔薇の花に姿を変えて最後の占いを始めました。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き、……嫌い。
最後の花弁が散った時、そこには美しかった薔薇の面影は有りません。
ただ、棘だらけの蔦の中心で、茎からぽっきりと折れた薔薇の残骸が横たわるだけでした。