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外套の人 森の中の話

作者: ruluie

思いつきのままに書いた小説になります。

眠気と戦いながら書いたせいか最後のほうはグダグダな感じになっています。

続きません。

黒い。ただ黒い空が広がっている。

沈み込むような、視ている者を吞み込むような黒い空。

瞬く星は黒い空を避けて何処かへ消え、やさしく夜を照らす月も無い。


そんな夜。


夜の下には森がある。

陽の下では新緑を湛え、鳥が舞い、風が鳴く豊かな森だ。

遠くは地平の山まで続き、永い時を過ごした証である大木を抱く広大な森。

命の息吹に満ち溢れるはずのそんな森も、夜の下ではひたすらに無音。

草木も獣も虫ですら、息を潜め、気配を絶ち、ただただ時が過ぎるのを待っている。


真っ黒な夜と音の無い森。

どこまでも続くかと思われた黒と沈黙の中に、光があった。

ゆらゆらと揺らぐ赤い光は人の営みの光だ。

決して強くは無い、枯れ木を燃料に燃える焚き火の光。

強くなくとも光の無い中ではことさら明るく、暖かいその淵に一つの人影がある。

フードのついた外套をまとい、膝を抱えて焚き火を見つめるその顔は、

目深にかぶったフードで隠れてうかがい知れない。

体の線も細く、一見では男か女の区別もつかないその人影の隣・・・手の届く位置には抜き身の剣が置かれている。

火の光を反射して鈍く揺らめいて輝く無骨な剣。

柄に巻かれた革帯は手の握りにあわせて磨り減っており、長く使い込まれているのが一目で見て取れる。

人影・・・外套の人は剣士なのだろう。

少し離れた地面には小型の背嚢が無造作に放られていた。


黒い夜。

無音の森。

焚き火。

外套の人。

それが、今の世界を構成する全てに思える中。

パキッ・・・枯れ木が爆ぜ、音の無い森に音が生まれた。

その音に誘われたかのように、夜気を含んだ冷たい風が吹き抜ける。

ウォォオオオオォォォォンンンンン―――――――

吹き抜けた風に遅れて、森が哭いた。

その哭き声は、恐怖を孕んで森中を駆け抜ける。


「・・・はぁ」


白い吐息とともに、風に吹かれて肩を震わせた外套の人からため息が零れた。

さらに、


「ついてない・・・本当についてない・・・一人旅なのはまだしも・・・

 もう1日も歩けば街だって言うところで"真夜"を過ごす事になるなんて想定もしてない不運・・・」


そう言って先ほどのものより深く、大きなため息をひとつ吐く。

そして、傍らの剣を手に取り立ち上がった。


「しかも"お客様"が・・・ホントに・・・今日は厄日だったかな・・・」


慣れた動きで右手に持った剣を正眼に構え、左足を半歩下げて半身を開く。

その立ち姿に油断は無い。

静かに、瞬きひとつも許さぬ緊張を持って外套の人は暗い森の奥を見つめる。


視線の先には・・・一対の赤い眼があった。


焚き火の光が届かないのかその眼を持つ者の姿は見えない。

外套の人を睨み付ける様に赤い目が細まり、

ゆっくりと・・・外套の人の背後へ回り込むように動き始める。

それに合わせて外套の人も右足を軸にゆっくりと回転する。

決して背後を取られないよう。

正眼の構えを崩さぬよう、慎重に。


5分もその状態が続いた頃、

先ほどよりも強く、冷たい風が森を吹きぬけた。


ゴォォォオオオオオオオォォォゥゥゥ――――――


森の叫びに恐れをなしたのか、それとも単純に風に煽られたからか、

外套の人の背後で焚き火が消える。

唯一の光源が失われたことに外套の人は舌打をひとつ。

光の無い森の中は真の暗闇だ。

数歩先はもとより、手元すら闇に吞まれて見え無い。

そんな中、風が動いた。


「ッ―――!!」


外套の人は焚き火が消える直前の記憶を元に、樹の無い左へ姿勢を低くして跳んだ。

直後、


ガォゥンッ!


風切音と共に、先ほどまで外套の人の頭があった位置を何か巨大なものが通り過ぎた。


「思ってたよりデカい!クソッ!厄日だからだなきっと!」


跳んだ勢いを殺さず、独楽の要領で足を軸にして左へ90度回転し、もう一度跳ぶ。


ブォゥンッ!


大質量の何かが通り過ぎる風を背に感じつつ、外套の人は記憶を頼りに手を伸ばす。

その手が、何かに触れる。


「あった!」


指先に触れたソレを引き寄せる。

ソレは・・・小型の背嚢。

外套の人の剣以外の唯一の持ち物だった。

素早く背嚢の口に手を差し込み・・・即座に地面を転がった。


バゴォゥッ!


外套の人の隣で地面が爆ぜた。

吹き飛ぶ土と衝撃波に押されて外套の人は予想以上の速度で転がり、


「いった!!痛い痛い!手加減を知れバカァ!」


鈍い音を立てて強かに背を樹の幹にぶつけた。

痛みを訴える文句と共に立ち上がり、

背嚢から何かを取り出して地面に叩きつけた。


バリィンッ!


何かは甲高い音を立てて地面に激突し、


ボォゥ・・・


赤い火を熾す。

外套の人が地面に叩きつけた物・・・それはランタンだった。

ランタンの燃料タンクから漏れたオイルと、

内蔵されていた火打石がぶつかり合った結果、生じた火。

火は暗闇の中で光源となり、外套の人を襲った何かの姿を照らし出す。


「・・・おぉぅ・・・デカい犬・・・」


何かはまさしく外套の人の言うとおり、巨大な犬だった。

大きさが規格外ではあるが。


Garururururu!


口は大の大人を丸呑みにできるだけの大きさと、飲み込んだものを粉々に砕く鋭い牙があり、

四肢は異常に太く、先には獲物を切り裂くための爪を持っている。

唸りを上げて獲物―外套の人を見つめる真っ赤な眼は血を求めてギラギラとした光を放っていた。


「"真度"が深い・・・!でも・・・やれないこともない・・・たぶん」


外套の人は再び剣を正眼に構え、左足を半歩引いて半身を開く。

その姿に敵意を感じたのだろう。

犬は四肢を曲げ、いつでも襲いかかれる体制に移る。


互いの距離は6mといったところか。

外套の人の持つ剣の間合いからは遠すぎ、

犬が飛び掛るには若干近い距離だが、爪や牙が届く距離ではない。



Gururururururu・・・・・・!!


低く、低く、どこまでも力を蓄えるように低く構える巨大な犬。

対して外套の人は全く姿勢を崩さず、正眼の構えを保つ。

犬の唸り声以外に音は無い。

互いの隙を伺うようにじっと睨みあう。

どれほどの時間がたったのか、

彫像のように動きのなかった一人と一頭であったが、

痺れを切らしたのだろう。

犬が外套の人へ向かって跳び込んだ。


Gyaooooooo!!!


雄叫び。

森を震わせる雄叫びを上げて犬は跳び掛りながらその爪を振り上げ・・・振り下ろす。


ブゥォン!


その体躯に見合った質量と膂力により、巨大な凶器が空を切り裂いて外套の人へと奔る。

触れるどころか掠めただけでも肉を削ぎ落とし、ひき肉へ変えてしまうだろうその一撃を、


「テェァッ――――!!」


外套の人は迎え撃つ。

犬が飛び掛ってきた瞬間に下げ始めていた剣の重さに引かれるようにその場で回転。

全力を剣先に乗せるように切っ先を下から上へと振り上げ―――


ガァンッ!!


迫り来る犬の爪を横から打ち据えた。

足、膝、腰、肩、肘、手首の回転を合わせ、遠心力を最大限活用した一撃は犬の爪を外套の人から逸らし、


バゴォゥッ!


激しく地面を打ち付ける。

外套の裾が犬の一撃で発生した衝撃波にはためくが、外套の人にそんなことを気にしている余裕は無い。


ガォゥンッ!


顎を開き、鋭利な牙を見せつけて迫る犬の口。

牙の一本一本が研ぎ澄まされた鋭利な刃物と同等の切れ味を持つことを外套の人は見抜いている。

触れればそれだけで肉を裂き、致命傷となる犬の牙を、

犬の爪を打ちつけた反動で体制を崩しつつも外套の人は前に跳び―――犬の体躯の―――その下を抜けてかわす。


「しッッッぬッッッッ!!!」


跳んだ勢いそのままに、外套の人は反転しつつ立ち上がり、


「ハァッッ―――!!」


左下から右上に向け、剣を振り上げた。


ガァンッ!!


2度目の激突。

獣の素早さで外套の人の背後から飛び掛り、その身を引き裂こうとしていた爪を弾き飛ばす。


Gyaooo!?


外套の人の反撃は犬にとって想定外だったのだろう。

驚くような叫びを上げる犬。

爪を弾かれた事により大きく体制を崩したその隙を外套の人は見逃さない。

一瞬で突きの構えを取り、腰と肩を捻りつつ剣を突き出した。


「突ッッッ!」


切っ先は吸い込まれるように犬の赤い右眼と左眼の間―――眉間を刺し貫いた。


GuGyaaaaaaaaaaaaaaaaooooooooooooooooo!!!!!


断末魔の叫び。

そうとしか取れない叫びを上げ、2度、3度と痙攣した後、巨大な犬は生命を止めた。

犬の巨躯が地に沈む。

外套の人は荒く息を吐き、剣を突き刺したまま、犬が動きを止めてから1分もした頃、脱力して腰を落とした。


「はぁッ・・・はぁッ・・・!はぁぁぁぁ・・・・・ッ。

 もうホント疲れた・・・・・・"真度"の深い獣とか一人で相手するものじゃないよ・・・まったく・・・」


疲れきった口調で外套の人は誰にともなく愚痴をこぼす。

しかし、その内容とは裏腹に、台詞には負の感情は少ない。

むしろ、


「でもまぁ、真度の深い獣は倒した後のこの光景がいいよね」


喜びを多分に含んだ口調の外套の人の目の前。

巨大な犬だったモノは、四肢の先から光の粒となってあたりを舞っていた。

無数の光の粒が青白い光を放ちつつ風に乗り流れる光景は、ある種神聖さを感じる幻想的な光景だった。

自分から光を放つ雪が舞うようなそんな光景。

外套の人はソレを視ながら、


「これを見る為に依頼を出す人とかもいるらしいし・・・それだけの価値があるってことだよね。

 路銀の足しになるものも・・・出た出た。」


犬の体の全てが光の群れとなった頃、外套の人は光の群れの中から八面体の結晶を手に取る。

光の群れが発する青白さとは違う、淡い暖かな光を宿すその結晶を見つめ、


「"真結晶"・・・こんな大きいのは初めて見たかも。いいお土産ができたなっと」


呟いて、拾った背嚢に押し込んで歩き出した。


「火の処理は風がやってくれたし、そろそろ行こうかな。

 夜明けまでしばらくあるけど・・・急げば夜中には街につけるよね」


外套についた汚れを払いながら歩き出す。

外套の人。

口元に笑みを湛え、彼なのか、彼女なのかわからないかの人は、街に向けて歩き出した。

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