昨日ハイグレ戦闘員に洗脳改造されたクラスメイトが朝普通に登校してきた件
僕はクラスメイトの一條さんと通学路が一緒だ。
彼女はカースト最上位の清楚系美少女でとても人気がある。
クラスではいつも人が周りにいてあまり話す機会はなく、登校時間は彼女を独占できる贅沢な時間だ。
今日も彼女の登校時間に合わせて家を出る。
「おはよう一條さん」
「おはよう鈴木君。聞いて聞いて、私さ、昨日洗脳改造されちゃったんだよね」
「え? 洗脳? 改造?」
「うん、ハイグレ戦闘員?ってやつになったの」
「そ、そうなんだ」
「ほら、週末ニュースで話題になってたでしょ? 宇宙人が攻め込んできて街を襲ってるって」
「え!? ……ああ、そういえばそんなこと言ってたような……、最近物騒で似たような事件多いよね」
「他人事じゃないから気を付けた方がいいよ、ほら天災は忘れた頃にやってくるっていうじゃん。自助が大切」
「そ、そうだね、気を付けるよ。でもそれって東京の浦安の辺じゃなかった? チュー衛門パークとか行ってた?」
「えっとね、ずっと秘密だったんだけど、実は私って悪の組織と戦うヒーローだったんだよね。で昨日出動したんだけど、結構手ごわい敵で、洗脳ビームに当たっちゃったんだ」
「雨に降られたくらいのノリで言うんだね……。てかそれ秘密なのに言っちゃって良かったの?」
「ヒーローは知られちゃまずいんだけど、今は洗脳されて悪の組織の側だからね。敵が困ることならむしろ言っちゃえ~みたいな?」
「悪ってとりあえず正義の逆張りする感じなんだ」
「うん、新洗脳戦闘員研修会で悪の組織の方針とか指導されたし」
「研修会あるんだ。悪いくせに」
「組織だからね。みんな同じ方向、向いてないといけないんじゃないかな」
「な、なるほどね。筋は通ってるかもしれない」
「研修結構がっつりやってくれてね、新人サポートしっかりしてるなって思った」
「戦闘員なのに、普通に登校するんだね。悪いことしなくていいの?」
「なんかね、学生のうちは普通に学校で勉強して自分の価値を高めるようにって」
「いい職場だ。いや、悪の組織だしやってることヤバそうだから悪いのかな?」
「その方がギャップがあって良いとか言われたわ。尊厳はか……えっと、なんだっけ、わかんないや」
「ギャップ?」
「うん、よくわかんないけどいっぱい勉強するようにって」
「で、じゃあ土日は洗脳戦闘員?するんだ」
「ずっとじゃないよ、シフトで今度の土曜夕方4時から8時まで。あ、だから土曜4時以降は普通に君とか襲うから逃げた方がいいよ」
「き、気を付けるよ……」
「あ、ヤバ。これは言っちゃダメなんだった。土曜日4時から駅前きてよ」
「いやいかないよ、されるんでしょ? 洗脳」
「あと、すごいへんなポーズのあいさつの練習させられた。研修会でみんなで一緒になってやったんだ」
「え、どんな感じなの。ちょっとやってみてよ」
「いや恥ずかしすぎて、あんなのここでできないよ……」
「てかそもそもさ、ハイグレってなに?」
「わかんない、変な制服着て今言った変なポーズ?するのがハイグレって敬礼なんだって」
「めっちゃ恥ずかしいんでしょ? 嫌じゃないの?」
「嫌に決まってんじゃん、でも洗脳されちゃったからね」
「そ、そっか。じゃあしょうがないね……」
「有給もみんな消化してるし、支配領地にどんどん別荘建てていくから、タダで使い放題になるんだって」
「福利厚生が充実してそうなのはいいかもしれないね……」
「あと産休中も給料出るんだって」
「すご」
「あとさ、改造するって言われて最初はちょっと怖かったけど、耳からチップぷちゅって入れられただけだったよ」
「痛くないの? それ」
「全然。去年までは痛かったらしいけど、戦闘員からクレームがついて痛くないように改良したんだって」
「ホワイトっぽいけど優しいところズレてるね、その組織。いや悪だからブラックかな……?」
「今も違和感とかないし。ハイグレって大声で叫ぶだけで戦闘員に変身できるんだ」
「え、今すぐでもできるの」
「できるけど人いっぱいいてめっちゃ恥ずかしいし。それに制服だから勤務時間外にするのってまずいんじゃない?」
「確かにそれはそうだけど、ちゃんとそこ気にするんだ」
「それになんかチップ入ってるだけでいいとも言ってたよ」
「え、なんで?」
「なんか自分だけじゃなくて周りにも良い影響があるんだって」
「良い影響?」
「うん、近くで会話してるだけで相手に自然に受け入れてもらえるって」
「へ~、それは便利だね」
「組織の株主様へのお祈りもしたよ。それから先輩戦闘員とバディになって1か月で3人は捕まえるか洗脳するようにって」
「そこはちゃんとカルトっぽくて安心したよ、逆に。教祖とか神じゃなくて株主ってのがひっかかるけど」
「中期経営計画では、3年以内に世界征服するってことになってて、とりあえず浦安からやってるんだって」
「上場企業かな?」
「学校着いたね、あっ早紀おはよ~。ねえ聞いて聞いて、私昨日さ……」
一條さんは別のクラスメイトを見つけると同じ話を始め、そのまま今朝の彼女との会話は終わってしまった。
その日の夕方、テレビでは大きなニュースが報じられていた。
エース級ヒーローが昨日浦安で悪の組織にやられて、どうやら結構ピンチらしい。
画面の中では、奇妙なスーツを着た戦闘員たちが逃げまどう人々を襲っている。
がに股で激しく手を振り下ろすポーズをしている戦闘員もいる。
不気味だがなんとも間の抜けたポーズだ。
多分これがハイグレなんだろうけど、確かに恥ずかしいかもしれない。
僕はテレビのスイッチを切った。
これは遠い浦安で起こっている事件、群馬に住む僕達には何の関係もない話だ。
たとえ彼女が洗脳されていようと、朝の彼女との他愛もない会話が続けられればそれでいい。
僕と彼女の朝のひと時は、もうしばらくの間続けられそうだ。




