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俺の自作黒歴史カードゲームが、まさか潰されそうなキミの逃げ場になるなんて【後篇開始】  作者: とむ
前篇

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2.あなたはこのデュエルに敗北する


 俺が今の“普通”のカーストにしがみつくようになったのは、たしか中学生のときだった。


 当時、初恋の相手だった篠崎絢美は、順風満帆な学生生活を送るいわゆる“キラキラ女子”。

 それまで男友達とゲームやらカードやらでバカ騒ぎしていたような俺でも、「このままではダメだ」と思い至るのに十分なカースト格差があったことを覚えている。


 幸か不幸か、当時の俺がショップの大会に出るほどハマっていたカードゲーム『創世ドラゴンズクロニクル』は、ちょうど暗黒期に入り始めていた。

 複雑化したカードテキスト、おまけにカード名やイラストの路線がリアルな厨二ファンタジーから、子供向けのテイストに大幅変更(改悪)されたことも相まって、それまでの“生きがい”を切ることに大した葛藤は生まれなかった。



 それから間もなく、篠崎がサッカー部の主将と付き合い始めたことで、俺の初恋はあっけなく終わったわけだが――それでも、やはり後悔はなかった。


 昼休みにバスケで遊ぶグループの輪に勇気を出して加わったことで、それまで比べ物にならないほど多くの人との接点が生まれた。

 家や公園でゲームやカードで遊んでいるだけでは辿り着けなかった、カラオケやカフェへの寄り道、友達の家でのワールドカップ観戦など、たくさんの新しい世界を見ることもできた。


 大きな一歩を踏み出した過去の自分には、ものすごく感謝している。


 それだけに、心の奥底に眠っていたどうしようもなく矮小な――しかし捨てることのできなかった情熱が、高校に入学した今になって再燃を始めたことに、俺は大いに困惑した。



 ◆



 あれは、数日に渡る構想の末に生み出した傑作クリーチャー(とついでに10分で作ったグッドスタッフカード)だった。

 そんなわが子と言っても差し支えない血と涙の結晶に対し、勝手に禁止裁定を下されてしまった俺は――



「ま……待って、勝手なことをしないでくりぇ!」


 考えるより先に、行動を起こしてしまった。

 自ら扉を勢いよく開け放ち、気付けば彼女の前に立っていた。

 しかもセリフを噛みながら。


 こちらを向いた海風の目が大きく開かれ、一瞬にして血の気が引いていったのも当然だろう。


「む、室井クン!?こ、これは――」


「……勝手なことをしないでくれ!」


 セリフの言い直しに成功した俺は、懸命に次の言葉を探した。


『まずは禁止の理由を聞かせてくれ!』

『次弾でメタカードが出るから!』

『たしかに2ターン目で2ドローはやりすぎたかも』


 ――それはもう、たくさんの言葉が脳裏に浮かんだ。


 しかし、「あはは……」と漏らしたまま、引きつった笑顔で俺と一定の距離を取り、荷物棚を背にじりじりと入口を目指そうとしている今の海風の姿を見ているうち、俺の中にさっきまであった威勢が、段々と失われていくのが分かった。


「わ、私……何も見てないから!じゃ、じゃあね!」


 そして、去り際にそそくさと放たれた彼女の優しい嘘に――俺は真の敗北を喫した。



 夕暮れどきの教室に残された俺と、机の上のコピー用紙製カードたち。


 窓の外から、塒に帰るカラスたちの鳴き声が聞こえた。



 ◆



 ――翌日。


 幸いにも、俺が恐れていたようなハルマゲドン(黒歴史バレ)が起こる気配は、教室内に微塵も漂っていなかった。


 しかし、俺の心中は相変わらず穏やかでない。

 朝練終わりの海風は、部活仲間と他愛のない話をしていて接触する隙がなかった。

 そして、一限目が始まった今となっては席が大きく離れてしまっているうえに、座席は俺の方が数列前ときた。


 これでは彼女の顔を見ることもできず、昨日のことをどう思っているのかなんて、一切汲み取れなかった。



 チョークを黒板にコツコツと叩きつける音、本格的な猛暑を前に落ち着きを無くしたセミたちの合唱。

 そんな数多の雑音に紛れ、一瞬だけ震えたスマホを机の陰に隠すように手にした。

“イチサン軍団”と名打たれたグループメッセージの通知、送り主は“きょーや”だ。


『今日の天宮祭り、みんなで一緒にいきませんか! “調整ちゃん”用意したので、参加可否おしえてください! 集合は19:00に鳥居前で』


 ほどなくして、これにいくつかの返信があった。


『いつも企画ありがとー!』

『今夜雨違ったっけ? いくけども!』


 やべ、誰かが返信するたびにスマホが震える。

 皆どんだけ授業聞いてないのよ……人の事言えないけど。


 とにかく先生に見つかるとアレなので、通知をオフにして、調整アプリの“〇”を選択してから『行くにきまっとるやろがい!』とだけ打ち返し、俺はスマホをそっとポケットにしまった。


 天宮祭りはガキの頃から数えて、もう何度行ったかも分からないようなお祭りだ。

 だから、本当は特別行きたいわけでもなかった。


 でも、今日はバイトも無いし、うちは特待生を数多く迎えるスポーツ強豪校なだけあって、他所から来ている――つまり、天宮祭りを初めて見る寮暮らしのクラスメイトだっている。

 そんな彼らが繋がりたいと言うのなら、それを無下にする理由はない。


 実際、そんな“繋がり”なるものに、俺も救われているのだから。



 ◆



 祭囃子にのって、四方でさんざめく人々の喧噪。

 どこまでも並ぶオレンジのテントを節操のない色とりどりの丸文字が飾り、石畳に沿って輝く提灯や灯篭が、夜の天宮神社に奥行きを作り出している。


 鳥居前に着いたが、まだ誰も待っていないらしい。

 集合時間までまだ15分ある……まぁこんなものかな。


「まてやサトルーっ」


「きゃははっ」


 そう思ってぼんやりと祭りの景色を眺めていると、小学生くらいの子供たちが棒を振ると紙が伸びるオモチャを手に、石畳の上で追いかけっこをしている様子が目に飛び込む。

 そして、そんな彼らの向こう側に、子供たちが列をなしている“くじ引き”の屋台が見えた。


 ずしりと椅子に座るオジサンの後ろには、大きなエアガンやらケースに入ったレアカードやらが飾られている。

 そして、その足元には『1回300円』と描かれたボードと、カゴいっぱいに詰められた数多のチープなオモチャたち。


 そうか、子供たちが握りしめるお小遣いは、今もこうして社会勉強代として吸われているんだな。

 俺も昔は、あの後ろに飾られているレアカードが欲しくて、お小遣いが尽きるまで引きまくったなぁ……当たるはずなんてないのに。


 そんな感傷に浸っている最中だった。

 目を輝かせる子供たちに混じって、レアカードのケースを眺めている一人の人物の姿が、俺の目にとまった。



 ……あ。


 あれは――海風だ。



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