表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/65

第六十四話:五色の花嫁、主様争奪戦

 世界のシステムが消え、新しい太陽が沈んだ後の王都シュトラール。

 王城の空中庭園は、凱旋の祝宴の喧騒を離れた、静謐で、けれど焦れるような熱気を孕んだ「戦場」へと変貌していた。


「……さて。世界を救ったことと、貴女たちの働きには、改めて感謝するわ」


 アイリスが、白銀の月光を浴びながら、優雅にワイングラスを傾けた。

 彼女の正面には、正装に身を包んだルナ、ガオ、リタ、セレナ、フィオナ、そしてヴィクトリアが、かつての神殺しの時よりも真剣な面持ちで並んでいる。


「でも、それはそれ、これはこれよ。……レイの『正妻』、つまり私の本当の『娘』になる覚悟、……誰が一番持っているのかしら?」


 アイリスの挑戦的な問いかけ。それが、決戦前夜のゴングだった。


「……私。……主様が、……あの日、……影の中にいた私を見つけてくれた。……だから、……一生、……離さない。……例え、……お母様でも、……譲らない」

 ルナが、一歩前に出て私の手を握りしめた。彼女の銀髪が私の腕に絡み、静かな、けれど逃げ場のない独占欲が伝わってくる。


「旦那! アタイは、……あんたの『盾』だ! ……でも、……今夜だけは、……あんたに甘える『女』でいさせてくれ! ……アタイ、……あんたがいない世界なんて、……もう二度と御免なんだぜ!」

 ガオが、私の首筋に顔を埋めて、大きな尻尾で私の腰をぐるぐると拘束した。彼女の熱い吐息が、英雄としての緊張を甘く溶かしていく。


「レイ様! 私の錬成陣は、……主様の愛の鼓動なしには、……もう動かないのですわ! ……私の、……私のすべてを、……貴方の『一部』にしてくださいまし!」

 リタが、黄金のオイルを手に……ではなく、今夜は一輪の白銀の花を差し出し、涙ぐみながら私の服を掴んだ。


「……レイ。一秒先の未来を視るのを、……僕はもうやめた。……キミと一緒に、……一秒ずつ、……不確かな『今』を積み重ねていきたいんだ。……僕を、……独りにしないで」

 セレナが私の膝の上に座り込み、その紺碧の瞳でじっと私を射抜く。


「……レイ様。……皆様との争いも、……慈愛で包み込んで差し上げます。……ですが、……貴方の隣で、……朝を迎えるのは、……私……フィオナでありたいのです」

 聖母の如き微笑みを浮かべつつ、フィオナが私の頭を柔らかな膝へと誘う。


 そして、最後の一人。

「……貴公、……私は騎士だ。……だが、……アイリス様の弟子として、……そして、……一人の女として。……貴公を、……誰にも、……師匠にさえも渡したくはない……っ!」

 ヴィクトリアが、顔を真っ赤にしながらも、私の正面に立って、その手を強く握りしめた。


「「「「「「主様(レイ様、貴公、レイ)!!」」」」」」


 六人の、……そして背後で「……あら、私も混ぜなさいよ!」と割り込もうとするアイリスの、重すぎるほどの愛の重圧。

 

 かつて、追放された一発屋だった私は。

 今、世界で最も「必要とされる」男になっていた。


「…………母さん。……そして、みんな」


 私は、一人ずつの手を、一人ずつの瞳を、ゆっくりと見つめ返した。

 

「……俺は、……あの日、……お前たちに出会えて、……本当によかったと思っている。……お前たちの誰が欠けても、……今の俺はいない」


 私は、自分の胸の『極光の魔導核』に手を当てた。

 そこには、六人の絆が、……そして母の愛が、……一つの大きな因果ヒカリとなって脈打っている。


「……誰か一人なんて、……選べない。……俺は、……お前たち全員を、……この新しい世界の、……俺の隣に、……一生繋ぎ止めてやる。……文句、……あるか?」


 私の傲慢な、……けれど全力を尽くした「反転」のプロポーズ。

 

「……あはは! さすが私の息子ね! ……全員まとめて幸せにするなんて、……最高に破廉恥で、……最高にカッコいいじゃないの!」

 アイリスが、満足げに笑って私の背中を叩いた。


「「「「「「……はい……っ! 喜んで……主様!!」」」」」」


 六人のヒロインたちの顔に、世界で一番美しい「原色」の笑顔が咲いた。

 

 空中庭園に響き渡る、幸せな笑い声と、賑やかな争い。

 明日からは、建国という名の新しい戦いが始まる。

 

 けれど、今夜だけは。

 私たちは、神の管理から解き放たれた自由な空の下で、……永遠に続くかのような、……温かな絆の夜を過ごした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ