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第五十五話:第零の筆、夢の終わりと再起動(リブート)

 世界の心臓部、真神システムの中枢。崩壊を始めた白銀の球体から、一人の青年が、まばゆい光を纏って静かに舞い降りた。


 その顔は、ジョシュアのように傲慢でも、アイリスのように苛烈でもない。ただ、果てしない年月を独りで過ごしてきた者だけが持つ、深い孤独と、透き通るような虚無を宿していた。


「……ようやく、ここまで辿り着いたか。……不完全な、僕の愛し子たちよ」


 彼こそが、世界の始まりに立ち、自らをシステムに捧げて『反転』という理を編み出した、最初の人間――**『第零のプロトタイプ』**。


「……あんたが、……このふざけた箱庭せかいを管理してきた黒幕か」

 私が剣を向けると、第零の筆は悲しげに首を振った。

「……黒幕、か。……僕は、ただこの世界を壊したくなかっただけなんだよ。……反転という『嘘』で塗り固めて、……一兆回も同じ悲劇を繰り返させてでも、……因果の帳尻を合わせなければ、……この薄っぺらなキャンバスは、……一瞬で破れてしまうからね」


 彼が指を一振りした。

 瞬間、周囲にいた数千人のレイたちの攻撃が、放たれる前に「無」へと反転消去される。

 

「……視える。……この人、……世界を守るために、……自分という存在を捨てて、……永遠に終わらない『昨日』を再生し続けているんだ……っ!」

 セレナが紺碧の瞳から涙を零した。

 第零の筆の『反転』。それは、進もうとする「明日」を「昨日」に引き戻し、破綻した因果を無理やり修復し続ける、自己犠牲という名の呪い。


「……あはは、……綺麗だね。……でも、……その『色』も、……僕が管理する範囲内だ」


 第零の筆が放つ、絶対的な静寂の波動。

 だが、その冷たい因果を、数千人の「俺」たちが、一歩も退かずに受け止めた。


「……あんたの言い分は分かった。……でもな、……俺たちの『反転』は、……あんたの都合システムじゃないんだ(聖騎士レイ)」

「……俺たちが、……泥を啜って、……誰かを愛して、……ようやく掴み取った『俺たちの色』だ。……誰にも、……神様にだって返してやらない(魔王レイ)」


 聖騎士、魔王、老人、女性。

 無限の並行世界から集まった「レイ」たちが、次々と私の元へ歩み寄り、私の肩に、背中に、その手を重ねた。


「……行け、レイ。……お前は、……俺たちが辿り着けなかった、……最高の『可能性』だ」


「……母さん! ……みんな!! ……俺に、……全宇宙の『今』を貸してくれ!!」


 ルナ、リタ、ガオ、セレナ、フィオナ、ヴィクトリア。

 そして実体化したアイリスが、私の心臓を包み込むように魔力を注ぎ込む。

「……行って、レイたち! ……この不器用な神様に、……『愛』という名のノイズを叩き込んで、……その孤独を終わらせてやりなさい!!」


 数千人のレイたちが、光の粒子となって私へと溶け込んでいく。

 全宇宙、全因果の集束。

 私の身体は、あらゆる色彩を反射し、あらゆる絶望を飲み込む、神々しい白銀のオーラに包まれた。


「…………銀河反転ギャラクシー・リブート、……全宇宙の孤独ごと、……食い破れ(グランド・リセット)!!」


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!

 

 世界が、真実の光で塗り潰された。

 神が強いた「繰り返される昨日」を、一度きりの「自由な明日」へと一気に反転させる。

 白銀の迷宮が砕け、システムの歯車が溶け、第零の筆を縛っていた孤独の鎖が、私の放つ「温かな絆」によって一本残らず焼き切られた。


「……あ、……あぁ……っ。……綺麗だね。……ようやく、……僕のせかいに、……本物の『熱』がついたよ……」


 第零の筆が、憑き物が落ちたように微笑んだ。

 彼の身体が光に溶け、システムという名の巨大な檻が、音を立てて崩壊していく。

 

 同時に、共に戦った並行世界のレイたちが、一人、また一人と、自分の世界へと還り始めた。


「……あっちの俺によろしくな(魔王レイ)」

「……君の隣にいる人たちを、……大切にね(聖騎士レイ)」


 彼らの背中を見送りながら、私は、自分の手に残る確かな重みを確認した。

 

 ◇


 王都シュトラールの空。

 そこには、偽りの[DELETE]も、ジョシュアの汚れたインクもなかった。

 数百年ぶりに、システムという「管理」から解き放たれた、本物の朝日が昇り始めていた。


「……終わったのか。……本当に」

 ヴィクトリアが、ボロボロになった盾を置き、眩しそうに目を細める。


「……ええ。……管理システムは消えたわ、レイ。……でもね」

 隣で私の腕を抱きしめていたアイリスが、不敵に、そして楽しそうに口角を上げた。


「……管理が消えたってことは、……ここからは本当の『弱肉強食のカオス』が始まるわよ? 神様が止めていた不都合な隣国や、……野心家たちが、……一斉に動き出すわ。……準備はいい、救世主むすこ?」


「……ああ。……望むところだ。……どんな絶望が来ようと、……俺が全部、……最高の明日に反転させてやるよ」


 私は、五人のヒロイン、そして最強の姑と戦友と共に、新しい世界の眩しい光の中へと踏み出した。


 反転者の物語――第一部:神殺し編、完結。

 

 そして、物語はシステムなき「自由」がもたらす大混乱と建国の第二部、**『建国の王と、嫁姑の戦国時代』**へと加速していく。


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