第五十四話:因果の合唱(コーラス)、神の回路を焼き切れ
世界の心臓部、真神の中枢。白銀の幾何学迷宮が、エラーの火花を散らして軋んでいた。
視界の端から端までを埋め尽くしているのは、私と同じ顔を持ちながら、異なる運命を辿った「別の世界の私」たち――『反転者連合』の軍勢だ。
「……あ、あぁぁぁ……っ! 右を向いても主様! 左を向いてもレイ様!! データの宝庫……錬成の楽園……ここが、ここが私の探していた『知の深淵』ですわ!!」
リタが、自身の錬成陣を限界以上に広げながら、歓喜のあまり鼻血を出しそうな勢いで叫んだ。
彼女の『概念分解』が、迷宮の壁から次々と襲いかかる防衛兵器を「素材」へと分解し、一瞬にして数千人分の『白銀兵装』へと再構成していく。
「リタさん、落ち着きなさい! どの子に装備を渡すか迷っている暇はないわよ! 全員に配って、一気に押し潰すわよ!!」
アイリスが、数人のレイたちの肩を抱き寄せ、幸せそうな(けれど少し怖い)笑顔で戦場を指揮する。
「……全軍、突撃! 救世主(本体)の道を、一秒たりとも邪魔させるな!!」
ヴィクトリアの号令が響き渡る。
先頭に立つのは、聖騎士の鎧を纏ったレイ。
「……僕の『反転』は、守護のためにある。……道は、僕が作る!」
彼が剣を振るえば、システムの放つ消去プログラム(白いレーザー)が、逆に「鉄壁の障壁」へと反転され、私たちの進路を完璧にガードする。
続いて、魔王の角を生やした漆黒のレイが空を舞う。
「……ぬるいな。……壊すなら、根源からだ。……反転、……因果の爆ぜる音を聴け!」
彼の放つ『漆黒の反転波』が、迷宮の回路を物理的に捻じ曲げ、システムの計算速度を強引に遅延させていく。
「……旦那! あたいたちも、負けてらんねえぜ!」
ガオが義手を打ち鳴らし、ルナが影を跳ねる。
オリジナルのヒロインたちも、数千人の「旦那」に見守られ、かつてないほどの高揚感の中で神の軍勢を蹂躙していく。
『 ―― [ ERROR : UNKNOWN ENTITY REPLICATION ] ―― 』
『 ―― [ INITIALIZING PHYSICAL CONSTANT OVERRIDE ] ―― 』
追い詰められたシステムが、最後の防衛手段を起動した。
迷宮内の重力を「ゼロ」に、熱量を「絶対零度」に固定し、すべての物質の動きを強制停止させようとする。
「…………これだけの人数がいて、……止まってたまるかよ」
私は、全宇宙から集まった「自分」たちを見回した。
私たちは全員、あの日「一発屋」として捨てられた。だが、それぞれの世界で、誰かを愛し、誰かに救われ、別の色を手に入れてきたんだ。
「……みんな! 繋がれ!! 俺たちの『異なる色』を、一つの『光』に編み上げるぞ!!」
私が叫ぶと、数千人のレイたちが、一斉に隣り合う者と手を繋ぎ、巨大な円陣を組んだ。
中心に立つ私の『極光の魔導核』が、全並行世界の「俺」たちの魔力を吸い込み、限界を超えて鳴り響く。
「…………万象反転、……全因果を、合唱して、……食い破れ(オーバー・ロード・インヴァーズ)!!」
ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
白銀の迷宮が、虹色の爆発に飲み込まれた。
数千人の『反転』が重なり合い、単一の法則を、無限の可能性という名の「インク」で塗り潰していく。
絶対零度は極大の熱源へ。無重力は無限の圧力へ。
システムが設定した「停止」という名の結末が、私たちの「生命の合唱」によって木っ端微塵に粉砕された。
バチバチバチッ!! と、空間全体がショートするような音を立てて崩壊し始める。
白銀の壁が剥がれ落ちたその先。
そこには、拍動を繰り返す巨大な白亜の球体――**真神の核**が、剥き出しになって鎮座していた。
「……あれが、……心臓……」
セレナが、震える指でその球体を指差した。
球体の表面には、ノイズに混じって、誰かの「顔」が浮かび上がっては消えていく。
「……レイ。……あの顔、……見覚えがないかい?」
セレナの言葉に、私は息を呑んだ。
浮かび上がったのは、ジョシュアでも、アイリスでもない。
かつて私を追放した勇者でもない。
それは、……この世界の「最初の記録」に記された、……世界の真の創造主――**『第零の筆』**の姿だった。
「……僕たちは、……この人の『夢(設定)』を、……ずっと生かされてきただけなんだ……」
コアの中から、一人の人物がゆっくりと実体化を始める。
「…………ようやく来たか。……不完全な、……僕のバグ(愛し子)たちよ」
反転者の物語は、システムの防衛を突破し、ついに世界の「起源」そのものとの対面を果たす。
「…………制約を、……この世界の始まりごと、……食い破れ!!」
私は、数千の自分たちと共に、世界の始まりという名の「絶望」へ向かって、最後の一撃を振りかざした。




