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第五十一話:虚無の回廊、偽りの『反転者』

 世界の裂け目を抜けた先。そこは、私たちが知る「空」も「大地」も存在しない、ただ純白の幾何学模様が無限に続く、無機質な電脳の迷宮だった。


 音もなく、風もない。あるのは、規則正しく明滅する発光体と、計算され尽くした冷徹な秩序だけ。

 一歩踏み出すたびに、私の『極光の魔導核』が「エラー」を告げるように不快な共鳴音を鳴らしている。


「……不愉快極まりないわね。命の鼓動が一つも聞こえない。ここが私たちの世界を『管理』している心臓部――真神システムの深淵よ」

 アイリスが、白銀のドレスの裾を翻しながら、不機嫌そうに周囲を見渡した。彼女の『根源反転』をもってしても、この空間の「無機質な理」を裏返すには、強固な抵抗を感じているようだ。


「……ヴィクトリア、盾の強度が落ちているぞ。……リタ、錬成陣の展開を急げ!」

 私が叫ぶのと同時に、ヴィクトリアが構えていた『断罪の騎士盾』の端が、ボロボロとデジタルノイズのように崩れ始めた。

「……貴公、気にするな! 盾の定義が書き換えられているだけだ。……私の騎士道(意志)が折れぬ限り、この盾は……っ!」


 その時だった。

 純白の壁から、ノイズと共に「何か」が染み出してきた。


 一つ、二つ……、瞬く間にその数は数百へと膨れ上がる。

 現れたのは、私と全く同じ姿、同じ魔導衣を纏い、同じ『反転』の気配を纏った――**「コピーレイ」**の軍勢だった。


『 ―― [ 不確定要素の解析完了。……排除プロセスを開始します ] ―― 』


 無機質な、感情を削ぎ落とした私の声が、通路全体に響き渡る。

 コピーたちは一斉に右手を掲げ、私の決め台詞を機械的に唱えた。


『…………制約を、……食い破れ』


 ドォォォォォォォォォンッ!!

 

 通路を埋め尽くす、数百発の『反転』の光。

 それは威力こそ本物に劣るものの、システムが最適化した「効率的な破壊」として、ルナやガオたちに襲いかかる。


「……っ、……主様……? いえ、……偽物……。……分かっていても、……その顔を、……斬れない……!」

 ルナが魔剣を握る手を震わせ、一瞬の隙を見せる。

 コピーの一体が彼女に肉薄し、私の声を完璧に再現して囁いた。


『愛しているよ、ルナ。……だから、僕の一部になって、……静かに消えておくれ』


「……あ、……ぁ……っ」

 ルナの瞳が揺らぐ。偽物だと分かっていても、主様の声で「愛している」と言われることが、彼女の不変の意志を根元から揺さぶっていた。


「旦那! こいつら、アタイたちの『思い出』をトレースしてやがる! ……ふざけんな、……そんな軽い言葉で、アタイを揺さぶれると思うなよ!」

 ガオが吠えるが、自分と同じ顔の集団に拳を振るうことに、僅かな躊躇いが生まれているのは明白だった。


「…………紛らわしい真似、してんじゃねえよ」


 私は、仲間たちの前に一歩踏み出し、胸の魔導核を最大出力で鳴らした。

 

 コピーたちの放つ魔力は、透き通っていて綺麗だ。だが、そこには「痛み」がない。「迷い」がない。そして、彼女たちと過ごした「時間の重み」が欠けている。


「……俺の『反転』はな。……こいつらが泣いた数、笑った数、……そして俺を信じてくれた、その『重い記憶』でできてるんだよ!」


 私は、自身の因果を五人のヒロイン、そしてヴィクトリアと母に直結させた。

 

「…………三位一体トリニティ、……偽りの因果ごと、……食い破れ!!」


 ドクンッ!!

 

 私の心臓から放たれた白黒の奔流が、通路を埋め尽くすコピーたちを飲み込んだ。

 本物の『反転』。それは、単なるエネルギーの衝突ではない。

 これまでの旅路で積み上げた「生きた感情」という名の絶対的なインク。


 コピーたちが放つ「軽い反転」を、私の「重い反転」が上書きし、一瞬で数百体の偽物をデジタルノイズへと反転消去した。

 偽りの愛を、本物の絆が粉砕したのだ。


「……はぁ、……はぁ。……大丈夫か、みんな」


「……主様。……ごめんなさい。……一瞬でも、……迷った私が、……愚かでした」

 ルナが私の腕を強く握りしめる。その指先の震えは、今度こそ本物の「熱」を伴っていた。


 だが、安堵の瞬間は訪れなかった。

 空間全体が、悲鳴のような不快な電子音を立てて震え始める。


『 ―― [ 不確定要素の排除に失敗。……フェーズ2へ移行。……マルチバースの統合を開始します ] ―― 』


「……レイ、まずいわ。システムが、私たちの世界だけでは処理できないと判断したわ」

 アイリスが、空に開いた新たな「次元の穴」を指差した。


「……システムが、……他の『並行世界(別の可能性)』から、貴方と同じバグ――別の姿の『反転者』を呼び寄せようとしている!」


 裂け目の向こう。

 そこには、私が知る自分とは違う、けれど間違いなく「レイ」である別の存在の影が、巨大な鎌を手に立っていた。


「…………別の、俺だと?」


 反転者の物語は、ついに一つの世界を越え、無限の可能性が衝突する**並行世界大戦マルチバース・ウォー**へと突入する。


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