表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/65

第五十話:決戦前夜、五色の花嫁と白亜の姑

 王都シュトラールの最上層、天空に突き出した空中庭園。

 そこは本来、荒れ果てた石造りのテラスだった場所だが、実体化したアイリスが指先一つで『反転』させ、今や常春の花々が咲き乱れ、芳醇な果実が実る、神の画室さえ凌駕する地上最高の楽園へと作り変えられていた。


「さあ、レイ。……最後の晩餐くらい、お母様の最高の手料理を心ゆくまで堪能なさい。……あら、貴女たち? 箸を動かす前に、レイの口に運ぶ許可を私から得なさいね?」


 円卓の中央。アイリスが神域の食材を錬成して作り上げた、光り輝くご馳走が並ぶ。

 だが、その豪華な料理以上に熱を帯びていたのは、私の周囲を隙間なく埋め尽くす六人の視線だった。


「……主様。……最後かもしれないから。……一口、……あーん」

 ルナが、いつになく大胆に私の隣に密着し、震える手でフォークを差し出してきた。

 彼女の銀髪が私の肩にかかり、月光を受けて白銀に輝く。

「……ルナ。……主様の隣は、私の……定位置」

 影の中から別の腕が伸びる。ヴィクトリアが、騎士としての面目をかなぐり捨てて私の反対側の腕を抱きしめていた。

「師匠、今日だけは……今日だけは私にもチャンスをください! 私は、……私はただ、……貴公の食べこぼしを拭ってやりたいだけだ(=密着したいだけ)!」


「チリンッ!! ちょっとヴィクトリア、……貴女、……一番狡いわよ! 弟子という立場を悪用して、……レイの肘に胸を押し当てるなんて! 破門よ、……破門なんだから!!」


 アイリスが立ち上がり、魔力を爆発させて絶叫する。

 だが、今夜のヒロインたちは止まらなかった。


「旦那! アタイのこの義手、……旦那の魔力を直接浴びると、……なんだかジリジリして眠れねぇんだ。……今夜は、……アタイを抱き枕にして寝てくれ!」

 ガオが私の首筋に顔を埋め、大きな尻尾で私の腰をぐるぐると拘束した。

「……リタ、……貴女も何か言いなさいな!」


「……私は、……主様の全身の魔力回路を、……私の指先で……ええ、毛穴の一つまで調律して差し上げますわ!」

 リタが黄金のオイルを手に、恍惚とした表情で私の服の裾を掴む。

「……レイ様の、……この、……逞しくなった身体……。……私の錬成陣が、……悦びに溶けてしまいそうですの……っ!」


「……レイ。……一晩なんて、……短すぎるよ」

 セレナが私の膝の上に座り込み、じっと私の瞳を覗き込んできた。

「……僕が、……この一晩の時間を反転させて、……『一年分』に引き延ばしてあげる。……たっぷり、……僕と過ごそうね?」


「皆様、……レイ様が困っていらっしゃいますわ。……さあ、……レイ様は私の膝の上へ。……一番安らぐ福音を、……耳元で囁き続けて差し上げますわ……」

 フィオナが聖母の如き微笑みで、私の頭を柔らかな膝へと誘う。


「…………お前たち。……明日は、……世界の心臓部システムへの突入なんだぞ」


 私が溜息を吐きながら言うと、六人の動きが一瞬だけ止まった。

 

「……分かっているよ、レイ。……だから、……だよ」

 セレナが、私の頬にそっと手を添えた。

「……消去デリートなんて、……させない。……キミと一緒に、……この騒がしい明日を、……また迎えたいんだ」


「……主様。……私は、……折れない。……貴方が、……私を塗り替えてくれたから」


「……そうだぜ旦那! アタイたちが、……神様よりも重い愛で、……旦那の背中を支えてやるよ!」


 彼女たちの瞳に宿る、偽りのない、そして重すぎるほどの愛。

 それこそが、一日に一度しか『反転』を放てなかった一発屋の私を、ここまで連れてきてくれた。

 

 アイリスが、いつの間にか険しい顔を緩め、涙を堪えるように微笑んでいた。


「……ふん。……認めないわよ、……認めないけれど。……レイが、……これほどまでに多くの『原色』に愛されていることだけは、……母親として、……少しだけ誇らしいわね」


 アイリスが私の元へ歩み寄り、ヒロインたちの包囲網を割って、私を抱きしめた。


「……レイ。……私の、……自慢の息子。……お母様を、……そしてこの子たちを……絶対に、……消させはしないわよね?」


「……ああ。……当たり前だ。……世界を消しに来たってんなら、……その『消しゴム』ごと、……俺が全部反転させてやるよ」


 私は立ち上がり、夜空に浮かぶ無機質なエラーログ――白く欠け始めた星々を睨みつけた。

 

 胸の『極光の魔導核』が、彼女たちの愛と魔力を受けて、かつてないほど純粋な白銀の輝きを放つ。

 

「…………制約を、……この絆のすべてを懸けて、……食い破れ(オール・オーバー・インヴァージョン)!!」


 反転者の物語は、最強の六人と一人の愛を翼に変えて、ついに世界の心臓部――真神システムを貫く、最後の一撃へと向けて飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ