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第三十五話:五色の絆、因果の共鳴(シンクロ)

 北の霊峰『蒼氷の頂』。

 『原初の白銀』によって打ち直された新兵装を手に、私たちは修行の最終段階へと入っていた。


「チリンッ! ちょっとレイ、何を考えているの!? その子たちの体内に貴方の魔力を直接流し込むなんて、それはもう……それはもう、魂の婚約エンゲージじゃないの! 許さないわ、お母様は認めないわよ!」


 懐の『母の鈴』から、アイリスの絶叫に近い小言が響き渡る。

 だが、その騒音を遮るように、ヴィクトリアが厚手の魔導布を取り出し、鈴をぐるぐる巻きにしてマントの奥底へ放り込んだ。


「……師匠、今は黙っていてください。これは貴女が遺した『神殺しの戦法』を完成させるための、神聖な儀式なのですから」

「むぐぐっ……レイ……! 変なことに使っちゃダメよ……!」


 防音の布越しに聞こえる母の声を無視し、ヴィクトリアが私に頷いた。

「……準備はいいか、レイ。貴公の『分割反転』を、彼女たちのコアに同期させろ。一対象に100%ではなく、五人に20%ずつ――『五色の絆』を編み上げるんだ」


 私は深く息を吐き、月光が差し込む氷の祭壇の中央に立った。

 最初の一人は、最も長く私の影を歩んできた少女、ルナだ。


「……ルナ。……こっちへ」

「……はい。……主様。……私のすべてを、……貴方に預ける」


 ルナが私の前に立ち、細い肩を震わせながら背中を向ける。

 私は彼女の肩越しに腕を回し、白銀の魔剣『不変の銀閃・零』を握る彼女の手に、自分の手を重ねた。

 ドクン、と心臓の鼓動が重なる。

 私の魔力回路から、1/5に分割された『反転』の奔流が、ルナの体内へと流れ込んだ。


「…………加速する不変アクセル・ステイ、……食い破れ」


 私の魔力がルナの剣筋と同期した瞬間、魔剣が白銀の雷を纏って激しく震動した。

 ルナの瞳が、銀色から透き通るような白へと染まる。

「……視える。……ジョシュアが上書きする前に、……私がその因果を断ち切る。……主様、……あたたかい。……この魔力の熱、……一生、……離さない」

 ルナが恍惚とした表情で、私の腕に身を預けた。


「……次は私ですわね、レイ様!」

 次に進み出たのは、リタだった。

 彼女の額に、私は指先をそっと触れた。

「……リタ。……お前の知に、……俺の反転を乗せる」

「……あ、あぁ……っ! レイ様の波長が、……私の脳内に直接……っ!」

 リタの『神域の錬成』に、レイの反転が同期する。

 【概念の解体デコンストラクション】の完成。ジョシュアがインクを塗る瞬間に、そのインク自体を原子レベルまで分解し、無効化する知の極致。

「レイ様の魔力が、……とろけるように甘いですわ。……これで、……どんな神の筆も、……私の前ではただの泥に過ぎませんわ!」


 間髪入れず、ガオが漆黒の義手を突き出してきた。

「旦那! アタイのこの腕にも、……あんたの熱いヤツ、……ぶち込んでくれ!」

 私はその義手を両手で包み込んだ。

 【因果の衝撃インパクト】。殴った対象の存在確率を反転させ、物理無効の幽体さえも粉砕する「不滅の剛拳」への昇華。

「へへっ! 旦那と繋がってるみたいで、……力が漲るぜ! これで一生、……旦那の盾でいられるな!」


 セレナが、静かに私の正面に立った。

 彼女の瞳を覗き込み、視神経に直接魔力を同期させる。

 【停止の拒絶アクティブ・タイム】。ジョシュアが時間を止めて上書きしようとする隙間を、レイの反転が無理やりこじ開け、仲間の行動を保証する時間の支配。

「……キミの鼓動が、……僕の時計を狂わせる。……でも、……もう予知はいらないね。……キミの隣なら、……僕が未来を作れるんだから」


 最後に、フィオナが膝をつき、祈りの姿勢を取った。

 私は彼女の喉元に手を添え、声帯に反転の振動を刻み込んだ。

 【福音の増幅アンプリファイ】。彼女の歌声が届く範囲すべてが、自動的に「レイの反転領域」と化す、最強のフィールドバフ。

「レイ様の愛を、……私の歌で世界中に響かせますわ。……あ、ああ……心が、……満たされていきます……」


 ◇


 五人全員との同期が完了した瞬間。

 霊峰の頂から、五色の巨大な魔力の柱が、夜空を貫いて立ち昇った。

 

 一人の力では届かなかった神の座。

 だが今、私の『反転』は、五人の最強のヒロインたちを媒介にして、世界そのものを書き換える巨大な「パレット」へと進化したのだ。


「……むぐぐっ、……ぷはっ! レイ!!」

 ヴィクトリアのマントから這い出した鈴が、顔(?)を真っ赤にして絶叫した。

「やりすぎよ、貴方たち! 全員の顔が、……戦士の顔じゃなくて『レイのもの』になった乙女の顔になってるじゃないの! 破廉恥だわ! 不潔だわ! ヴィクトリア、貴女も何をボーッとしているの! 貴女も同期シンクロしなさい!」


「……わ、私か!? 私は弟子だ、そのような不埒な……っ」

 ヴィクトリアが顔を赤くして後退るが、その瞳には、隠しきれない羨望が混じっていた。


「……準備は整ったな」

 私は、五人の手を順に、そして強く握りしめた。

 

「……行くぞ。……ジョシュア。……お前が描こうとした『絶望』を、……俺たちの五色で、……完膚なきまでに塗り替えてやる」


 霊峰の夜明けが、私たちの新生武装を白銀に照らし出す。

 追放された一発屋の物語は、今、神を討ち果たす「反転騎士団インヴァーター」の凱旋へと、その姿を変えた。


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