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第二十二話:因果の逆流、神罰の終焉

 天空の聖域『エリュシオン』の中枢、黄金の玉座の間。

 そこは、雲海を遥か下に見下ろす世界の頂であり、同時に神の狂信に支配された巨大な檻でもあった。


「……愚かな。一日に一度の奇跡を二度に変えたところで、所詮は人の身。神が定めた『生贄の理』を覆せるとでも思うたか!」


 黄金の玉座に座る教皇ベネディクトが、その枯れた両手を天に掲げた。

 その瞬間、聖域の天井が粒子となって消失し、無限に広がる蒼穹から、数万という魔法陣が幾重にも重なり合って展開された。

 それは、一国の軍勢を塵に変える神罰の雨――『終末の輝跡アポカリプス』。


「……レイ様。……空気が、震えていますわ。……この規模の魔力、まともに受ければ王都ごと蒸発します!」

 リタが空中に指を走らせ、防護障壁を幾重にも展開する。だが、その障壁が接した端から「神の重圧」によって砕け、火花を散らしている。


「……主様。……私が、道を拓く。……たとえこの身が、光に焼かれようとも」

 ルナが魔剣『残響の銀閃』を抜き放ち、低く構えた。彼女の『神速の直感』は、降り注ぐ光の奔流のわずかな隙間を見出そうと、極限まで研ぎ澄まされている。


「あんだよ……旦那を脅そうなんて、百万年早いんだよ! アタイがその魔法陣ごと、全部ぶち砕いてやる!」

 ガオが黄金のオーラを全身から噴き出し、咆哮と共に地を蹴った。彼女の放つ拳の風圧が、迫りくる光槍を強引に捻じ曲げ、俺の進むべき一本の道をこじ開ける。


 俺は、彼女たちの背中を見つめ、静かに呼吸を整えた。

 心臓の隣にある、母アイリスが遺した最後の重石。

 それが、これまでの救済の蓄積によって、今、熱く脈動し、完全に「溶け」ようとしていた。


「…………制約を食い破れ(オーバー・インヴァージョン)!!」


 俺の咆哮と共に、第一撃ファーストを放った。

 狙うは、教皇本人の『神の加護』。

 

 ドォォォォォンッ!!


 白と黒の光が、教皇を守っていた金剛不壊の障壁を真正面から食いつぶした。

 「絶対防御」は「絶対脆弱」へと反転し、教皇の守りは脆い硝子のように砕け散る。


「な……っ!? 私の加護を……裏返しただと!? バカな、ありえん、あってはならんのだ!」

 教皇が狂乱し、自らの寿命を魔力に変えて、最後にして最大の攻撃を放とうとする。

 聖域中の魔力が、彼の指先に収束し、世界を焼き尽くすほどの黒い太陽が具現化した。


「……レイ様! 逃げてください! あれは……世界の質量そのものですわ!」

「……逃げないよ。……キミの因果は、今ここで、すべての絶望を飲み込むと決まっているんだから」

 リタの悲鳴を、セレナの確信に満ちた予言が塗り替える。

 

 俺は一歩、また一歩と、崩壊を始めた玉座の間を突き進んだ。

 フィオナが、血を吐くような熱量で『福音の共鳴』を歌い上げる。その歌声が俺の魂と共鳴し、二撃目の出力を限界以上に跳ね上げた。


「……ベネディクト。……お前の『正義』は、ここで終わりだ」


 俺の右手が、教皇の胸元、その傲慢な心臓へと叩き込まれた。


「――『不文律の反転インヴァージョン』、第二撃セカンド!!」


 聖域全体を包み込むほどの、純白の閃光。

 教皇が放った『終末の輝跡』は、私の反転に触れた瞬間、まばゆい「希望の光」へと裏返り、世界中の澱みを洗い流す慈雨となって王都へと降り注いだ。


「あ……あぁ……っ。……私の、神が……否定される……っ」


 光が収まった時。

 そこには、豪華な法衣も、神々しい魔力もすべて失った、ただの小さく震える老いぼれが転がっていた。

 彼の手からは権力の杖が滑り落ち、その瞳からは、かつて自分が踏みにじってきた者たちと同じ、無力な涙が溢れていた。


「……勝った。……本当に、勝ったんだぜ、旦那!」

 ガオが歓喜の声を上げ、ルナが静かに剣を納める。

 俺は、膝をつき、肩で息をしながら、自分たちの手で勝ち取った「自由」の味を噛み締めていた。


 王都を、そして彼女たちを縛っていた教会の呪縛は、今ここで完全に潰えた。

 

 だが、その安堵の瞬間。

 俺の『お釣り』が消えたはずの魔力回路が、かつてないほどの「異物感」を察知して、激しく警告を発した。


「……え?」

 セレナの瞳から、光が消える。

 彼女が見つめる先――天井の抜けた空に、ありえない「色彩」が走り始めていた。


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