最強少女
学校からの帰り道。セルシルと並んで歩く。
「なんで歩くの〜?転移は〜?て・ん・い〜」
「学校に行く道くらい覚えたいだろ。それに、この世界で転移は気軽に使えないしさ」
「転移する人って〜いないもんね〜」
「そうそう。急に消えたり、急に現れたりしたらびっくりするだろうよ」
「たしかに〜リスクはあるもんね〜どこまでもドア〜みたいにはいかないよね〜」
「あれは、アニメの中だけの話だからな…ってか、ここどこだ?」
十字路で立ち止まる。
「基本、移動は転移だったから、方向感覚なんてないに等しいな」
「迷いましたね〜休憩して考える〜?ん?」
畳の上を素早く動く音、畳を蹴る音、道着の擦れる音がかすかに聞こえてくる。
「センサーが!!ビンビ〜ン」
「あっ、おい!」
セルシルが音の出どころに向けて走り出した。
セルシルを追いかけ、角を曲がる。
「神宮寺空手会館」と看板が掛けられた道場をセルシルが道路から覗いてる。
「セルシル、はやいって―――」
「あるじ〜あの子 この前のショッピングモールの子じゃない?」
「ん?」
セルシルに促され、俺も道路から道場を覗く。道着を着ていて、その時の服装とは違う。パッと見ではわからないが、間違いなく ショッピングモールでナイフを振り回す男を撃退した少女だ。
「本当だ」
道場の畳の上で目を閉じて構えている。ものすごい集中力で、見ているこちらも吸い込まれそうな雰囲気がある。
少女が繰り出した突きや蹴りは空気を切り裂き、バットをスイングしているかのような音が道路からのぞき見てる俺たちにまで聞こえてくる。
「すごいなあ…なあ?―――」
「一緒に稽古しよう〜!!」
隣を見るとすでにセルシルがおらず、道場の入り口に立って両手を上げて微笑んでいる。
「あっ、おい!ちょっと待て!」
道路から小声で声をかけるもセルシルは聞こえないふりをして気にも留めていない。
セルシルがブレザーを脱いで、少女と向かい合う。
少女は最初何事かと慌てていたが、セルシルが構えると、少女も構えをとった。
風の音が聞こえ、庭の木々の少ない葉が揺れる音が聞こえる。
一枚の葉が地面に落ちるのを合図に、離れた間合いから、セルシルが少女へ一瞬で距離を詰めた。
しかし、次の瞬間には、セルシルが横によろめいている。
「なっ、何が起こった?すまん、セルシル!時よ戻れ」
一瞬の間の出来事で、まったく目で捉えられなかったので、セルシルと少女両者が構えたシーンまで時間を巻き戻す。
「開始」
何回か繰り返し見たことで、一連の流れが分かった。
セルシルが少女へ一瞬で距離を詰め、上段へ右足の蹴りをくりだす。蹴りは鋭く、正確に少女の頭を捉えたかに見えた。しかし、少女は上体を後ろに逸らせてセルシルの蹴りをかわし、そのまま身体をひねりながら横回転し、後ろ回し蹴りをセルシルの脇腹に返した。セルシルは脇腹への直撃するのを腕で防いだが、蹴られた衝撃で横によろめいた。
「やるじゃ〜ん」
セルシルは間合いを取り、ニタリと笑う。少女は集中していて、無表情で構えている。
ここから、戦闘シーンについては「時よ戻れ」で確認できた二人の動きを記述する。
次に、セルシルが左足で少女の下段にフェイントで蹴ると見せかけ、二段蹴りで上段へ蹴り込む。少女は蹴りの下をかいくぐると同時に、左腕と左脚を畳につけて、身体を水平まで傾け、セルシルの中断へ卍字蹴りを返す。セルシル腹部への直撃を腕で防ぐが、少女は旋状蹴りで、さらなるケリを中断に叩き込む。
(なまったか?)
「バカ言わないで!本気!本気だから!」
それからも、セルシルは防戦一方だった。クリーンヒットは避けてるが、間合いに入ったとしても少女に速さで圧倒され、リスクをとってクリーンヒットを狙おうにもカウンターで返される。
(セルシルが組み手で押されてるところ、初めて見たよ…)
(いや待って!ほんと強いんだけど!)
「なんだ神門じゃねえか。っと、転校生の嬢ちゃんか?」
横を見ると、押忍が立っている。押忍は二人の組み手を見つめる。
「なかなかやるなあ。芽上の蹴りに耐えてるじゃねえか、あの嬢ちゃん」
「女神?」
「違う、芽が出るの芽に、上下の上で芽上だ。知らねえのか…って、記憶喪失だったなそういえば」
「セルシルが押されてるなんて、始めて見た」
「そうなんか?俺は、何回も見てきたぜ」
押忍は話しながら門をくぐる。「芽上が空手を初めてから何千回、何万回と。相手を完膚なきまでに叩きのめすところをな」
押忍は憐れむ表情を浮かべる。
「努力とか、自信とか、すべてを打ち砕きやがる…」
「君もその一人か?」
俺の問いに押忍は答えず、道場の敷地内に入る。
押忍を見て二人が動きを止める。
「あっ、押忍」
「あれ〜お昼の〜」
押忍は二人の呼びかけに反応せず道場を横切っていく。
「何あんた〜昼の続きしに来たの〜?」
「ここは俺の家だ。俺は自分の家に帰ってきただけ」
「あっそう〜また続きしようね〜」
セルシルは笑顔で押忍に手を降る。「てかさ〜すっごいんだけど!早すぎ〜動き読めなさすぎ〜こんな感覚初めて〜すっごい楽しかった」
セルシオはその場で飛び跳ねて感激をしめす。芽上の手を取り、ブランブランと振り回している。
押忍はセルシルの笑顔を見て唖然とした表情を見せたが「変わってんな」と笑顔で呟いた
「組手で負けたのはあなたが初めて〜」
芽上はセルシオのテンションの高さに若干 困惑しでいるが、表情は穏やかだ。
「押忍は練習してかない…の?」
芽上が押忍に尋ねる。
「うるせえ。空手はやめたんだよ」
押忍は吐き捨てるように言うと、住まいに姿を消した。
「あなたは ショッピングモールの時の…」
眺める俺に気が付き、芽上が声をかける。
「そうそう。君は、ファッション雑誌買ってた―――」
「はん゙ん!」
少女が頬を赤らめ、両手で顔を隠す。
「やっぱり…バレてた…おっ、お願い、言わないで…」
「えっ、おっおう。なんかすまない」
「普段これだから…」
少女は手を横に広げて着ている道着を見せる。
「可愛い服着たいと思って…似合わないだろうけど…」
「ん?似合うと思うけどな」
芽上は頬を赤らめ俯く。
お互い自己紹介をする。少女の名は芽上百花とのこと。
「同じ学校ですね」
芽上が俺とセルシルの制服を指さして言う。
「高校生か?」
「小学生じゃないもん…高3…」
「まあ〜また今度一緒に服見に行こう〜?」
「えっ!お願いします!」
セルシルが誘うと芽上は目を潤ませて喜んだ。
「ところでなんだが…道を教えてくれないか?」
芽上が説明した通りの道を歩くと自宅にたどり着いた。
自宅の前の敷地に「大地」と「彷徨うもの、走り回るもの」を組み合わせたメーカー名の英国産車が停まっている。
俺とセルシルが近づくと、運転席から、叔母が降りてくる。
今日の叔母は、袖部分がゴールド色でシースルー素材になった白のシャツ、赤色のレザー生地でできたタイトなミニスカート。薄いパンストを着用している。
「学校おつかれさま」
「今日もかわいい〜」
「あら、ありがとう。ところで、学校で逮捕された人がいるって聞いたけど」
「何があったか、説明する」
リビングに移り、潤の生前に起こったこと、わかったことを話す。
「潤にそんなことがあったのね…辛い目に合わせちゃったわ…」
「ああ。辛かっただろうな」
「でも〜潤くんになにがあったか〜わかって良かった〜」
「そうね。正直まだ実感が沸かないわ…今もこうして眼の前にいるからかな」
叔母は手を伸ばし、俺の頬に触れる
「今日、潤が飛び降りた場所を見てきた。あんな高いところからって…どれほどの衝撃だっただろうって想像しただけで、身がすくんだ」
叔母が涙を流す。
「治癒だっけ?飛び降りて、ボロボロになった潤の身体をあなたは治してくれた」
叔母が涙を流す。
「それしかできなかった」
「ううん、あなたのおかげで…きれいな潤に触れられる。こんなにお姉ちゃんに似てるだなんて思わなかった」
叔母はリビングに飾られた家族写真を見る。
「ありがとう」
「こちらからも礼を言う。俺達のような存在を受け入れてくれたこと感謝している」
「そういえば、あなたたちのクラスに明日美ちゃんっている?最近すごい人気でね」
叔母がスマホの画面を見せる。コスメブランドの広告になっている。見せられた画像は、顔のみのアップで、アイライナーを手に持ち舌を出して挑発的な表情をしている。頬には「最強」と書かれており、広告のヘッドラインとして「強い顔」というロゴが印字されている。
インタビュー記事も掲載されていた。『広い世界を見て。自分の知らない自分に出会いたい』
「かっこいいね〜」
セルシルが画像を覗き込み、感嘆の声をあげる。
「この子カリスマ性があるのよね。また、お近づきになれたら紹介して」
夕食は、叔母がデリバリーしてくれたピザで、たまらなく美味しかった。
「もう〜お腹いっぱいひ〜」
「美味しかったな」
セルシルがタコの口をしてお腹をぽんとたたく。
「じゃあ、とりあえず、わたしはいくわね」
「また明日くるか?」
「いや、また映画の撮影が始まるのよ。当分は海外かな」
「さみしくなる〜」
「出会ってまだ一週間程度か…長かった。けれど、いてくれたことが心の支えだった」
「そうね、私も…楽しかったわ。といっても、また帰ってくるから、そしたらまたたくさんお話したりお出かけしましょ」
「写真…とやらを撮らないか?」
「いいね〜」
俺が家族写真を見ると俺の視線に気づき、叔母も眺めて、微笑む。
「いいの…かな?」
「潤の身体はお姉さんとあなたとのつながりを示す忘れ形見だ。それに、俺とセルシルにとっては、あなたはこの世界で唯一の家族だからな」
「ありがとう」
スマホで三人の写真を撮り、握手をして叔母とは別れた。
時刻は夜九時
次の朝、寝起きの俺はまずテレビを点けた。すっかりテレビがある生活に慣れてしまっている。
流れてきたのはニュース番組。
セルシルは布団にくるまってリビングのソファに寝転んでいる。
「寝室の布団持ってくるなよ…」
「ふにゃ〜」
『続いてのニュースです。高校生でタレントとして活動していた小鳥遊明日美さんが亡くなりました。東京都の港ターミナルにて、昨晩十時頃言い争うような声が聞こえると複数通報があり、警察が現場に駆けつけたところ すでに冷たくなった小鳥遊さんが発見されました。その後、搬送された病院で死亡が確認されました。小鳥遊さんの遺体には暴行の跡が見られ、首から血を流していたとのことです。また、現場では拳銃が見つかっており、小鳥遊さんが亡くなった原因や事件に巻き込まれた可能性なども含めて警察は捜査を続けています』
「はあ?」
「ふにゃ〜!?」
初執筆作品です。
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