もうバレた
山田と鈴木が逮捕されたことで、臨時の全校集会が体育館で開かれることになった。
校長が壇上に立ち、冷や汗を書きながらマイクに向かって話す。
「ええっと…ネットでも話題になってますので、すでにご存じの方も多いかと思いますが…本校の生徒が本日逮捕されました…」
「ゴホッ」と咳払いをして、ハンカチで額の汗を拭い、話し続ける。
「学校も経緯を把握していなくてですね…学校としてもなにがなんやら…」
「はっきり言えよ…」
「山田と鈴木?誰それ」
「いじめが原因だってさ」
「たかがいじめで?」
「休校になるかな?」
「帰りゲーセンいかね?」
生徒の間でざわめきが広がる。
「正直、そこまでしなくても…といいますか、加害者とか、犯罪少年と報道されてますが、それもどうかと―――」
「ピーコラピーコラ、うるせぇな」
最後列にいた押忍の低くてどすの利いた声が体育館中に響く。
押忍の周囲の生徒はだまり、一歩分後退りする。
(また魔力漏れ出しとる―――)
『ブツンッ』
校長の歯切れの悪い話をぶった切るかのごとく、マイクの接続が切れる音が鳴る。
前方の脇に立っていた生徒会長の高菱がマイクに接続されたアンプのコードを引き抜いていた。
「ひっ…ひい!」
校長は高菱を見て身体を強張らせる。高菱は口元は笑っているが目は笑っていない。
皆が沈黙するなか、高菱の隣に立つ生徒会副会長の島田が壇上の下まで移動し、軽やかに、高くジャンプして壇上に上がる。
長身の島田が校長の前に立ち、射るような眼差しで見下ろす。
「島田先輩!」
「島田様!」
「今日もかっこいい…」
女生徒から黄色い声援が上がる。
「だまれ」
決して大きくはないが、島田のハスキーで胸を射る声が響き、体育館がふたたび静まり返る。
島田が生徒の方に向く。
誰もが顔を上げ、島田に見入いっている。
「行動や言動に責任を持って生きろ」
体育館にいるみんなが固唾をのんでいる。
「困ったことがあれば生徒会に言え。以上」
一人の拍手を皮切りにが、生徒全体に拍手が広がる。
「かっこいい!」
「好き!」
「島田!」
黄色い声援に野太い声も混ざる。
(セルシル…見たか?)
(びっくりした〜オーラ…彼も纏ってるね〜)
島田の身体には薄い膜のような黄色いオーラが張っている。
(ああ。しかも、彼はコントロールできてる…)
(オーラ自体も〜きれい〜澄んでるね〜)
(元国王のオーラに…似てるな。あれは、人を惹きつけるオーラだ)
島田は壇上を降り、高菱の隣に戻る。高菱はアンプのコードを接続し直す。目は相変わらず笑っていない。
「校長先生、続きをどうぞ、お願いできますか?」
「はっ、はい!承知し…わかりました。みなさん、以上の状況を鑑みまして、本日は臨時休校といたします。各クラス、ホームルーム後、速やかに下校してください」
ホームルーム後、帰り支度をしていると、
「あの、少し話良いかな…?」
「ん?」
放課後、前の席の消しゴム男が話しかけてくる。
「体育館裏でのことなんだけど…あれはなんだったの?」
「ああ、あれはさ、校長からも話があった通りで、俺はいじめを受けていたんだ。その証拠がでたので、二人は警察に―――」
「いや、そうじゃなくてさ…」
消しゴム男の歯切れは悪く、うつむいてもじもじしていたが、決心したようにこちらと視線を合わせる。
「あれって…魔法…だよね?」
「ん!?」
一瞬の沈黙。
「停止!」
「停〜止、停〜止」
俺とセルシル以外の時が止まる。
「ばっ、ばれてる!?ね〜?」
「んん?ばれてるのか…?すまん、止めるのが少し早過ぎた」
「そっ、そうだね〜…もう少し話を聞かないと〜何が何で〜あれしてこうなって〜が分かんないね〜」
「いっ、いくぞ、いいな?開始」
「―――いやいや、すまん」
と断りを入れて、俺とセルシル、消しゴム男三人で、廊下の人のいない場所に移動する。
「で、なんだっけ?」
「あれは、魔法なの?」
「なんのことかな―――」
俺が張り付いた笑顔で話を流そうとするが、消しゴム男は勢い良く話す。
「体育館裏にセルシルさんが来た時、セルシルさんを中心に紫色の空間?みたいなものが周りに広がったように見えたんだよ。外の音が聞こえないし、何も見えないからびっくりした。なんて表現したら良いのか分からないけど、周りから自分たちが隔絶されてる…みたいな」
(合ってる…)
(ピンポーン〜)
「山田くんと鈴木くんをボコボコにしてた時のセルシルさんの動きというか、馬鹿力は百歩譲って良しとして…二人が光に包まれたように見えたんだよね。光りに包まれた後、二人の傷が治って意識を取り戻してた。何度も何度も」
(記憶消しちゃう〜?)
(すぐそれ言うのやめろ)
「あれってさ、治癒魔法の類?」
消しゴム男は目を輝かせて、俺たちに詰め寄る。
「みっ、見間違いじゃないか?」
「だめ〜やっぱり消そうよ〜」
「消す!?僕を消すってこと!?」
「記憶を―――」
「勘弁してください」
消しゴム男は土下座する。
「ずっと、魔法があれば!って、想像してきたんだ。魔法を使うってどういう感覚なんだろう、魔法を受けるってどういう感覚なんだろうって。もし、魔法で火を出現させられるとするでしょ?」
(いきなりなんだ?)
(聞く〜?)
「あの火ってどこから出現してるんですか?なにをエネルギーとしているんですか?身体のなかでどのようにエネルギーを変換させせてるんですか?エネルギーをどう作用させて火に変化させているんですか?発動条件や環境条件などあるんですか?そもそもなんらかの干渉を受けるんですか?火の大きさの限界や個人差はあるんですか?あるとすれば、その変数はなんですか?」
(すっご〜いしゃべるね〜)
消しゴム男がまくしたてる。セルシルは圧倒され、驚きを通り越し、感心している。
「ポイントを押さえている…」
「ちょっと〜」
俺も感心して聞いていた。消しゴム男は続ける。
「例えばさ、透明人間になれるとするでしょ。その場合、透明になる範囲は?どこまでが対象になるの?」
「はひ〜?」
セルシルは質問の意味を掴めていない。
「透明になっているのが身体とするなら、身体と定義されるのはどこまで?見える部分はもちろん、臓器も骨も、毛も身体と定義されて透明になる?のであれば、仮に透明の状態で毛が抜けると、その毛は途端に可視化されるのかな?体内に流れる水分や血は身体と定義されるのかな?されるのであれば、毛と同じように、どこからが身体と異なって定義され、可視化されるのかな?汗を流せば、流した瞬間可視化されるのか、可視化されないのであれば、どうなったら可視化されるのか、地面に落ちたら可視化されるのか、透明になる魔法を解いたら、可視化されるのかな?食べた物や排便は透明に―――」
(あったまこんがらがる〜)
(純粋に知りたいんだな…)
「魔法が存在するなら僕は、僕は知りたいんだ。調べたいんだ」
消しゴム男は俺とセルシルを真っ直ぐ見つめる。
「純粋でいて、綺麗な目をしている」
「眩しいよ〜」
「俺も似ているところがある。魔法ではなく、魔術と呼ぶものだが、俺も魔術の発生機序に大きな関心を寄せていた。人生の大半を使ったと言っても過言ではない。結果、解明できないことが無限にあるということが分かった。でも、それが嬉しかったんだ。まだまだ分からないことが無限にある、ということは、発展の余地も残されているということだな。フムフム」
「わくわくしますよね!ね?僕も知りたい 教えてください お願いします―――」
「わかった」
「ええぇぇ〜!」
俺は、頭を下げる消しゴム男の肩に手を置く。セルシルの叫びが天にこだまする。
「いいの〜?」
「彼の気持ちは痛いほどに分かる。秘密にするとも言っているし、問題はないだろう」
「まあ〜何かあったら〜記憶を消せば良いしね〜」
「僕が何かしでかしてしまったらその時は…僕を消してください」
「僕は消さん、安心しろ」
「名前は〜?」
「葉加瀬です。神門くんは、記憶がないんだよね?」
「ああ…実はだな―――」
俺は転生者であること、転生してから今に至るまでの経過をかいつまんで話す。
「情報量多すぎる。でも、ひとまず分かったよ。教えてくれてありがとう」
俺とセルシルは頷き、葉加瀬に手を差し出して順に握手した。
手を離し、俺はそのまま掌を上へ向ける。
「魔術はイメージなんだ。身体にある魔力を循環させ、練り上げ、魔術のイメージにつなげる。炎が燃えるイメージを浮かべると、炎」
「え、うわ!」
俺の掌に小さな炎が現れる。消しゴム男が食い入るように見つめる。
「発動する魔術の質や量なんかは、魔力量やイメージ、周囲の魔素量が関係しているというのが基本的な考えだが…」
掌の炎を消す。
「俺からもお願いがある。今日、化学の授業で、燃焼の三要素を知った。あのような考えは初めて聞いた。この世界には俺の世界にはない知識がたくさんあるだろう。それを俺たちに教えてくれたら助かるのだが―――」
「お安い御用だよ!そういうのを一緒に話せて、考えれる人が欲しかったんだ!」
「ありがとう〜」
初執筆作品です。
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