俺は異世界から来た
夜が明け、外は雨。カーテンを開け、雨を眺める。
昨夜は、セルシルと布団を横に並べて寝たが、セルシルは寝相が悪く、幾度となく足置きにされたり、蹴り飛ばされた。おまけに、セルシルのいびきがうるさく、眠りも浅い。
セルシルは、熟睡できたようで、すっきりした表情で伸びをしている。
「よく寝た~」
「なによりだ」
寝るにあたって、セルシルは脱ぎ散らかされてあった暖かそうな服を「清める」し寝間着にした。
その時、いきなり勢いよくリビングのドアが開いた。叔母と寝間着姿のセルシルの目が合う。
「「えっ」」
固まる三人。叔母がセルシルを指さす。
「彼女?」
「ええ~!?ええ、そうです~まいったなあ~見つかっちゃった〜」
「停止!」
俺は急いで唱える。周りの時が止まり、俺とセルシルのみ活動が可能になる。
「びっくりした~魔力探知は―――」
俺は耳に手をあてる。
「いつも通り魔力探知の結界は張っていたが、魔力がないんだもんな…引っかからずにこれちゃうよな。」
「この世界では無意味~。襲撃にも備えられなよ~」
「気を付けないとな」
互いに頷く。
「ところで…彼女ということで押し通すつもりか?」
「だって〜あるじ~の彼女になるのは、前世からの夢だもん~」
「こうなってしまったから、相談するんだが…俺はこの世界のことを知る、溶け込んでいくには、協力者がいた方がなにかと都合が良いと思うんだが?」
「彼女になるのが〜夢だった〜って告白は無視するの~?」
しつこく詰め寄るセルシルを押し戻す。
「このタイミングであれば~転生のことを打ち明けて~信じてもらえなかったとしても~記憶の混濁とか妄言とか〜ごまかせるってことね~?」
「その通りだ」
「いえ〜い!ハイタッチ!」
セルシルの求めに応じて、ハイタッチする。
「賛成~この叔母さん〜色気漏れ出て〜じゃなくて、味方になってくれそうな雰囲気だもんね~」
叔母の今日の服は、黒のブラトップに赤いレザージャケットを羽織っている。下は側面の肌が露出した黒のレギンス。首元や手首のジュエリーに加え、今日はベルトも輝きを放っている。
「じゃあ、話すぞ」
俺とセルシルは叔母を向く。
「開始」
時が再び流れ始める。
「えっ」
戸惑う叔母。
「ちょっと待って、何を言ってるの?からかってる?」
リビングに座り、これまでのことを一通り話したが、そう簡単に信じられる話ではない。
「記憶消しとく~?」
セルシルが小声で尋ねてくるので、こっそり肘で小突く。
「いきなりこんな話を信じろと言っても無理があることはわかっている」
「うん」
「なので、信じてもらえる手伝いをしたい。なにか手伝えることはあるか?」
「手伝いって…」
叔母が部屋の中を見渡し、照明を指さす。
「じゃあ、この電気でも消してみてよ。スイッチには近付かないで―――」
「わかった」
俺はセルシルと顔を合わせる。
「いくぞ」
「よろしく〜」
「切り替え」
唱える度に、照明の電気は点滅を繰り返す。
「切り替え、切り替え、切り替え、切り替え、切り替え、切り替え、切り替え」
叔母の表情が固まる。セルシルは、そのテンポに合わせて肩を左右に動かしてアイソレーション。
「切り替え、切り替―――」
「もういい!ストップ!」
叔母の言葉に従い、俺は唱えるのを止める。ちょうど、照明の電気が消えたタイミングだった。
「ごめん…もう一回お願い」
叔母のお願いで、もう一度だけ唱える。部屋は元通り明るくなる。
「信じてもらえる~?」
叔母が難しそうな顔をする。
「部屋を片付けるとかも…できるの?」
「お安い御用〜」
セルシルが席を立つ。
「片付け」
セルシルが唱えると、部屋の中で散らかっていた物は宙を舞い上がり、元の位置に飛んで戻った。セルシルはその場で身体を回転させる。
叔母はその光景を見て驚いていたが、顔を輝かせる。
「すごい!すごいわ。じゃあ、あなたたちが別の世界から来た魔術師というのは本当なのね。」
「そうとも!」
俺とセルシルは頷く。
「他に何ができるの?」
「なんでも〜」
「すごーい!」と叔母は感動している。叔母はいたずらっぽい表情を浮かべる。
「車も綺麗にできたりしないかな?」
車まで三人で移動すると、「清める」を唱えて、車を新車同様の状態にした。
「すごーい!」
叔母が一際はしゃいでいる。俺とセルシルはハイタッチをする。
リビングに戻る。
「きれいにしてくれてありがとう!魔法ってすごいのね」
「そうだな。ただ、できないこともあった…」
俺は、頭を下げる。
「すまない。潤を生き返らせることができなかった」
叔母はキョトンとした表情をしている。
「別に…それは、あなたが謝る事ではないわ。はあ…なんか拍子抜けした。初めましての他人ということで、私も気楽に話をするわ」
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
俺がもう一度頭を下げて答えると、セルシルも頭を下げる。それを見て、叔母も笑顔で小さく頭を下げる。
「昨日もおかしいと思ったのよ」
叔母がコーヒーメーカーでコーヒーを淹れてくれる。
「車が突っ込んできたときのも、あなたの魔法だったのね。どうりでおかしいと思った。突っ込んできた車が急に止まるんだもん」
「スライムの盾は、スライムを出現させて身を守る術だ。気付いていたのか」
「さすがに、その時点であなたのこと魔法使いだなんて思ってなかったから、見間違えかなと思ったくらいだけど」
「そもそも、潤について知っていることを教えてほしい」
「そうね」
叔母は居を正す。
「私が潤とよく会っていたのは、私のお姉ちゃん、潤のお母さんが亡くなる前になるわね。お姉ちゃんが亡くなったのが一年前くらいね、その後、潤は義兄さん、潤の父親と一緒にこの家で暮らすことになった」
部屋を見回すと、なるほど二人で暮らしていた形跡がところどころにみられる。
「私は、その頃から潤と疎遠になった。お姉ちゃんが亡くなったこともあるけど、お義兄さんと潤の男二人の生活になんとなく立ち入りづらくなってね。」
「その気持ちはなんとなくわかる気がする」
「そのお義兄さんが、半年前心臓発作で突然亡くなった。最後に潤と会ったのは、お義兄さんの葬式ね。私はその頃海外で仕事をしていて、日本への長期滞在は難しかった。潤には一緒に海外に来るか尋ねた」
「潤はなんと答えたの~?」
セルシルが尋ねると叔母はため息を小さく吐く。
「潤は、学校には通い続けたい、一人でも頑張れるって言った。だから、私は、後ろ髪はひかれたけど、金銭的なサポートはすると約束して、潤を一人ここに残した。私なりに潤の気持ちを尊重したつもりだったけど―――」
叔母は目を潤ませる。
「でも、なんとなく気後れしていたのは事実…大きな男の子と突然暮らすことに抵抗がなかったわけではないしね」
叔母の頬を涙が流れる。
「結局、こんなことになっちゃったし…」
セルシルが叔母の肩に手を置き「うんうん」と真面目顔でうなずく。
「慰めているのか?」
俺が尋ねると、叔母は「ありがとう」と笑顔で答えていた。
叔母から、インターネットやショッピングモールなど、この世界について知れる方法や場所を教えてもらう。スマホの機能や連絡の取りからについても知識を得た。これで俺達はいつでも叔母とやり取りができる。
「よし、今日はショッピングモールとやらに行くとするか」
「おしゃれするぞ〜!」
「お金がいるわね」
叔母は俺とセルシルにそれぞれ一万円ずつ手渡した。
初執筆作品です。
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