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もう誰も死なせない

『―――速報です。タレントの小鳥遊明日美さんが亡くなりました』

『拳銃を所持していたってこりゃ、暴力団絡みでしょう』

『―――昨夜起こった指定暴力団栗中組への襲撃との関連があるとのことです』

『事件の以前から黒いつながりがあると噂されていたようですしね⋯』

 朝のニュース番組では、どこも明日美のことを報じている。


 俺とセルシルはリビングの机に座ってテレビを見続けていた。

「あんたらに〜なにがわかるってんの〜?」

「ああ、何もわからんだろうな。それは俺たちもだが⋯」

 お茶を飲んでいると叔母から電話が鳴る。


『あっ、もしもし?ニュースは見た?』

「ああ見てる。すごい騒ぎようだな」

『こっちもその話題で持ち切りよ⋯説明できてなかったけれど、こういうときのメディアとかマスコミの群がりようはすごいから⋯気をつけてね。困ったことがあればいつでも連絡してちょうだい』

「そうなのか、わざわざありが―――」

「「「「愛してる〜!」」」」

「イッ」

 セルシルが大声で、俺のスマホをあてている耳と反対の耳に言う。耳がキーンと鳴る。

「俺の耳じゃなくて⋯スマホに向かって言ってくれ⋯」

「右から左に聞き流す、みたいな〜?」

「きっと、使い方が違うんだよ⋯」

『フフ、あなたたちなら、心配いらないわね。まあ、何かあったら連絡してちょうだい』

 そう言って叔母の電話は切れた。


 俺とセルシルは学校を目指し、自宅を出発する。

学校に近付くにつれ、マイクやカメラを持ち、慌ただしく走る人たちが増えていく。

「テレビ写っちゃう〜?あるじ〜わたし〜ばっちり可愛いですか〜?」

「知らん」

 校門は騒然としていた。多くのテレビカメラや報道人がつめかけており、テレビ中継も取材も行われている。生徒の中には、嫌がっているのに映し続けられたり、マイクを向けられて野次まがいの質問攻めにあっている者もいる。

 俺とセルシルが唖然としていると、人の波から押し出された葉加瀬が転がりでてきた。ズレてる眼鏡を直す。

「いたた⋯」

「だいじょぶ〜?」

「セルシルさん!これすごいことになってますよ」

「邪魔だね〜重量(ウェイト)増加(・インクリース)〜」

 報道人が持つマイクやカメラが一斉に急激に重くなり、耐えきれず床に落とす。ざわめきが広がる。

「すごい!何したんですか?」

 葉加瀬が目を輝かせる。

 報道人はそれでもなお校門前に留まり、学生に取材を続けている。

「さて、どうしたもんか―――」


「のけ」


 いつの間にか後ろに押忍が立っていて、どすの利いた声で言い放つ。

 校門前の人垣が左右に分かれ、校門まで続く一本の道ができる。押忍はその道を歩く。

「おっ、おい!あれって世界チャンピオンじゃねえか?」

「世界チャンピオン?なんの?」

「空手だよ。中学生のとき三連覇した最重量級の世界チャンピオン」

「怪我かなんかで引退した?」

「違う違うグレたんだよ」

 ひそひそ話す報道人に押忍は一瞥くれる。

「ヒィッ」


 他の生徒も押忍の後について続々と校門をくぐる。

「なんとか無事学校についたね」

「学校よ〜待たせたな〜」

 セルシルが葉加瀬の肩を組んで高らかに言う。


 生徒会長の高菱と副生徒会長の島田が校舎から出てきて、押忍の眼の前に立ちふさがる。

「押忍、話をさせて」

「なんだ?」

「口の聞き方をわきまえろ」

「ああ?」

 押忍と島田が睨み合う。

「ストップ!ストップ!島田くん、押忍の気持ちも考えて。私たちは明日美さんについて聞き取りをしていたところなの。押忍と関係が深かったように⋯見えてたから。だからね、知っていることを教えて欲しいの。お願い」

 高菱が頭を下げる。島田は相変わらず押忍を睨みつけている。

「お嬢、みんなの前でやめろよ。ところでよー、明日美、明日美って、なにかあったんか?」

「へっ?」

「ふん?」

 一瞬の沈黙が流れる。

「押忍⋯もしかして、明日美さんのことまだ知らないの?」

「だから、なんのことだ?」

「小鳥遊明日美は昨日亡くなった。ニュースとか見ねえのか」

「は?」


「何だよそれ⋯」

 これまでの経過を説明され、信じられまいと押忍は眉をひそめて悲痛な表情を浮かべる。

 周りには人だかりができ、俺とセルシル、葉加瀬の3人もその様子を見守る。

「ちなみにだけど⋯昨日は明日美さんと一緒にいたの?」

「なんだよ何が言いてえ?」

「いちいち会長につっかかるな。事実を確認しているだけださっさと答えろ」

「放課後は別々に帰った。なんだよ事実って⋯死んだなんて簡単に受け入れられっかよ⋯」

「暴力団との関わり噂されてる。何か知ってることはあるか?」

「ねえよ。大体、暴力団てのはどこにあんだ?今から直接聞きに行ってやるよ、だれか場所を知ってるやついるか?」

 押忍が周りの人だかりに問いかけるが、返事は得られない。

 押忍は「ちっ」と舌打ちし、「暴力団の事務所ってどこにあんだよ」と校門の報道人に問いかける。

「スポーツジムの裏手」

 報道人の一人が場所を答えると、押忍は校門の外に出ようと向かう。

「ちょっと」

 高菱が行かせまいと両腕を広げて通せんぼする。

「押忍を危ない場所に行かせられない⋯お願いここにいて」

「放っとけ」


『ウーウー』

 パトカーのサイレンが遠くから聞こえ、段々と近付いてくる。


 俺とセルシルは目を見合わせる。

「このパターンって⋯」

 校門の前にサイレンを鳴らしたパトカーが停まる。先日山田と鈴木を連行した髙木倫太郎がパトカーから降りてくる。

「やれやれ、毎日毎日。ろくな学校じゃねえな。はいどいたどいた!道開けてー」

 髙木倫太郎が押忍と相対する。

「神宮寺押忍くんだね?うわあ、聞いてはいたが、実物は迫力があるな」

「なんだぁ?」

「小鳥遊明日美が亡くなった件で、親しくしていた君から話が聞きたい。署まで来てもらおうか」

「はっ?」

 押忍は高菱を振り返り、睨みつける。

「お嬢⋯知ってて足止めしやがったな」

「ごめんなさい、あなたが暴走すると思ったから協力した」

「ちっ、いけすかねえ」

 髙木倫太郎が押忍との間合いをつめる

「署まで来てもらえるね?」

「嫌だと言えば?」

 警察も見物人も続々と集まってきている。

 押忍が一歩踏み出した瞬間、島田が押忍の腕を掴む。

「なんだあ?」

「いい加減にしろ」

「なんだよ、うっせえな」

「力ずくで止めないといけなくなるだろ」

「止めるだあ?はん!なまってねえだろうな?」

「お前がな」

 押忍も島田も身体からオーラが漏れ出す。剛と柔のオーラが互いに退け合う。

 まさに一触即発の空気。

 見物人のなかにはちらほらスマホで動画撮影をしているものもいる。


停止(ストップ)!」

 俺とセルシル、葉加瀬以外の時間を止める。

「すごい!これ僕たち以外は時間が止まってるの?」

 葉加瀬は目を輝かせる。

「作戦会議だ!まず今の状況を整理したい」

「押忍は捕まっちゃうの〜?」

「ただの事情聴取ではあるけど、生前親しかった押忍が真っ先に疑われてるんだと思う。まあ、無実なら、それ自体は問題ないかな」


 葉加瀬が停止した押忍を指でつつく。

「硬いっていうより、干渉できない感じなんだね。そうそう、押忍がその気になれば警察なんて押し切ってしまえることが問題。警察に暴力行為とみなされたら、公務執行妨害になるし⋯事情聴取なんかですまないよ。それよりも、もしも、島田さんと戦うことになれば⋯どうなることやら⋯」

「へえ〜島田て人〜強いんだ〜」

「強いよ⋯撮影もされてるし、ネットにアップする人もいるだろうね、拡散されたら消すこともできない」

「どうするのが得策だ?」

「ひとまず、撤収できれば良いけど⋯押忍をいったん冷静にさせて、状況を整理して立て直したいよね」

「じゃあ〜まずは転移だね〜!」

「転移!?あの、あの転移!?できるの?」

「ああじゃあやるぞ。開始(スタート)

 時が再び動き出し、喧騒がもどる。


(フラッシュ)

眩い光が生じ、視界を奪う。

転移(メタステイシス)


 眩い光でみなの視界を奪い、俺とセルシル、葉加瀬、押忍の四人を潤の家へ転送する。

 俺と葉加瀬は問題なく着地。

「うっわあ〜降ろして〜」

 うつ伏せのセルシルが押忍の頭の上に乗って、ジタバタしている。押忍の顔が見えない

「おい、重てえよ」

 押忍がセルシルを投げ飛ばし、セルシルは宙で一回転して体操のような着地を決める。

 葉加瀬が「おぉー!」と拍手をする。

「はっ?どういうことだ⋯てか、ここどこ?なんでお前ら?」

「魔法を使って、学校から四人で転移した」

「転移?なにぬかしとる」

「でも〜さっきまで学校にいたでしょ〜でも今は潤の家だよ〜転移以外になにか方法がある?」

「はっ?いや、だからといって信じられるわけねえだろ」

転移(メタステイシス)〜」

セルシルが魔術を唱えてその場から姿を消す。同時にドアがノックされ、セルシルが入室して腕を左右に広げる。

「どうぞ〜されま〜す!」

「まあ、こういうことだ」

「はあーちょっとまて⋯よし、よし、よおし」

押忍は目をつむりこめかみをこぶしでグリグリする。

「よし、OK!俺は見たことを信じるようにしている。こんな芸当ができるっつうことは、そうなんだろな」

 葉加瀬の時と同様に、俺が転生者であることをかいつまんで説明する。

「そこのお嬢ちゃんは?」

「セルシルは俺の精霊だ。前の世界の時から 俺にお供してくれている」

「精霊って本当にいるんだな。昨日の蹴りは普通じゃなかった」

「あっちの世界にはいろんな魔術や〜いろんな精霊がいるけど〜私は肉弾戦が得意かな〜ちなみに〜あの蹴りは魔術で強化した蹴りだから〜受け止められて〜こっちもびっくりした〜」

「そういうことか」

「もしかして、葉加瀬も転生者だったりするのか?」

「いえ、僕はただの人です。不利益な存在になったら消される。ただそれだけの存在です」

 葉加瀬とセルシルが合掌し、笑い合う。


「俺に手を貸すつもりか?」

「まあ、昨日うちのセルシルが道場で世話になったしな」

「警察に捕まっちゃったら〜芽上ちゃんが悲しみそうだもんね〜」

「なんじゃそりゃ。ったく、変わった奴らだぜ」

「ってなところで、こちらからも質問なんだが小鳥遊明日美は何者なんだ?そもそも付き合ってんのか?」

「良くない噂も聞いただろうが、あんなのはデマだ。明日美はまっすぐで、優しい奴だ。悪事に手を染めるようなやつじゃねえ。付き合ってるわけでもねぇ。ただ⋯なんだ、まあ⋯何でもねえ」

「なになに〜」

 セルシルが押忍を肘で突く

「今はカリスマだなんだって言われてるがな、俺が出会った頃の明日美は途方に来れてた。支えになってやりてぇと感じたんだ」

 押忍が拳を強く握る。

「オスにとって大切な存在?」

「あーそうだな、そうなんだろうな⋯今改めて気づいた」

 押忍が胸に手を当て微笑む。


「そういうことなら〜?」

「放っておけないな」

「ですね」

 葉加瀬もセルシルも頷く。


「好きにしやがれ。とりあえず、俺は組の事務所を見に行く。それが一番はええだろ」

「一緒に行きます〜」

 なぜかセルシルが敬礼する。


 報道陣が言っていたように、暴力団の事務所はスポーツジムの裏手にあった。ただ、ここにもたくさんの報道陣がつめかけている。

「昨晩、小鳥遊明日美さんが亡くなった件で、警察は関係があると見られる指定暴力団栗中組の事務所を家宅捜索してます」

 見るからに警察の出入りも激しい。

「これじゃ近づけないよ。きっと押忍の顔も知られてるだろうしね」

「ちっ」


 その後、明日美の家と明日美が亡くなった現場にも行ったが、同様の状況で、規制テープが張られている。


「どうすりゃいいんだよ!」

 俯いて打ちひしがれる押忍。

「正面突破するのは、現実的ではないでしょうし、そもそもしたところで何もなりません」

「だからって、なにもせず指を加えて見てろってのかよ⋯」

「もう誰も死なせたくない…時間巻き戻すか?」

「は?」

「ん?」

「時間⋯戻せんのか―――」

「戻るってタイムトラベル??それとも時間そのものを巻き戻すタイムリープ?」

 押忍を押しのけ、葉加瀬が目を輝かせて顔を近づける

「どちらもできるぞ、あれ言ってなかったか」

「言ってな―――」

「タイムトラベルして過去に変化を加えた場合、今我々がいる現在Aとは異なる現在Bにつながっていく。つまりAとBのパラレル構造が生じます。また、タイムトラベルの場合、過去に戻る今の自分aと過去の自分bの二人が同時に存在してしまうことになります。aとbが2人同時に存在することは本来できないので、当然aは今我々がいる現在Aに戻ってくることになる。

つまりですね、戻るのは結局Aなんですよ。過去を変えたところでAがBになりはしないんですよ」

なんとなく分かったのは、タイムトラベルで過去に戻り明日美を助けたとしても、我々が戻るこの世界で明日美が蘇るわけではないということ。

「望ましいのは、できればタイムリープで時間そのものを巻き戻して、明日美さんが亡くなったという事実をゼロにするべき。この場合、今我々がいる現在と過去はどちらもAになるので、未来もそのまま変わる。

ただ、タイムリープにも落とし穴があって、例えば、昨晩七時に冷蔵庫のシュークリームを食べたが、時間をまき戻して、7時からゲームをしたとする、その場合、シュークリームを食べたという過去は消え、冷蔵庫に残ったままということになる。シュークリームなら、また食べられるだけで済むが、これがなにか大切なイベントとか、替えが効かないことであれば大問題。好きな人から告白されたのに、それがなかったことになる可能性もあるんだ」

「葉加瀬ちゃん〜わかりやすいね〜」

「ありがとう。そこで質問だけど、昨日、誰かに告白されたとか、人生の重要なイベントがあった人はいる?」

「ねえよ」

「俺は、九時頃まで叔母と一緒にいた。」

「けっこう大切な話してたよね〜」

「例えばだけど、九時よりも前に戻って、明日美さんを助けられたとする、でも、叔母さんと話した事実はなくなってしまうということ」

「仕方ないな⋯命には変えられない」

「ちなみにやり直しを効くの?その魔術に制約などはある?」

「タイムリープできるのは、魔術を使った本人とその精霊だけというぐらいで、それ以外の制約は特にない。やり直しも何度だってできる」

「まあそういうことなら一旦は九時すぎに戻ろう。タイムリープできるのは魔法の発動者本人だけ。僕も押忍も今こうなっていることは全く知らない 昨晩九時の状態に戻るわけだよね。押忍くんは急に言われて信じられる?」

「いやー⋯無理だろうな」

「どうやったら過去の押忍は信じれるんだろう」

「俺の記憶を記憶読取(メモリー・スキャン)で葉加瀬と押忍にインストールしよう。そうすれば今日の出来事が全て伝わるだろう」

 過去に戻った際、連絡を取り合えるように携帯の番号を交換する。

「じゃあよろしく!マキシムさん、セルシルさん、過去の僕たち」

「よろしく」


「じゃあ、いっくよ〜ん!」

時間跳躍(タイム・リープ)


俺以外のすべてが昨晩の九時まで巻き戻った。

「みんな〜セルシルだよ〜!

今回の話はどうだった〜?


あれ〜⋯声が聞こえないよ〜



みんなの応援が〜わたしの魔力になるから〜

たっくさんの〜評価とコメント〜待ってるからね〜


ばいば〜」

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