第八話 一考
アルバイトの量を調節した。
天獄はなんとなく、八月に入ってからいろいろと自分に都合がいい方に物事が動いているなぁと言うのを感じながら、八月二日、布団に入っていた。
何日ぶりか。あるいは、何年ぶりか。
佐々木夏輝という少年に出会ってからというもの、受動的に事態が好転していく。
すこし都合が良すぎるので、調子に乗ってしまいそうになるが、とはいえ、結局のところ「祭天獄」という男の人生であることに変わりはない。
調子など乗ってしまった挙げ句には、悪魔と相乗りし、気がつけば地獄の一丁目を過ぎたところ──ということもあり得る。
今日だって少し融通を利かせようとしただけで牛丼屋で「もう来なくていい」と云われる始末。
牛丼屋の店長などやるようなやつだからやはり頭がお粗末なんだろうか、などと猛烈な怒りに飲み込まれた偏見をぐちぐちと募らせていく。
実際のところ「君いままで頑張りすぎだから少し体を休ませる時間が必要なのかもよ。バイト三つ掛け持ちはきついからここ辞めていいよ」という一考があったのだが、牛丼屋店長はそれを言わないし、天獄は天獄で言葉をそのままにしか受け取らない。
つまるところ両者バカタレである。
慌てる乞食は貰いが少ないとよく言うがそもそも慌てなければ古事記ですら無いのに貰いがないなんてことがあるかもしれない。
調子に乗らず、適度に慌てたほうがいい。
(俺の人生なんてのは、うまくいくことのほうが少ないのだしな……仕方ないよな、仕方ないんだよな。俺は調子に乗ってはいけない人間なんだものな……)
やはり、少しだけ自分のことが嫌いだった。
「うだうだ言ったところで、死なない限り、生きていくしか無いんだものな。……俺は、生きるよ。そのほうが良いんだろ、マリア」
瞼を下ろす。
翌日は雨降りだった。