第六話 同情
病院を出て、これからの事を話し合う。
「これから君はまず、アルバイトの量を減らしなさい」
「いやですよー。なんでー?」
「なんか君は、過労で倒れても死なないんだろうなと言う可能性が出てきて、なら尚更かわいそうだと思い、少し休む時間を設けなさい」
「バイトがない時間帯どこにいれば良いんですか? 俺、こう見えて家もないのに」
「君の親は、宮城の人かな? 何とかしてもらえないのか? お金の援助とか。事故物件くらいなら安く済むよ。ここは宮城だからあちこちが事故物件さ♪」
「滋賀で死にました」
一瞬ふたりが硬直した。
「だから、頼れるとこないんすよねー」
こりゃ参ったでしょ、と天獄はふわふわ笑う。
「し、親戚は……?」
「父方の祖父母と母方の祖父母がどちらも生きてるんですけど、俺のこと人間と思ってないんで、手は貸してくれないと思いまーす」
「親の金は……?」
「口座見せてーって言って、見せてもらったら、父と母どちらも空っぽでした」
「君の親、いつ死んだの……」
「俺が高校卒業して、そのまま家出して……なんで、平成29年から平成30年のあいだでーす」
「…………」
「元カノに怒られて、さすがに酷い息子だなーって自分でも思ったので親に謝って少しずつ関係回復しようって決心して、なんか滋賀に戻ってみたら、ふたりとも死んでんすよねー。マリアくんはこんな事になっちゃいけないよー」
「佐々木夏輝だっつってんのに」
少し怒鳴りづらい雰囲気に。
「でもどうすんです、あんた四方八方絶望的じゃないですか」
「俺は地に落ちても這い出る感じだよー」
「なんだそりゃ」
「俺はね、俺に害をなす人間を絶対に許さないからね。暴力はいけないことだけども! 絶対に見返してやるんだもんな! 俺、そのために生きてんのね〜。まずはアパートを借りられるくらいの金を貯める! んで、そこを拠点にして、最終的には可愛い奥さんと息子とか娘とかと犬か猫飼いながら海の見える街にお家建てるんだもの!」
その時、小悪魔的な発想が夏樹を襲う。
「良かったら家来る?」
「きみんち? なんでー?」
「うち、民宿やってんすよ。聞いたことないだろうけど、『花火家』ってとこ。部屋ひとつ借りられるんじゃねーかなって。なんなら住み込みで働くって事にすれば良いと思うんすけど」
「はえー。君、俺にとって都合よすぎるね! あんまり人に尽くすのはいけないことだよ」
「都合良いとかそういう事あんまべらべら言わんほう良いよ。っていうか、『恩返し』の範囲内でしょ」
「おねがいしまーす」
ふわふわしてんなぁ、と思いながら夏輝は親に電話をかけるのだった。