第五話 通院
結局、隣に追いつくことすらできなかった。
夏輝はムスッとしながら当初の目的通りにコンビニに入店した。少し早くないか、という時間帯だったので店長に事情を話すと、ある程度の理解を示してくれた。
そして、それと同時に「祭さんがめちゃくちゃ殴られたりしてた」と言うと、店長は天獄をとても心配していた。
「いやぁ、大丈夫ですよ。俺、頑丈だから」
「でも、頭蹴られまくってたじゃないですか」
「頭蹴られまくってたの!? タンコブなってたらやばいよ!! 祭くんいつもぽわっとしてるからわかんねーんだな、君のこと! 病院行くよ!!」
「病院行ったら金かかるじゃないですかぁ。俺〜、金貯めてはやく部屋借りないと」
「何言ってんの! お金ならあげるから」
「マジすか」
病院に連れて行かれる。心配になったので、暇だったこともあり夏輝もついていった。診察の間、軽く言葉を交わした。
「あの人、住所不定って言ってたんで、多分ホームレスですよ」
「えっ」
「バ先の店長なのになんで知んないんすか」
「聞かれるの嫌でしょオ? 住所ォ……」
店長──菅野雅彦はそう言うと、「なるほどなぁ」と頷いた。
「でも、なんとなく……彼、『家』の話になるとはぐらかすところがあるから、ホームレスと言われると納得感があるけど……しかし、彼の歳でホームレスとは。幸先が良いとは言えないしなぁ……」
「親とか何してんすかね」
「ねー」
どんな人間なんだろう、と思いを馳せる。
あの男の親なのだから、人の話は聞かないし人に何も言わないし、ついでにぼやってしていて、お世辞にも社会で生きていけるような人間ではなさそうだ。
「どのみちろくな親じゃねーんだ、見つけ次第説教るぞ!!」
おおおおお。
「過干渉だ」
「彼はそうでもしなきゃダメな感じの子だろォ?」
かなしい言われようだな、と夏輝は思った。
でも仕方ないのかな、とも。
満二十一歳の人間にしてはなんだふわふわしすぎていて、軽度の熱中症の子どもを見ているような危うさがある。
ようするに「どうにかしなきゃ」という考えが次第に湧いてくる。
「彼はいい人なんだけどね」と店長。
「そうでしょうか」と夏輝。
「──あの人、人の話聞くつもりとか一切ないのを隠しもしませんよ。大きい声出すとめちゃくちゃ嫌そうな顔するし、ぶっちゃけカスでは?」
「困ってる人はなんだかんだ言いながら率先して助けに行くんだよ。迷子の世話とかも率先して……『子が親に会えなくなるのはおかしい』ってね」
診察終わりっ! どこにも異常なし!
「ほんとに蹴られたん?」
「蹴られてましたよ! 結構強めに蹴られてましたよ! なんで異常ねーんだよ、フリーターは普通そんなにパワフルじゃねーよ!」
「多様性の時代に酷いことを言うじゃないのよね。えっと…………マリアだっけ……?」
人の名前を覚えろ、と殴りかかりたくなった。
「佐々木夏輝だっつってんだろ……!! マジムカつくなこいつ……!! 誰だよマリアってよ……!! 俺はそんな神の子を産むほど聖女じゃねーよ……!!」
「君は君で怒りすぎだなぁ」
「怒られてやんの」
「ぶち殺すからなお前!!」
「きゃー」
俺は悪人とか情けない奴が人間の為に動き出す瞬間が堪らなくイケるんだぜ