第四話 歩幅
「ほんとにもういいんすか。いやいや、ダメだろ普通に考えて……」
「もういいんだよ〜。俺はねぇ、人間じゃないんだよ。あんな事になったのが君だったら死んでたけど、俺だったから死ななかったね」
「いやでも、痛かったでしょ……」
「…………」
「痛くなかったの……?」
「どーっちだ」
天獄が言うと、少年はムッとした。
「からかって。俺は、心配してんのに」
「大人はね、子供からかうのさ」
「せいぜい離れて三つくらいでしょう。年齢だって。だから、子どもなんて言わないでくださいよ」
「君、年齢は?」
「満十六です」
「俺は満にじゅういちー。単純に、五つ離れてるね。とても、とても離れてるぜー」
「五つなんて、些細な差ですよ?」
天獄が急に歩き始めたので、慌てて少年もついていく。病院に連れて行ったほうが良いと思ったのだろう、ずっと頑張って小走りでついてくる。ほんの少し鬱陶しいなと細目で思いながらも、ふわふわ笑って誤魔化し、天獄は大股でリズムよく歩く。
「俺が五歳の時、君は生まれていないかゼロ歳だよー。これはねぇ、立派に大きい年の差だねぇ。だから、君は子供で俺は大人だねー」
「意地悪ばかり言うんだもんな……!! あと、俺……『君』じゃなくて……」
「なんだい?」
「呼び名ですよ。祭さん」
「なんで名を知るのかな」
「最初に自己紹介したでしょう!? ほんと、ボケーっとしてんなって思ってたけど、なんも聞いてなかったんすね!!」
少年は怒ったような顔を作って、天獄の後ろからようやく言った。
「俺は、佐々木夏輝です!」
「良いお名前だねぇ。子供を愛している名前だ」
「あなたのフルネームを教えなさって!」
「祭、でいいよ」
「いや、だから……後で困るかもしれないでしょ……ちょっと……歩くな!! 立ち止まれバカタレ!」
夏輝は、なかば悲鳴のように小さく叫ぶ。
しかたないねーと、天獄は観念した。
「祭天獄」
「てんごく……天国? すごい名前じゃないですか」
「天に、地獄の獄だよ。名付け親の母曰く……」
言いそうになって、辞める。
「それはまた、もし仲良くなれたら話すぜー」
「じゃあ多分一生聞けませんよ!」
「へへへ、いいね! 言ってくれるじゃない」