第一話 孤独
高校を卒業してすぐに、両親が離婚して、「俺はどちら側につこうか」と悩んだところで、奇しくも両親がどちらも一日違いで自殺したので天涯孤独でタジタジ。
祭天獄はそういう過去を持つ男だった。だからといって、なにか特別な思想があるわけではなく、ただなんとなく「みんな幸せに生きる世界になってほしいなあ」と思ったりしているだけだった。
なんだかドライなようにも思えるが、いまの彼にはこれで精一杯なところがあったのだ。
まず誰にも頼れない状況で、生きていくにもやっとなのに、その原因を作った人間に対して何を思えば良いのか。
父と母を恨む事で、なんとか正気を保たねばならなかった。
父方の祖父母も母方の祖父母も曰く「子供がいたなんて分からなかったや〜」と怠けたクソみたいな口をきく。
責任を取るのから必死で逃げているみたいで腹立たしい。
(まぁ、怒ったところでなんにもならないから、こうして日々をアルバイトで費やしているんだよな。マジ心身休まらねーな。数週間休みとって夏休みなんてのをしたいぜ……)
高校を卒業してよかったなと思うところは、基本的に自分の金は自分で使えるというところ。生活費やらその他もろもろにかかる費用を引くと浪費可能額は千五百円程度だが、だとしたとろこで、得も不得もなく、せいぜい資格習得のための教本を買う程度だし、するとひとつ宵を過ごせば消えるくらいの小銭しか残らない。これがよくないなと思ったところ。
(バイト複数掛け持ちしてこれって、俺の身体どこまで使えんの? 俺、マジに壊れちゃうよな……)
当面はアルバイトをして資格を取り、その資格を手綱にして何処かの企業に就職でもしたい──というのをメインに据えている。
「祭くん。この子、新しいね、バイトの子。いろいろ教えてあげてね、頼むよ」
「ウィッス」
店長自らがつれてきたのは、どうやら高校生らしい。この歳で一年生になったのだから、まだ十五歳か十六歳なのだろうなと細目で分析し、「よろしくー」と気怠げに挨拶。高校生の方も、「どうも」と返答。
「祭さんは、何歳なんですか」
「ハタチだぜー」
「大学生とかですか」
「んにゃ、高卒アルバイター。君はこんなんになっちゃアいけないよー。楽しくないからねー。友達とかもあんまり増えないしねー。大学はいいぞー、大学行くとねぇ、人に話しかけるだけで友達たくさんできる」
「そうっすか」
「そうだよー」
「行きたいっす、大学」
「いいね! おーえんしてる」
つるつる滑るプラスチックのボールみたいな会話をしながら、ふたりはレジに立っていた。
なんてことのない、水曜日。最近流行りの感染病で客は少なくとも、忙しなく暇はそこに居座った。
「帰ったら、うがい手洗い、ちゃんとしなよー」
「うす」
「人は死んだら切ないからね」