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無表情の先輩に溺愛されて逃げれません〜オリヴァーサイド〜

作者: 松尾吏桜


先日、学園一の人気を誇るヨハンが1人の女生徒を庇い女生徒達は動揺していた。


卒倒する者も出る最中、当の本人達がただならぬ様子で個室から出てくる姿まで捉えられ全校生徒に激震が走った。



「………記憶を消し去りたい」



調理室では渦中の人物であるイルマは廃人と化していた。その理由は連日ぶつけられる嫉妬や妬みの籠った視線、それから聞こえてくる噂話に疲労困憊だ。



ガラガラ――

その時、調理室に1人の男子生徒が入ってくる。



「人の噂も75日。暫くの我慢だよ」

「オリヴァー先輩」

 


つい最近、調理部に入部してきた変わり者の先輩。

前髪が長く顔半分は隠れて見えないが、料理上手な上に性格も穏やかで癒し系だ。


 

『クラスメイトに料理するって知られるのは恥ずかしいんだ。窓閉めていいかな?』



以前は開けていた3年生の校舎側の窓を開けたくないと申告され、先輩が入部してからは閉じたままにしている。



( ヨハン先輩がいる教室側だったから丁度よかった )



ピサノ達の元へ行くため調理したホットサンドをバケットに詰める。準備している際に視線を感じ隣を見れば、無言で此方を見つめるオリヴァーと目があった。



「先輩?」

「……本当はどう思ってるの?」

「何がですか?」

「ヨハンの事」



……………………………沈黙。



ビックリした。

噂話等に興味なさそうな人物が急に核心ついてくると人は思考停止するらしい。


「先輩……興味があったんですね」

「まあね」

 


どう思ってるか?なんて……

そんなのこっちが聞きたい。



「……秘密です」




――――



「秘密だって」

「……お前……余計な真似をするな」

「別にいいじゃん。俺も知りたくてさ」



オリヴァーが髪を掻き上げると、整った顔が姿を現す。

 

彼はヨハンの親友で4人組の1人。

イルマが他の女生徒達から調理の邪魔をされないように姿を眩まして入部したのだった。



「俺は趣味の料理が静かに出来るし、ヨハンは大切なイルマちゃんに護衛が付いたも同然。一石二鳥じゃないか」

「……お前な」

 

「というか、いいの?イルマちゃんとっくに行ったけど」



そう言われ、ヨハンは勢いよく調理室を駆け出して行く。

負担はクールな姿しか見せない親友の新たな一面に、オリヴァーは爆笑して見送った。



☆☆☆



遡ること数が月前――



「ヨハン?また見てるの?」

 

ヨハンの席は窓際にある。

真面目な彼は今まで外の景色を眺める事など無かったのに

ここ最近、夕方の課外授業の時間になると窓の外をよく眺めていた。


 

「……見ていると、此方まで嬉しい気持ちになる」



目元を和らげ微笑むヨハンなど過去に数回しか見たことない。珍しいものを見た驚きでオリヴァーも目線の先に興味を持った。


 

窓の外に見えるのは向かいの校舎にある調理室。

3年が課外授業をしている間、後輩達は部活動に励んでいる。調理部は人気がなく部員は1名のみと聞く。



「彼女がたった1人の調理部?」

「……ああ」



調理室の窓は開放されており、3年の教室からでも作業している姿がよく見える。



歌でも唄いながらやっているのか本当に楽しそうだ。

そのうち良い香りは此方まで漂ってきて、勉強で疲れた体には甘い誘惑に感じた。



気になり始めたオリヴァーは、ヨハンの後ろの席にわざわざ移動してきて同様に眺め始めた。



( 確かに……見てるだけでマイナスイオン効果だな)



楽しくもない課外授業が、いつしか楽しみの時間へと変化していった。



だが、ある日のこと――



「あれ?……あれってピサノ先生じゃないか?」

「……」



課外授業が終わった直後に調理室を見ると、変人扱いされている教師と調理部の女生徒が楽しそうにしていた。


2人は出来上がったばかりの料理をバケットに詰めると、何処に向かうのか……並んで廊下を進んで行った。



( 意外だな……変人のピサノ先生が楽しそうにするとは)



あの変わり者が心許す位だから性格も良い子なのだろう。

考え事をしていると隣に居たヨハンが急に立ち上がり、あっという間に教室を出て行ってしまう。



「……へ?」



隣の教室も授業が終わりマークとカリストが教室を訪れた際には、1人置いてきぼりになったオリヴァーが呆気にとられ固まっていた。


「お〜い。何してるんだ?帰ろうぜ」

「1人?ヨハンはどうしたの?」



その日を境に、ヨハンは課外授業を終えると足早に何処かへ向かう様になる。



無表情な事に変わりないのだが、放課後が近付くとソワソワとした雰囲気が漏れ出ている為オリヴァーだけでなくクラスメイト達もヨハンが何処へ向かうか気になっていた。



騒動があった日の放課後。

いつものよう帰り支度をしていると、ヨハンが出て行った後ろを女生徒が一人ついて行く姿が見えた。



周りで騒いでいる女生徒達も、ヨハンは騒々しいのは嫌いと周知の事実。尾行する者などいないと油断していた。



「まずい……追いかけよう!」



親友の初恋を誰一人として邪魔されたくない。

そんな思いで3人は走るが、もれなく後ろから女生徒達も追いかけてきてしまう。



裏庭まで来ると先程の女生徒が温室へと入って行く姿。

大勢で後を追いかけて結局は邪魔にならないかと葛藤したが、あのヨハンが適切な対応をするとは思えなかった。



結局――


ヨハンは温室から出て行った後、調理部の女生徒と2人で特別室から出てきた。


その場面に偶然居合わせた男子生徒が言う話ではヨハンと目が合った時、女生徒を引き寄せ頭にキスを落とした……と。



この噂で何人の女生徒が卒倒したことか。



☆☆☆



「はぁ〜……笑いすぎてお腹痛い」



オリヴァーは一人、調理室の戸締りの確認をしながら楽しそうに呟く。



「ヨハン。初恋は――実らないものだろ?」



ヨハンは気付いていない。


 

オリヴァーも同じだけ調理室を眺め、イルマに心惹かれていたことを……。



自分の初恋を邪魔する一人が、まさか親友とは――



※※※

ヨハンサイドの前にオリヴァーサイドを投稿します。

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