第84話 『今年も始まります、スカイレース!』
毎日、朝の8時台に投稿予定
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『いいんです? 始めますよー!』
食堂のところどころから聞こえてくる声。
『どこから?』『ここからか!』
第一声では戸惑っていた面々も、次第に気づき始める。それが自分達の、眼の前に置かれた機石装置からも発せられていることに。
渡されたリガートを覗き込むと――そこには、ウェルミ先輩とヤーン先輩の姿が映し出されていた。これまでの静止画ではなく、なめらかに動く動画。しかも音声付きである。
――機石カメラときて、機石ビデオまであるなんてなぁ。
シャンブレーで、ルルル先輩と道具について話すこともあった。もちろん、機石カメラについても。曰く、常に眠り続けている魔物が、レンズを通して見た映像を記憶するのだとか。機石の魔力はその餌に使われるらしい。
……道具として使われる魔物も難儀なもんだ。
共生と言えば聞こえはいいんだろうけど。
要は、原理は同じで記憶させる映像が、一瞬だけ切り取られたものか、ある程度の時間のものかの違いなんだろう。
とはいえ、剣と魔法の世界には些かオーバーテクノロジー気味な代物なんじゃなかろうか。自分は少し驚いた程度で済んだけど、他の面々は?
テレビを初めて見た人よろしく、『箱の中に人がいる!?』というベターな反応を期待していたのだけれど――
「わーなにこれっ!? 欲しい!」
始めにリガートを持ってきた時と同じぐらい――いや、それ以上の俊敏さで、アリエスが箱を手にとっていた。驚きの方向性がちと違うらしい。なんというか……好奇心? 機石魔法師の性というやつなのか。
「や、まだ試しに作ってもらったものだからね? 持っていくのはちょっと……。とりあえず、それじゃ続きが観れないから置いて置いて」
「あっ……。す、すいません……」
ぐるぐるとリガートをひっくり返したりしながら、あれやこれやと、どんな構造なのか興味津々に眺め回すアリエスだった。――が、見かねたルルル先輩に諌められ、申し訳なさそうにそれを返す。
「あはは、ごめんねー」
「――――」
この場にヤーン先輩がいるということは、リアルタイムで撮っているものではない。そうなると――
「いつ撮ったものなんです?」
「私達が学外に出ていた間に撮ったものだって」
なるほど、と思いながら、先輩たちの解説が始まったのを眺める。
『――あぁ、はい! 今年も始まります、スカイレース! 進行はわたくし! 機石魔法科二年ウェルミ・ブレイズエッジと――?』
『魂使魔法科三年、ヤーン・ライルズが務めるよ』
あの人本当になんでも仕切りたがるんだな……。ヤーン先輩は前回と同様、半ば無理矢理に付き合わされている感じがしていた。どうやらルルル先輩がつい先日まで出ていたため、代わりに出演を余儀なくされたらしい。
『少し前の学生大会の件でもそうですが、今年からこうして大々的に任されたのは喜ばしいことです! 張り切っちゃいますからね!』
ウェルミ・ブレイズエッジ先輩……ほとんど交流はないけども、とりあえず何にでも首を突っ込みたがるのだけは分かる。司会進行を務めておいて、準決勝まで残るような生徒だからな。目立ちたがり、ここに極まれりである。
きっと卒業するまで、ずっとイベントに顔出すんだろうなぁ……。
「……流石に今回は参加してこないですよね?」
「あはは……流石に飛べないからね。大丈夫だと思うけど……」
あくまで『思うけど』と断定していないところが少し怖い。あんまり交流はないけど、あのウェルミ先輩だもんなぁ……。妖精が乗り込んで魔法を噴射するあの剣、学生大会の時の炎の超噴射を見た後なので、頑張れば飛びかねない気がするから尚更だった。
『それじゃあ皆さん、準備はいいかなー? ルールは簡単! この学園の敷地内に用意しているコースを、ぐるっと一周してくるだけ!』
『……だけって言っても、その敷地自体がかなり広いんだけどね』
そう言って、ヤーン先輩が手書きのコース図をカメラに向けた。レースは自然区の入り口から少し入った場所を、スタート地点にするらしい。シンプルだけども、要所を抑えた分かりやすい図だった。
コースは大まかに三つのブロックに分かれていた。
まずはスタート地点を抜けて平地を軽く走り、コースが二つに分かれる。ぐるっと回り道になるが、障害物の無い平地部分を進むか――もしくは、再び森の中を真っ直ぐに突っ切って、大幅なショートカットを狙うか。
「アリエスさんは、どちらの道に行くつもりなんです?」
「んー……。私は常に最短の道を選ぶかなー。きっと回り道してる余裕なんてないだろうから」
一応、コースの案内が出るらしいから、流石に誰かが行方不明になったりすることはないとは言っているけど――
それからも洞窟を抜けたり、湖の上を抜けたりと怪しさ満々のブロックが待ち構えているらしい。そっちの方も回り道を選べるらしいが、タイムロスは避けられないだろう。
『参加資格は“空を飛べる人”! 飛行魔法、機石装置、ゴゥレム、翼にホウキ、魔物に飛空艇! 飛べればなんでもアリ!』
『なんと、今回も優勝者に学園長から賞品が出るそうだよ』
学園長から賞品、という言葉に先輩が小さく『やった!』と漏らす。ここまでは先輩が予想していた通りの展開である。そうなれば、やはり狙うは第一位、優勝しかない。
流石に今回は、キリカ・ミーズィのように化物じみた奴はいない。
……と思いたい。いないよな?
「あの……」
「……んー?」
「今回の優勝候補は……」
「あー、それは――取材に行った時のためにとっておかないとね」
『ね♪』じゃない。ウキウキ感が内心からにじみ出てるぞ。
こちとら、本気で優勝を狙わないといけないってのに。
『あとですね! 体当たり的な接触は仕方ないのですが、他の選手への過剰な妨害行為はダメなのでお気をつけて! 攻撃魔法なんて撃ったら、私が叩き落としますからね!』
「……実況が飛び出してきちゃ駄目だろ」
でも本気でやりかねないところが怖い。
『えー、失格の条件はですね、地面に身体の一部でも触れた場合。また、コース上から外れてしまった場合となります!』
『そうそう簡単にはコースから外れないよう配慮していると学園長も言ってたけど、目印をよく確認しながら進んでいってね』
ヤーン先輩の説明によると、どうやら等間隔にコース誘導用のリガートが浮いているらしい。今回は機石魔法科の生徒が多数バックアップに回るよう予定しているようで、依頼という形を募集をかけるんだとか。
『そうそう、このままだと魔力的に機石魔法師や魂使魔法師が有利ということで、当日参加者には、魔力の消費を抑えるための腕輪の貸し出しを行うんだって、太っ腹ぁ! 私も一つもらっていいかな? 参加しないけど』
「魔力の消費を抑える腕輪って、凄くねぇか?」
「むしろ、それが賞品になってもおかしくないだろ」
俗に言うMP消費半減だとか、言うなればそんな装備アイテム。魔法使いならば喉から手が出る程欲しいものなのではないだろうか。それを参加者全員に渡すとなると、いよいよもってこの学園がヤバい気がしてきた。
『…………』
ほらみろ。ヤーン先輩もまさかのとんでもアイテム登場に、言葉を失ってる。
『ヤーン先輩も欲しかったりしますー? 流石に学内でしか使えないって言ってたんですけどね!』
「学内でしか使えないのかよ……」
「んー、なにか仕掛けがあるから、そんなぶっ飛んだことができるんだろうね」
「そうそう旨い話もないってことだろうな」
それでも十分に凄いけれど。
授業でそれ使えば、かなり役に立つと思うんだけどなぁ。
『“試合が終わったらしっかり回収する”そうです! 無くさないように注意してくださいねー! もちろん! 返却せずに所持しているのを見つけたら、厳、罰、対、象だそうです!』
とまで言ったところで、ルール説明も一通り終わったらしい。
画面の中の先輩たちが手を振ったところで、映像が薄れていく。
『以上! ウェルミ・ブレイズエッジと!!』
『ヤーン・ライルズでした』
「はい、回収するよー」
「ちゃんと返してくださいねー! 壊してないですよねー?」
手際よくヤーン先輩がこちらへと回ってくる。ウェルミ先輩がいないので、説明の補助をしていた先輩に何気なく尋ねてみる。
「自分が話している姿を見るのってどんな感じなんですか?」
「んー、魔法のときとは少し違うかな」
あぁ、そういえば先輩には“あの魔法”があったな……。
ヌイグルミに憑依してるのか、視界を共有しているのか、詳しくはどうなっているか分からないけれど、自分とは別の視点から自分の姿を見るのは初めてなんだろう。
「僕は運営側だから事前に教えてもらったんだけど、レース大会の時にも“これ”が活躍するらしいよ」
というわけで、どうやらこれも試験を兼ねての使用だったらしい。カメラを使うということは、ゴール時の写真判定か? それとも各ポイントに設置して、監視カメラとして使うのだろうか。
なにはともあれ、あちらこちらで準備が進んでいるのだなぁと感心する。
「みんながこれだけ頑張ってるんだからさ、私も絶対参加しないとだね」
どうやら、このルール説明会が良い刺激になったらしく、鼻息荒くするアリエス。モチベーション高くして、ロアーの修理に取り掛かりに行ったのだった。




