第82話 『お金じゃ解決しないこともあるのー!!』
毎日、朝の8時台に投稿予定
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「……このレースがどうかしたんですか?」
「“スカイ”レース、ね。“空を飛べるヒト”限定の」
チラシにはデカデカと『パンドラ・ガーデン スカイレース大会!』と書かれていた。確かに空を飛んでいる魔法使いの絵の下には、小さくそんな説明が書いてある。普通に走るよりは、空を飛んだ方が魔法使いっぽくはあるけど……。
『ここだけの話なんだけど……』と声を潜める先輩。
「まだ確定じゃないけど――私は学生大会の時みたいに、学園長から賞品が出るんじゃないかと思ってるのよね」
「その手があった! そうと決まれば、優勝目指して頑張ろうぜ!」
あの時の賞品が、“コレクションの中から、なんでも一つ”というものだったし(結局キリカは食べ放題券を選んだけど)、あの学園長ならば宝石一つくらいポンと出してくれるかもしれない。
……けれども、もっと根本的な部分に問題がある。
「で、誰が出るんですか?」
「…………」
沈黙の中、四人で顔を見合わせる。
そこでようやくルルル先輩も気づいてくれたようで、苦笑いをしていた。
「あー……そういえば誰も飛行魔法使えないんだっけ?」
「そうですね……どうしましょう……」
『せっかくの魔法の世界なんだから』と思い、一度試したことはある。――が、やはり細かい調整が必要で肌に合わない気がしたし。空を飛べたらいろいろ便利ではあるだろうけど、戦闘中にそれが役に立つのかと言われると、素直には頷けなかった。
この身体を活かしての撹乱が、今の自分のスタイルなわけで。地面に足が付いていないと思うと、どうにも不安なのだ。逆に遠距離からの攻撃の的になりかねないし。
それじゃあ自分以外の面子はどうなのかというと――ハナさんは言わずもがなだろう。妖精魔法を詠唱ナシで使えるとはいっても、術者自身が激しく立ち回ることはないし、それが合っているとも思えない。
ヒューゴの火力はまさにそれらしくはあるが、あれで空を飛ぶというよりは、打ち上げられた後の起動修正ぐらいのもの。一瞬、常に両手両足から炎を噴射して飛ぶ姿を想像したけれど、あまりに無茶があるだろう。
「……残念ですけど、やっぱり無理みたいです」
「ふっふっふ……」
これ以上、他に案が無いようならば解散するぞ。といった空気になったところでアリエスが一人怪しく笑っていた。
「…………?」
どうしたのだろう。気でも触れたのか? これ以上頭のおかしい奴が増えるのは勘弁してほしい。こちらのキャパシティはとうに限界だ。
ヒューゴとハナさんはどうやら何か知っている風だったけど、何も言わない。……もしかして、自分のいない間に何かあったのだろうか。
「私が一肌脱ぐ時がきたんじゃない!?」
「アリエスちゃん、飛べたの?」
自信たっぷりに言い放つアリエスに、先輩も目を丸くする。
自分も初耳なんだけど、いつの間にそんなこと出来るように?
――いや、違うか。きっと、“例の拾い物”のことだ。
「もしかして、機石バイクが直ったのか?」
「ま、まだだけど……」
「おい」
『あはは……』とポリポリと頬を掻くアリエス。
こっちの目を見て返事をしやがれ。
「ちゃんと直すから問題ナシだって!」
しかしまぁ、どうしたものか。絵に描いた餅。取らぬ狸の皮算用とは、まさにこのこと。結局、参加すらできない状況じゃねぇか。
そりゃあ、そう簡単に直る物でもないのは分かっているつもりだけどさ。
「金なら十分に入ったって言ってなかったか」
「世の中にはお金じゃ解決しないこともあるのー!!」
「――ともあれ、これを御覧ください! じゃーん!!」
アリエスに促され向かったのは、グループ室の地下。訓練部屋にあったのは、すっかりピカピカに磨かれた機石バイクだった。アリエスがかけていたシートを剥がすなり、姿を表したそれに先輩も自分も目を奪われた。
『おおおー』と声を上げ、パシャパシャと機石カメラで撮り始める先輩。興奮してしまうのも仕方ない、自分も少しカッコいいと思ってしまったし。
初めて見た時と変わらぬ流線型のフォルム。本来のバイクならばタイヤのある部分には、機石が入っているであろう球体パーツ。ジード先輩の円盤だって機石の力で浮いているらしいし、別におかしいこととは思わない。
燃料は魔力らしいが、燃費の方はどうなのだろう。見た目は重たそうだし、数十メートル走ったら体中の魔力が無くなってしまうとか。
「新品同然じゃないか」新品を見たことないけど。
「見た目だけね。中身もまだ一部が壊れたままになっててさ。少し型が古いこともあって、直せないままでいるの。せめて設計図だとか、仕様書とかがあれば違うんだけど……」
部品が足りなかったら他で代用しなければならないし、そうなると機石の方も調整を加えなければならないらしい。一応は乗り物なので、バランスが重要ということだろうか。
「先輩……その大会まで、あとどれくらいでしたっけ」
「準備の進み具合にもよるけど……だいたい四十日ぐらいなんじゃない?」
「四十日……」
長いような、短いような。それだけの期間で、上手くいく当てのない修理がどうにかなるものなのだろうか。それにバイクに乗るのだって、それなりに練習する必要があるだろう。兎にも角にも、アリエスの腕を信じるしかない。
「まともに乗れるようになるまで、どれぐらいかかる?」
「二十日は欲しいかなぁ……修理の方は、なんとかそれまでに終わらせるから。それだけあれば時間も余るぐらいだし、なんとかなるって!」
……どっからその自信が湧いてくるんだろうか。とはいえ、これまでも合間合間に修理をしているのを見ていたわけだし、決してアリエスの意志を無下にするつもりもない。本人が参加して優勝するつもりなのだから、自分もできるだけバックアップに付いておいた方がいいだろう。
「必要なものとかは?」
「ぜーんぜん。テイルがいない間に、ハナちゃんとヒューゴにもいろいろ手伝ってもらってたし」
自慢げに胸を張るヒューゴと、うふふと笑うハナさん。部品関係を、というよりは磨き粉だったり潤滑油だったりをヒューゴが。お茶やお菓子などの差し入れをハナさんが、という形だったらしい。
「そうか……」
そうなると、自分にできることも無いだろう。まさかアリエスより、機石の機構に強いわけもないし。アリエスが現状お手上げならば見守る他ない。
「うんうん。まだまだ時間に余裕はあることだし。しばらくはアリエスちゃんも機石バイクに集中しないとだし? それなら引き続き、テイルくん借りていくね」
「そうですね……。……いや、なんで?」
ごくごく自然な流れで、自分が連れて行かれる話になっていた。思わず返事をしてしまいそうになったけどちょっと待ってほしい。
「今の今帰ってきたばかりなんですけど」
「情報を求める人たちは、待ってはくれないのよ!」
まぁた裏で賭博している奴等の判断材料になるんだな……。
いつでも依頼してくれとは言ったが、こちらにも都合というものがある。
そもそも、自分がそれをやる必要がどこにあるのか。
「他の参加者の情報とか知っておきたくないの?」
「ぐぬぬ……」
学生大会の時にはトーナメントだったこともあり、事前に情報があったからといって特に有効利用できなかったんだよなぁ。
けれども、今回のレースは参加者全員が同じコースを一斉スタート、いろいろと戦略も練っておく必要がある気もしないでもない。確かに、本気で優勝を取りにいくなら、知っておいて損はないだろう。
実にもっともな理由な気もするけども……。
なんだか先輩に、自分の思考の天秤をぐらぐらと揺さぶられている気がした。
「もう少ししたらこれも貼り出されるし、ちゃんとしたルール説明もあると思うから。それから参加しそうな人に取材する予定ね」
損益を考えて唸る自分をよそに――先輩は『今年も面白くなりそうだわ!』と、なにやら書きこんだ手帳をパタンと閉じたのだった。




