第167話 『戦いてェから戦ってんだ!』
毎日、朝の8時台に投稿予定
たまに大幅にずれる可能性があるので、ブクマ推奨です
自然区の大森林の中、木々が薙ぎ倒されポッカリと空いた空間での空中戦。ハナさんの魔法によって、追っ手を叩き落とそうと揺れる枝々。軽々と上下に躱しながら、一方的に追い続けていたミル姉さん。そんな彼女の動きが悪くなったのが、ほんの数秒前のこと。
今では完全に空中に固定されていた。
「テメェの仕業だな……アリエス・レネイトォ……!」
「私みたいなのからは、目を離しちゃ駄目ってこと……!」
双方笑顔で話しているが、どう見たってそんな状況じゃあない。ふと目についたのは、まるで不自然に辺りに散らばっていた機石装置の数々。
「ハナちゃんの魔法を避けるのに、上下に動いてくれたおかげで――簡単に沢山の糸が絡んでくれたわ」
「糸……?」
自分とムラサキが木々の間で戦っている間に、アリエスが仕掛けていたのは糸?
注意深く見ても、ただミル姉さんが浮かんでいるようにしか見えない。が、魔力探知の魔法を使うと――。辺りに、細い細い魔力の糸が張り巡らされているのが見えた。そしてそのうちの数十本――いや、何十本がミル姉さんの身体に絡まっている。
「なるほどなァ……器用に隙間を縫って飛んでたってわけかい」
「……あんまりこういうのは自分の性に合ってないんだけどね。他人から借りたアイデア、みたいなものだし――」
これだけ手の込んだ罠……なんとなく、誰のことを言っているのか分かった。こういった小狡い方法で仕掛けるといったら、同学科のエレン・ガゼットが印象に強い。まぁ、少し前に絡まれたからなんだけども。
それに――糸。糸の使い方といえば……ヤーン先輩だ。
今、この瞬間に自由を奪われているのは、ルルル先輩でもアリエスでもなく、ミル姉さんただ一人。グルグル巻き、とまではいかなくとも十分な効果を発揮していた。
「こんなもんで……!」
「一本一本は簡単に千切れるほど弱いものでも……。幾重もの束になれば、簡単には切れないほどの強靭さを持つ!」
ギリギリという音が、少し離れたここまで聞こえてくる気がした。
やばい……少しずつ動きが――
「やっぱり駄目か……。まぁそうなるよね。それじゃあとっておきの――っ!?」
「――ずっと縛り付けていられると思うほうが――どうかしてんだよォ!!」
――と思った次の瞬間には、弾けるように左腕が動く。
「アリエスさんっ!!」
「……捕まえたぞ」
腕を捕まれ、逃げられない。
ロアーまでもが、その場に固定されて。
「てめぇらも道連れになっとけ。嫌なら止めることだな」
今の一瞬でミル姉さんの身体に取り付けられた、小型の機石装置。機石に足だけ生やしたような、そんなシンプルなものだったが――。それがなんだか、怪しい魔法光を放っている。
「――――っ!」
幾つもの魔法の糸に絡め取られて、身動きが取れないミル姉さんと。そんな彼女に掴まれて、逃げられないでいるアリエス。振りほどこうとしても、びくともしないらしい。
「無駄無駄無駄ァ――! さぁ、どうすんだ!!」
機石銃から至近距離で何発も撃ち込まれて、それでもミル姉さんはものともしない。何をしても効果がない。――やがて、アリエスは『はぁー』とため息を吐いて。
「……ハナちゃん。着地はしっかりとね!」
「え――」
とんと押され、ハナさんの身体が機石バイクから滑り落ちる。
――おい、おいおいおい! 俺もヒューゴも遠い場所だぞ。誰が受け止めんだ……!! と、思った次の瞬間には魔法でなんとか着地を済ませて。
それを確認して、アリエスの声は不敵に満ちていた。
「……ミル姉さんさえ動けなくなれば合格間違いないもの。多少の傷みなんて、安いものでしょっ! それに……一度起動したら止まらないしね。あはは……」
……これまでにも何度か見た光だ。また爆発すんのかよっ!!
至近距離で何発も魔力弾を撃ち込んでも、ミル姉さんがその手を離す様子はない。ハナさんは避難させたからといって――このままじゃ、アリエスが爆発に巻き込まれてしまう……!
「……ハッ。こんなもんで動けなくなるとも限らねぇがなァ」
「イチかバチかは嫌いじゃないの。だって――大概は良い結果で終わるもの」
にっかりと笑うその表情に、仄かな色をした水色の魔法光が激しく当たって。次の瞬間には、ミル姉さんを中心にして大爆発が起きていた。空気がビリビリと震え、木の枝という枝が大きく揺れる。
「アリエスっ――!」
こちらの方に吹っ飛んでくるっ!
「くっ……!」
……今度こそは手が届く! 木にぶつかり、遠くへ飛ばされなかったのが功を奏した。ボロボロになって落ちてくるアリエスを前に、なんとか走り出すことができた。
まだ腕に痺れが残っている。それでも、手を伸ばせ……!
二歩、三歩と走り、なんとか受け止めて。その重さを、両の腕でしっかりと支える。ぐったりとはしている。意識はあるのか。ドクン、ドクンと不安で心臓が脈打っていた。
「おい……! 死んじゃいねぇよな……!?」
「……ハァ……ハァ……――」
息は……していた。安心に大きくため息を吐く。
開始から何時間が経っているんだ? あとどれぐらいで終わる? ヴァレリア先輩はここに現れるのか? 今いる人数で、今の状態で、魔物から身を守るだけなら十分保つ筈。合格は決まったも同然。
誰しもが終わったと思った――筈だった。
「さぁて……あらかた動けないようになったみてぇだなァ……」」
「まさか……! まだ戦えんのかよ……!!」
ところどころから、煙が出ていた。
今まで見たことのないぐらいに、ボロボロだった。
それでも――左腕は健在。
機石装置から離れた位置にあったからか。
――まだ、驚異は去っていない。……去っていない。
……無茶だ。こんなのはもう――!
「どうして……こんなに無理をしてまで戦うんですかっ!?」
「ハナさん……?」
誰もが絶句していた。その中で叫んだのは、またしてもハナさんだった。
「もう……みんなボロボロじゃないですか……! 止めてください……! これ以上続けて何になるんです!?」
今は戦いの最中だ。『ナニを言ってんだ』と、ミル姉さんは笑う。
いまや暴走機関車のように、煙を吹きながら。
「戦いてェから戦ってんだ! 戦わせてェから戦ってんだ!! 戦うことに意味があンだ! ボロボロになったその経験を、積み重ねることがっ! 戦いに身を置く奴の命を延ばしてくんだ!」
どう考えても個人的な、無茶苦茶なスパルタ理論である。ミル姉さんの強さを見る限り、あながち否定できないのかもしれない。強くなるため。強者であるが故なのかもしれない。
だけれど、それで死にかけても本末転倒。できることなら、これで終わりにしてほしい。ハナさんの叫びにも、同感だった。だが――終わらない。許されない。
「テメェも戦うまで終わらねぇぞォ! ハナ・トルタッ!」
ハナさんが叫んだ。目の前で起こる理不尽に、不条理に。
力だけが物を言う、そんな場所の中心で。
「もう――私の"仲間”を傷つけないでくださいっ!!!」




