第156話 『お前に構ってる暇は』
毎日、朝の8時台に投稿予定
たまに大幅にずれる可能性があるので、ブクマ推奨です
※昨日の投稿を忘れていたので、本日の正午にもう一話投稿します
広大な自然区の中でのサバイバル訓練。凶暴な魔物も生息しているらしいし、一人でいるだけでもかなり危険なわけで。合流したいのは山々なのだけれど、連絡方法なんて準備しているわけがない。どうしろってんだよ。
開幕から予想外の展開に頭を抱えたくなる。
せめて音の聞こえる範囲にいれば、こっちから向かうんだが……。いくら周囲の様子を探ってみても、手がかりが掴める気がしない。小型の魔物の気配ばかりで、人の声なんて全くだった。
……慣れない地形。危険度が未知数の魔物。
そして自分達と同様に、学園で戦う技術を学んできた生徒たち。
懸念事項は山ほどある。なにより、スタートラインに立てないまま終わるのが一番マズい。最優先事項は、四人で揃って体勢を整えることだ。そのためには、多少の危険も冒す必要があるだろう。
こうやって全力で移動し続けているのもそうだ。
最悪、誰かに見つかったとしても自分なら十分逃げ切れる。
「……頼むから、誰も見つかってくれるなよ……!」
現状、あのヒューゴがどデカい火柱を上げてないだけでも奇跡的だ。訓練開始直前に『炎魔法もバンバン使って大丈夫!』みたいなことを言われていたから、なおのこと心配だったのだけれど。
――とにかく、誰でもいいから近くにいないか。最優先は機動力の無いハナさんだけれども……。アリエスならロアーで逃げ回り続けるだろうし、ヒューゴだって本気を出せば大半の奴なら返り討ちにできるだろう。……正面きって戦いさえすれば。
絡め手なんかで来られると滅法弱いタイプだからなぁ……。と不安になりながら走り続けて。そうして数分が経過したときだった。
「――っ!」
不意に視界の端に、淡く光るものが飛び出したのが見えた。
慌てて急ブレーキ。飛び退いて、その正体不明の物体を確認する。
敵の攻撃なら逃げる必要があるし、そうでないなら――
「こいつは……ハナさんの妖精か?」
敵意が無いことを確認して近づいてみると、どこか見覚えのある姿。妖精に詳しいわけじゃないけれど、多少は見分けがつくようになってんだな俺も。
妖精の方は、こちらが気付いたことを理解して、上下左右にゆらゆらと大きく揺れている。ハナさんの気配は全くないし、どうやら何か指示を受けて妖精だけがこうやって目の前までやって来たのだろう。
「……そっちにハナさんがいるのか?」
「――――」
会話はできないけれど、縦にぶんぶんと揺れたことからも、きっと肯定なんだろうなと推測する。ハナさんが自分の位置を捕捉して、妖精を連絡に寄越したのか。自分の進んでいた方から見て、だいたい九時の方向。……なるほど、そっちか。
「なんて心強いんだろうな――」
驚くべきは、訓練の開始から今までの短い時間での対応力。ハナさんも一人に違いないのに、最高の一手をここで出してきてくれた。やっぱり彼女だって、今までの経験で成長している。ハナさんだって、確実に変わってきているんだ。
恐らく、ヒューゴとアリエスにも同様に妖精を飛ばしているに違いない。どこのグループよりもいち早く集まれば、これは大きなアドバンテージになるはず。……今回の訓練――間違いなくハナさんがキーだ。
敵味方全ての位置まで把握しているのかは分からない。けれども、彼女にとってはホームグランドも同然。そう簡単に見つかることはないだろう。
――早く、早く、早く。
妖精を傍らに連れながら、全速力で駆け出した。
「っ! 人影……!?」
見つかっても撒けばいいと思っていたのもある。というのは言い訳で、気付いてたけども、避ける前に見つかってしまったというのが正しいだろう。
「――なに、アンタ」
「お前は――」
ピンク色の髪の毛、そこからちょこんと伸びた短い角。たしか訓練の説明の時に質問をしてた生徒――アリエスのクラスメイトのエレンって奴だった。
「確か去年、アルル先輩に引っ付いてた人だよね? ということは、アリエスさんの友達かな。……私と戦うつもりなの? 別にどっちだっていいけど」
『あのエレンって子……ちょっと苦手なんだよね』
過去に聞いたアリエスの言葉を思い出す。相手の出方を窺ってはいるけれども、どうにも友好的には済む予感がしない。
――向こうも一人。ここで戦って、ライバルを減らすか?
「…………」
……嫌な予感がするというか、首筋がもぞもぞとする。
『関わり合いになるな』と、自分の直感が告げていた。ルルル先輩には懐いていたように見えたが、特に他人に対して好き嫌いを言わないアリエスが、唯一苦手だと言っていたし。
「魔物や他の生徒に狙われる前に、仲間と合流した方がいいんじゃないか? お互いここで戦っても得なんてない気がするけどな」
「どうしようと私の勝手だし、何が得かを決めるのも私。誰かに命令されるのって嫌いなんだよね。別にウィム以外の二人なんて、私は興味ないしー」
こちらの表情を観察しながら、クスクスと笑うエレン。どうしてこんなに余裕なのか。一人なのはあっちも同じ。それなら、まず一番に自分の身を心配するはずなのに。……やっぱりどこかズレている印象を感じる。
「四人のうちの誰かが残ってれば合格なんでしょ? なら、それぞれが勝手に頑張ればいいじゃない。ねぇ? それより――アンタ、妖精魔法師じゃなかったよね。……ふぅん、なるほど」
ハナさんの妖精を指さして、なにやら納得したように頷く。
「つまり――あっちにアンタの仲間がいるんだ。へー」
「――――っ」
――勘づかれた。嫌なところで察しのいい。
こちらの反応を見て、自分の考えが合っていることを確信したときの表情。こちらの不安を煽ろうとしているのがありありと見て取れた。
「この先にいるのは誰なんだろうね。自分でも言ってたよね、合流した方がいいって。焦っているのかなー? ……じゃあ――」
跳ねるように高い声。心配しているように聞こえるのは表面上だけ。
「――ここは通してあげなーい」
「……チッ」
アリエスが『あまり得意なタイプじゃない』と言っていた、その意味が――うっすらとだが、分かった気がした。自分の実益なんてものは無視して行動するタイプなんだろう。
試合に負けて勝負に勝った、みたいな。
自分の中での目的が、まるっきり別のところで決まっているタイプだ。
「通りたかったら、無理やり通っちゃえば?」
こういうのは正面から戦おうとするのは、決まってなにかあるときだ。相手にすればするほどドツボに嵌るに違いなかった。この余裕の態度といい、間違いなく何かを仕掛けている。
「……そうか。なら仕方ない――」
ゆらりと構え、しっかりと地面を踏みしめ――
「――じゃあなっ」
「なっ……!」
そして、反対方向の茂みの中へ飛び込んだ。エレンに背を向けて逃げ出したのだ。……付き合ってられるか!
「待てぇー! 敵前逃亡っー!!」
「こっちは、お前に構ってる暇は無いんだよ……!」
少し時間を食ってしまうけれど、下手に絡まれては更に時間を浪費するだけだ。アリエスから以前に聞いた情報によれば、あれも機石魔道士である以上は機石装置を使っているらしい。
「設置式ってやつだったよな、たしか……」
設置式。アリエスも細かいところまでは把握できていないが、主に自動銃座だったり、トラップだったりが多いらしい。あのまま飛び込んでも、こちらの方が押し切れるだろうが……。どうせ、地雷原のように罠だらけだったに違いない。余計なダメージを負いたくないし、妥当な判断だった。
……敵前逃亡? なんとでも言えばいいさ。




