第151話 『死なない為に訓練すんだろ!』
毎日、朝の8時台に投稿予定
たまに大幅にずれる可能性があるので、ブクマ推奨です
「やっぱりよぉ、ここは連携だって連携!」
落ち込み気味のハナさんとは対照的に、ヒューゴは有頂天だった。有頂天、まさにこの言葉が一番しっくりくる。新【真実の羽根】に書かれた評価でそれなりに悪くなかったから、なんだけども――別に優勝したわけでもないのに、いいのかそれで。
……ハナさんの件は伝えてないから、仕方ないことなのだけれど。
「そうと決まれば特訓に行こうぜっ!」
「行こうぜって、どこにだよ……」
すっかりと持ち上げられてしまって。それなら期待に応えるしかないだろ、と先日からなにやら熱心にしていたヒューゴが、今日の朝イチにそんなことを言っていた。
「決まってるだろ! 先に行くから、お前らも早くこいよ!」
走り出したヒューゴを追うようにして、グループ塔を出て、中庭を横切って。どこに向かうのかと聞いても、『一つしかないだろ!』とマトモな答えは返ってこない。浮かれているとホント周りが見えないというか、単純バカというか。
もちろん、アリエスとハナさんは少し遅れて付いてきている。先頭を走るヒューゴと女性陣の間をキープしておかないと。
「あのバカ、少しは待ちなさいって……!」
「ど、どこに向かっているんでしょう? このままだと、ヒューゴさんがはぐれてしまいます……!」
……いや、この方向からして、だいたい予想はついてきた。
北西にある自然区へと向かう道。その途中には――?
嫌な予感が頭をよぎった。
「――おい、ヒューゴ」
自分の判断が正しければ、ヒューゴがそろそろ速度を落とすだろう。――案の定そうなった。ヒューゴに追いついたのはいいが、目の前に誰か居る。
「あ゛ぁ……? 全員勢揃いで来るのは初めてじゃないか、お前らァ……」
「ひぇっ……」
「うわぁ……」
自然区の手前に用意された、小型闘技場の上。倒れた石柱に腰掛けていた人物。特別訓練講師としているミル姉さんが、こちらを見つけてゆっくりと立ち上がっていた。
――暴れん坊。戦鬼。破壊者。いつだって戦う相手を探しているような狂戦士が、目をギラギラさせながらコチラを見ている。
血の色を帯びたような真丸の紅い双眸と、鱶のようなギザギザの歯。
髪は短めの金髪に、服は黒いゴスロリドレスのようなもの。
こんなナリでも、学園の中ではトップクラスに強い。
なんたって全身兵器の機石人形。伊達に講師に選ばれていない。
強い相手と戦うのが一番の修行だと、そう言われることもあるけどさ。相手を考えろという話しで。自分もいくらかミル姉さんに鍛えられている節もあるし、そりゃあ効果があるのも理解している。でも――
「四対一か? いいなァ、血が滾る。まぁ、血液なんて流れてねぇが」
「今日こそは勝たせてもらうぜ! ミル姉さん!」
「人数が増えたぐらいで勝つ気だなんて、舐められたもんだなァ、オイ……!」
ミル姉さんの、この性格からして。そして、四人を相手にするという状況からして。向こうも手加減一切なしでくるに違いなかった。
「ちょっと……本当にやるつもりなの?」
「もうここまで来たんだ。だったらやるしかないだろ……」
なんだか断れそうな雰囲気じゃないしなぁ……。
逃げでもしたら、死ぬまで追ってきそうだ。
「集団戦ってのは、まだマトモに教えてなかったかもしれねぇなァ……。――あぁ、やろう! 今すぐやろう!! 全員上がってこォい!!」
「ハナさん……大丈夫か?」
「……私も、頑張ってみます」
まさかまさかのミル姉さんを相手にしての戦闘訓練。いままでだって、四人で連携を取りながら戦ったことは何度もある。その時のようにやればいいだけだ。
「――……あれ?」
あちこちに石柱の転がる闘技場に上がり、戦闘態勢に入っているミル姉さんを見て、ぼんやりと違和感を覚えた。……なんだろう、これは。
「装備が……殆ど無くなってる?」
肘の刃だったら既に出しているはずだし、両腕から魔力を打ち出すために機石を装填する様子もない。もしかして手加減か? それならそれで、ありがたいのだけれど。
「あの馬鹿野郎に没収されたんだよォ……! タマの取り合いのねェ戦いなんて、退屈以外の何物でもないってのに! なぁ! そうだろうが!!」
「く、訓練で殺されるわけにもいかないしな……」
わりと冗談抜きで、一定のラインを越えたら殺しにかかってくるからな。
まだ死んでないからいいとはいえ、正直やめてほしいところではある。
……学園長、グッジョブ。たまにはいいことするな。
「死なない為に訓練すんだろ! 死ぬ気でやって、死なないようにすんだろがァ!」
「言ってることが無茶苦茶だぁ!?」
そこで死んでしまえば元も子もない気がするけど……。
いくら蘇生の方法があるからといってもあんまりだ。
「――まァ、武器が無かったとしても、だ。テメェらヒヨッコの集まりじゃ、私に勝つことなんて出来ねェが。格上との戦い方、身体が覚えるまでみっちりやるぞ。オラ、位置に付いたらさっさと始めろよォ!」
そうして、ミル姉さんの咆哮(?)と共に訓練が始まる。
……とはいえ、まずいの一番に自分が飛び込むことからだけども。
――全力で。真剣勝負として、取り組む。
全力で越えなければいけない壁であることは間違いないのだから。
今まで戦った何よりも、誰よりも強いものとして置く。
「ふっ――」
ナイフでの攻撃が通らなくてもいい。当たりさえすれば、そこから魔力を叩きつけるだけ。なんだけども――
「なっ……!?」
「開幕から振りが大きい……。反応できない程の速度でもねェ」
器用に右手の爪でナイフを挟まれていた。
力の流れを止められ、魔力で吹き飛ばすことができない。
「リグ・ミット、イン・ディジェクトォ!」
「――テメェも。そういう詠唱は相手に聞こえないタイミングでするもんだぜ。まともに受けるのが危険だと、馬鹿でも分かる」
背後からのヒューゴの攻撃を難なく避けて。そのまま鎚の柄を踏みつけた。地面に激突した鎚の頭が爆発を起こし、闘技場の一部を砕いて陥没させる。
――まただ。まともに受けずに流した。
表面上の荒々しさからは全く窺えない、この丁寧な戦い方。状況を素早く、適切に判断するこの圧倒的なまでの戦闘の経験値。死角からの攻撃も、全く見ずに受け流すほどの反射神経、そして体捌きの技術。
一対多数の戦闘の立ち回りは、クロエと戦った時によく見ているけども――毎度目を疑いたくなる。今は装備をあらかた外しているけども、それでも決定打を与えるには程遠い。
「――今だっ! ハナさん!」
「はいっ!」
「はいじゃあないんだよ、はいじゃあよォ……!」
ハナさんの妖精魔法によって、地面から植物の幹やツタが湧き出てくる。これで相手を拘束するのが、いつもの流れだったが――
「うおっ!?」
「くっ……!?」
鎚を引き抜こうとしたところで解放され、よろけるヒューゴ。そこに自分も勢いよく投げ飛ばされる。足元から伸びていくツタも、軽やかに身を翻すミル姉さんを捕らえることができない。
速度も、量も足りない。簡単に捌き切られてしまう。
なにも無い所から生やそうとするにも限界があるか……。
「いちいち声かけあうのが連携だと思ってんじゃねぇだろうなァ!! 前衛が終わるの見て、はい後衛の出番です――だなんて、悠長なことしてんじゃねぇぞ!」
「つ、強ぇ……!」
――どうやら、戦闘はここからが本番らしい。
それまで様子見だったミル姉さんが、一転攻勢に出始めたのだった。




