第148話 『普通に戦えるといいけどなぁ』
毎日、朝の8時台に投稿予定
たまに大幅にずれる可能性があるので、ブクマ推奨です
「――グループでの訓練授業?」
「いちいち鸚鵡返しするんじゃない。アホに見えるぞ」
ヒューゴの素っ頓狂な声に、テイラー先生が酒瓶の底を向けながら、これまた今更な指摘をしていた。二年に上がってからたまにある、グループごとの短時間授業。その途中でのことだった。
あれだけドタバタしていた試験が終わって、数週間。これといって、目立った出来事が起こるわけでもなく。実に普通の学生らしく、科の授業に出たり、このグループでの授業に出たり。のんべんだらりとした生活を送っていたところで、『楽しい知らせを持ってきてやったぞ』と突然に告げられたのが、例のグループでの訓練授業についての話だった。
楽しくもなんともないんだけど。いらんお世話だった。
「ちなみに、だ。拒否権は無いからな?」
「うぇ……決定事項かよ……」
嫌な予感がした。果てしなく嫌な予感が。
だいたい定期的に学生大会だのスカイレースだの、大きな催し物が行われるのがこのパンドラ・ガーデンだけども……。驚くことに、一度も楽しいと思ったことがないぞ。どうなってんだこの学園。
「訓練っていったって……なにするの?」
「どうせ後から発表されるだろうが……まぁここで話しても問題は無いか」
とか言いながら、教室の戸棚の中から新しい酒瓶を取り出す先生。いつもの授業に使っている教室じゃないけれど、基本どこにでも隠し置いているらしい。
「自然区の“ヤバい”地域を使っての対抗戦。――というより、耐久訓練だな。指定した時間まで生き残ってたら晴れて合格だ」
「……生き残ってたら、とは……?」
「なんだ、もう穏やかじゃないんだが」
「あー。やだやだ、もう聞きたくなーい!」
レースの時も誰か巨大魚に喰われて死にかけていたし。
平常運転のはずなのに、死人が出る心配をしなきゃならないってなんだよ。
「生き残る力を試すものだからなぁ。失敗すりゃそりゃ死ぬだろ?」
「軽率に殺すなっ!」
やらされる身としては、堪ったもんじゃないぞ!
一応はフォローとして『ある程度実力のあるであろう、二、三年からしか参加できない』らしい。逆に言えば『一年程度の実力じゃ、ほぼ死ぬから』と言っているのと同じである。
……聞けば聞くほど出たくなるんだけど。
「あの……。いま、対抗戦ともおっしゃってましたけど……」
「そうそう、他のグループも出てくるの?」
「あぁ、参加するぞ。とはいえ、一度に出るのは数組程度だけどな。――ひっく」
人数としては四人一組。一年を除いてメンバーを確保できる組が少ないこともあり、寄せ集めの面子で参加する組もあるとか。
「そんなら最初っからグループ同士で戦った方がいいんじゃねぇか?」
「それか、個人個人でのサバイバルとか……」
「あー、なんだ。学園長が言うには、“とっておき”もあるらしい」
ヒューゴが言うように、グループ同士の総当たりやトーナメントでもいいと思う。なんでわざわざ自然区までいって、命を危険に晒さなければならないのか。その学園長の“とっておき”がなんであれ、メリットが感じられない。
「いいか? 倒す能力を見るんじゃない、生き残る能力を見るんだぞ。――っかー、美味いなぁ!」
まずは酒瓶を置いてくれませんかね。
「……グループでやるのにも意味がある。一人だけでは限界があることでも、協力すれば乗り越えられる。そうだろう、違うか?」
他人といることで発揮できる力もあれば、抑制しなければならない力もある。個人個人の戦闘能力よりも、数人での連携が試される。と、先生が言っていることは分かるものの、いまいち真剣みに欠けていた。
「もちろん、他のグループに攻撃を加えるのは全然アリだ。お前らにそんな余裕があれば、の話ではあるが」
『説明はこんなところだな』と大きく酒瓶を煽っていた。
学生大会の時はそのルール故に、学科で有利不利が決まってたりしていたし。まだ、こちらの方が戦略を練ったりできる点で平等なのかもしれない。グループ同士で潰し合うのも込みでのサバイバルなら、どこから狙うのかということも考えないといけないけど――
「別に俺たちなら楽勝だぜ! 何度も依頼も受けてるし、他のグループよりもすげぇ奴と戦ってきたし!」
「ははっ。まぁ、自身があるのはいいことだ。経験を自覚するのも大切なことだしな。自ずと自分の役割ってのも見えてくる。……まぁ、普通に戦えるといいけどなぁ――」
というのが、今回の発端の話――
「――ちっくしょう!!」
木々の隙間を縫って全速力で駆ける。
音を立てぬよう、誰にも見つからないよう。
自然区の中を、たった一人で駆け抜ける。
――あの笑みは、この先に起こることを予期してのことだろうか。
大混乱。大混戦。そして大波乱。
必死に森の中を駆け回る生徒たちを。
必死に襲い来る敵と戦う生徒の姿を。
グループ訓練……正直舐めていた……!
「この学園のイベントが……」
予想外の事態から始まり、混乱の中に立たされた状況での生存能力。
そして個人個人のいろいろな“しがらみ”であったり、因縁であったり。
それぞれに抱えているものがあって。
それは他人とぶつかることで、容易に爆発したり、形を変えたりする。
傍から見る分には面白いだろう。
しかし、自分達からすれば笑いごとじゃない。
「まともなわけが……なかったなぁっ!!」
――波乱に満ちたイベントの幕開けは。
始まる数日前から、既に兆しを見せていたのだった。




