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ひねくれ黒猫の異世界魔法学園ライフ  作者: Win-CL
2-1-3 黒翼ノ神使編 Ⅱ 【誰知烏之雌雄(たれかからすのしゆうをしらんや)】

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第133話 『――なんとでも言え』

毎日、朝の8時台に投稿予定

たまに大幅にずれる可能性があるので、ブクマ推奨です

「なんで……こんなところにっ……!」


 遠く離れた森で暮らしているはずの兄がいるのか。そこから学園まで、どれだけ離れているのかも、学園に来てまず一番に確認している。グロッグラーンが多少近い所にあるとはいえ、それでも馬車を使っても数日かかる距離だ。


 俺をここまで探しに来た? そんなまさか。


 そもそも大傷を負って崖から落ちたはずだ。

 あれで死んでいてもおかしくなかったってのに。


「――おっと、テメェらが誰かは知らねぇが……動くなよ?」


 ココさんたちを牽制しながら、その右手が首元に伸びる。一年の年月で傷は癒えども、痕は残っているらしい。決して滑り止めの役割だけではないであろう包帯の端が、風でゆらゆらと揺れていた。


「なんでって言ってたよなぁ……。さっぱり分からねぇか? シャンブレーのよぉ……! 商人の屋敷に忍び込んだのはお前だよなァ!!」

「っ!? なんでそれを――」


 シャンブレーの商人の屋敷っていえば、ルルル先輩との依頼で訪れた一つだけだ。誰に見つかることもなく、きっちりこなした筈なのに……!


「やっぱりテメェなんだな? ヒトの獲物を横取りしやがって……」

「ぐっ……!?」


 喉元を掴む手に力が込められる。

 やばい……このままでは、呼吸もままならない。


 そんな自分の苦しみなど全く意に介さないままに、耳元でネチネチと嘲るように笑うエクター。


「窓に小さな傷があった。あの手のやり方で鍵を開けるのはウチだけだ。もしかしたらと思ったんだが――ドンピシャだったな、バァカ」

「…………っ!」


 自分の技術を奮っただけなのに、それが仇となった形だった。――いや、そもそも、あれで足がつくだなんて誰が予想できた? 迂闊(うかつ)さを(わら)われながら、全身に冷や汗が伝うのを感じる。


「結局はお前は同じ家に産まれておいて、素人に毛が生えた程度の技術しかないってこった。頼むからもう生きていてくれるなよ。一族の技術を中途半端に撒き散らされちゃ、こっちがかなわねェ――」


 そうして首をへし折られるかと思ったその時だった。


「テイルっ――」

「あ゛ぁ? ――っ!?」


 ヒューゴの声に一瞬だけ気を取られた隙を見て、魔法を発動した。エクターのすぐ背後に現れた()()()()()。危険を察知したエクターの手が、ようやく自分の首から離れる。


 がら空きとなったその腹に、一撃を加えようとしたが――


「遅ぇなぁっ!!」


 素早い身のこなしで躱されてしまう。ミル姉さんとの特訓のときに教わったように、大振りはせず、最小限の動きで狙ったはずだったのに。完全に掠りもしなかった。


「……ゲホッ」


 辛うじて喉は潰されずに済んだ。


 目の前には、エクター・ブロンクスただ一人。こちらにはココさんと、ヒューゴ、アリエス、ハナさん。……一応、動けそうにもないけどトト先輩もいる。アリューゼさんは、教会に残してきたのだろうか。気にはなるけど――


「……どうする? 加勢した方がいいかしら?」

「いえ、俺の家のことです。ココさんは皆に被害が出ないようお願いします」


 ……こればっかりは他人に頼るわけにもいかない。俺の家のこと、俺がはっきりと断ち切らねばならぬこと。アリューゼさんのように、対象を縛り付けて離さない禍根というやつだ。


 倒すべき相手は、自分の兄。


「今やり返そうとしたのかよ? 生意気になったもんだなぁ、おい。その様子だと飯にありつけてるようだしなぁ。ガキがぞろぞろと集まって、仲良しごっこをしてりゃあ強くなった気もするかもなぁ――」

「――っ!?」


 言い終わらないうちに、ナイフを抜いてこちらの背後に回っていた。速度で言えば、殺す気満々のミル姉さんと同じかそれ以上。ギリギリ視認できて、反応するのがやっとなレベル。


 こちらが致命傷を受けないようにするのが精一杯。相手に致命傷を負わせるのなんて、夢のまた夢だ。


 あれだけ嫌ってた家だけど……今になって分かる。ただ単に、盗みや殺しをしてきただけじゃない。完全に裏社会に生きるもの、プロとしての生きる術だった。


 その実力だけは認めないといけない。

 目の前で対峙している相手を、正しく測らなければならない。


「くっ……」


 襲い来るナイフの、その一撃一撃に集中しながら弾く。合間に魔力を込めて撃ち込むが、特殊な受け方をしているのか、全く堪えた様子がない。分身を混ぜているにも関わらず、的確に捌いて反撃をしてくる。


「怯えながらコソコソ生きていればよかったのになァ!! 出来損ないが!!」


 クソみたいな兄なのは間違いないが、実力だけは確かだった。


 逃げずに“あそこ”で育ってきた結果がこれか……!


 自分のような貧相な身体では、耐えきれないと思っていた。いつか、自分が殺されてしまうと恐怖していた。こんな身体で生まれてきた俺が悪かったのか。ついていけない者が淘汰される、世界の摂理だったのか。


「素人に毛が生えた程度の落ちこぼれが! 俺たちの真似事をして! こうして一年後には殺される! 無駄に先延ばししただけだったじゃねぇか!! なぁ、そうだろう、テイル!!」


 それでも――自分にだって、過ごしてきた一年がある。


 魔法学園で学んできて。信頼できる仲間ができて。

 熟練の業を持つ先輩や教師に教わった経験がある。


「俺が過ごしてきた一年は……無駄じゃない!」

「抜かせ――」


 エクターの目が――瞳孔が――キュッと細くなる。

 さっきよりも力の入った一撃が、こめかみを掠めた。


「…………っ」


 恐らくミル姉さんよりも疾い。今まで出会った中では、全力時のキリカに匹敵する速度だった。周囲の薄暗さも相まって、周りからでは視認すらできないはず。


 必死に食いついてはいるものの、とうに自分の限界を超えていた。刃と刃がぶつかり、火花が網膜に残像を焼き付ける。だんだんと自分の息が上がっていくのが分かる。集中を切らさないようにするので精一杯だった。


 ――――。


 誰かが自分の名前を呼んでいる気がした。

 はっと気がついたときにはもう遅い。


「くっ!?」

「どこで覚えたのかは知らねぇが、舐めたマネをしてくれたよなぁ……!」


 ――不意打ちの足払い。


「あの時から決めてたんだぜ……?」


 体勢を崩され、次に飛んできた蹴りによって身体が浮く。重たい一撃だった。激しい痛みとともに、魔力をぶち込まれた時と同じレベルの衝撃が内臓を揺らした。


「付けてくれた傷はきっちり! 同じ方法で返してやるってなァ!!」


 その手に浮かんだのは、煌々と輝く魔法陣。描かれているのは極めてシンプルな魔法。魔力を高威力で打ち出す――自分がエクターに使ったのと同じもの。我流で覚えたのか、ところどころに粗が見えたが、無防備な自分を吹き飛ばすには十分なように見えた。


「テメェができることは、俺にだってできんだよォ!!」

「――――」


 ――やばい。空中じゃ避けることができない。


 目に映る何もかもが、スローになって。学園の出来事が次々と思い出されて。――これが走馬灯ってやつなのだろうか。こんな時に不思議だったのは、遡り、遡り、前世の記憶すらも再生されていたこと。


 ……笑えるよな、既に終わった人生だってのに。


 そのおかげというか、魔法が発動するまでのその数瞬が、とても長いように感じられて。まるで永遠かと思えるぐらいに静かな時間の中で、目の前の魔法陣の輝きが少し眩しいと考える余裕さえあった。


 ちくしょう、目が痛くなってきた。こんなに近くで魔法を撃つ奴がいるかよ。

 こんな――()()()()()()()()()()


『がむしゃらにやっていれば、今まで見えなかった世界が見えてくることもある』

「――――」


 ヴァレリア先輩の言葉が、ふいに頭をよぎる。


 ――気が付くと手を伸ばしていた。魔法陣へと手を触れていた。

 どうすればいいのか、身体が勝手に判断していた。


 あとは、意識を集中するだけ。


「――っ」


『〈レント〉』と、小さく呟く。それだけで十分だった。


「〈ブラス〉っ! ――……?」

「くっ……」 


 不発の魔法陣を空中に残したまま、自分は無事着地を果たす。勝利が決まりかけていただけに、エクターの動揺は明らかだった。


「発動しない……? なんで……――っ、何をしやがったァ!!」


 いくら吠えたところで、魔法陣に流し込んだ魔力が吐き出されることはない。陣の中をぐるぐると回っているだけだ。他でもない、()()()()()()()()


 一瞬の空白ののち、あれだけ余裕を滲ませていた表情が、驚愕から怒りへとみるみるうちに変わっていく。


「テメェ……。俺の魔法を盗みやがったな……?」

「――素人は……お前の方だったな……!」


 威力はエクター自身の魔力で十分に確保されている。あとは発動のスイッチを入れるだけ。


(きった)ねぇ魔法陣だ――」


 我流で覚えたが故に、雑な作りで。だからこそできたことだった。

 ()()()()()()()()()()()()()、ほんの少しだけの魔力を流し込む。そうすれば、あとは循環している魔力の出口を用意するだけでいい。


 そっくりそのまま、使わせてもらうぞ――


「――〈ブラス〉っ!!」


 魔法陣から放出された魔力の波動が、エクターの身体を吹き飛ばした。

挿絵(By みてみん)


ここまで読んで頂き大変感謝です。もしよろしければ、下部の☆欄にて現段階の期待度等の気持ちを表して頂けますと今後の励みとなります。沢山の人に読んでいただけるよう、皆さんの声や応援をどうかよろしくお願いします。

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